氷魔法と息子たちの旅立ち?
世界樹を失ったエルフ国の対処は早い。
何しろ死活問題である。
他国に知られる前に新たな世界樹を確保する必要がある。
予想される事態は世界樹の代替わりだった。
生まれ変わった若木であっても世界樹の魔力は膨大。となれば新たな世界樹が誕生した個所は急激な魔力の上昇に見舞われるはず。
エルフ国は秘密裏に世界のパワースポットを捜索する。
急激に魔力上昇の見られる土地に最強の戦力を投入するのだった。
国家としてのすべての財力をつぎこんでまで。
その結果やいかに?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『水魔法レベル8!』
レベル8は水魔法というか氷魔法だった。
氷が作成できる。
MPがもっていかれて相当キツいが、冷蔵庫風に氷同士を並べれば、魔法なしで維持可能だ。
イケス周囲の陣地(ここはもうお家と呼称していいんじゃないか?)に 魔樹を挟んで、温泉の反対側に地下室を掘る。
川の水の水温の低さもあって温度は低い。
氷をぶっ込んでおけば溶ける心配はなさそうだ。
氷から出る冷気を木枠に包んで、冷蔵庫の完成である。
これで食材の保存が可能になる。
特に、肉。
これまで腐敗を恐れて最小限にしていた狩猟を本格化させよう。
ヒャッハーと魔兎、魔狐、魔狸が森へ向かっていく。
「今日は焼肉だな」
メインは塩味か?
醤油、味噌の醸造にも挑戦したが、笑っちゃうくらいの出来。
かろうじて臭みはあるが魚醤がいけるか、くらいだった。それもトウガラシや、野菜と混ぜてだ。前世の味ははるか遠い。
魚の煮物を残して置き忘れたら、いい感じに腐敗しただけなんだけどwwww
結局、発酵食品は、広義の腐敗だ。
腐敗魔法でもなければ、地道に数をこなすしかない。
調味料関係だけでゆうに数年は挑戦が必要だろう。
あとは……お酒も欲しいなあ。
森周辺は食材の宝庫だけに頑張ってみようと思う。
「父上……」
「うん。そろそろか」
イケメンメダカだ。
そろそろ旅立とうというのである。
二期生の育成も順調で、お家の警備も問題ないという。
俺としてはずっといてくれていいんだが、魔物時代の習慣か、散らばりたいようだ。
食料も豊富だし問題ないんだが。
「まあ。嫁の確保の問題もある。仕方ないか」
冗談めかして送り出すとしよう。
俺が将来征服する下界の調査……というアレはそれこそ冗談だと思う。
「今日はごちそうを用意する。出発前にくってけ」
「「「「はい!」」」」
メインの肉の前にサブの料理作りと行こう。
陶器の他に食べ残しの魔物の骨が重宝する。
バーベキューなどの焼き台座になってくれている。
他は焼き石の上か?
木製の取り皿に冷蔵庫に保存しておいた煮物を取り出す。
香草に魚を包んで土の中に埋め、火をくべる。香草蒸し焼きだ。
残ってる食材をバーッと使い切る勢いで、今日は豪勢に行こう!
あとは卵か?
鳥の魔物は複数、家畜にしてあって卵は確保できるようになっている。
あくまで家畜。
眷属にしてしまうと、食べるのに躊躇するからな。
それでも俺以外の血は与えらえており、従順。逃げる心配はないのだった。
獲物は豚、牛の魔物だった。
「いや~食べたな」
「おいしかったですね~」
「もはや神の調理人の領域ですね」
最近、料理ばっかりしているな。
食材確保が一段落したせいもあるし、みんなの期待を感じるせいもあるか?
適材適所だしな。
うまいものを食って進化が早まればそれに越したことはない。
目指せ、女体化である!
笑いの後ろでメダカたちが名残惜しそうにしていた。
そろそろか?
せっかくだ。義理の親として一言言っておこう。
「絶対に死なず、生きて里帰りするように。勝利より、安全を優先。敗北は恥じゃない。生きてさえいれば丸儲けだ。そして嫁と子供を見せてくれ」
「「「「了解!」」」」
ビシイと敬礼。
笑うかと思ったが魔物たちは真面目である。
ヤベ。
泣きそう。
一か月くらいしか付き合ってないのにこれだ。
オスのメダカたちでさえ。
女の子チームは絶対別れられない、ケガなんてとんでもない。
みんな見た目は凶悪な姿だが、声なんてすごく可愛くて萌え~って感じなんである。
うん。
頑張って進化してもらうとしよう。
「お前たちも頑張れよ~」
ビシイ! ビシイ!
何度か振り返り敬礼を返しながら下流へ旅立っていく息子たち。
二期生(こちらも全員オス)もまた返礼を返すのであった。
旅立つと小雨が降りはじめた。
まるで俺の寂しさを表す涙雨? それは言い過ぎ?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
同日、夜。
魔界の魔の森。
水魔法使いの住む森である。
もっともこちらは端っこ、水魔法使いたちの暮らす中心部とは程遠い。
それでも人が侵入するにはあまりに厳しい場所、魔物の強さが半端ないのだ。
そんな魔の森の外れに一人のエルフの姿があった。
エルフの勇者と呼ばれる青年である。
世界樹の消失によりエルフは召喚魔法を失った。
対外的にはいまだ隠しているが、それは過去の栄光の遺産である魔道具を用いて、失われた召喚魔法を模しているに過ぎない。
使えば失う、伝家の宝刀。
強力な召喚術に頼りきりだったエルフ民の中で青年は例外。
人族と混じり悪の魔王の討伐に参加した過去もある。
エルフの苦手な剣術やその他の魔法にも優れた、彼は、真の勇者。
そんな彼には、現在の窮地は、エルフの傲慢が招いた自業自得と思う節もあるのだが……それでも争いとなれば、罪なき女子供も命を失う。
その一心で世界樹の捜索に参加したのである。
単身、魔界の森に挑めるのはエルフの中では彼くらいだろう。
「やはり森が活性化しているような……ん?」
ポツリと雨が降り始めた。
今日はここで一泊か、と木の上に登る青年。
彼が、怪しげな気配に目を覚ましたのは夜半のこと。
「何者だ?」
なかなかの使い手のようだが、かって魔王と戦った勇者にスキはない。
気配探知された気配の主に、もはや打つ手はないだろう……
ブサッ!
……そんなわけはなかった。
(お、おんなの影……)
最後にエルフの勇者が思ったのはそんな感情である。
確かにエルフの青年を屠ったのは黒い女の影。
どのような技を使ったのかまるで分らない。
「ふむ。この素体を使って腐敗魔法の実験といきますか。何せ旦那様のご希望ですし、何より旦那様の料理はとても美味しいの。ウフフ♡」
影が命ずると青年の死体がムクリと立ち上がった。
死して腐敗しながらなお歩を進める……ゾンビな魔物の誕生だった。
小雨が雨脚を強め、一向に止む気配もない。
エルフの民は彼らの勇者の死をまだ知らない……