魔兎が風魔法GET、これで四大属性コンプリ?
魔狸、魔狐の鍋用陶器作りの横で、俺はといえばのんびり木を削っている。
食器作りである。
ウォーターナイフの使い方もうまくなった。
魔魚も一緒。
バケツから尻尾を出し、先っちょのナイフで削る。
俺より上手なんじゃないか?
子供たちの訓練はイケメンメダカが仕切っているので問題ない。
もう充分に旅立てる実力はあるようだが、それでは防衛に支障が出る。
二度目の出産、二期生の成長を待って一期生は旅立ちだそうな。
「よし出来た」
一人手持無沙汰な魔兎がジト目で見ている。
いや獣人美少女ならそんな表情も可愛いいんだろうが、今の魔兎はただの凶悪な兎だし。
声は可愛いいんだけどね。
「ここにハチミツをよそってきて」
「わかりました」
シブシブだが従うのはハチミツを使った食材のうまさを承知だからである。
塩、砂糖だけじゃなく香辛料、コショウやトウガラシなんかもあった。
あとは陶器鍋が完成してガッツリ煮込めれば、よい煮込みが出来るんだろうけど。
魔兎の不満はわかっている。
魔法だ。
どうも自分だけ魔法が使えないように感じているんだ。
「実際は違うんだけどな」
「兎の魔法は身体強化。魔法を使っていると実感できないのでしょう」
「確かに兎パワーとウサ耳ソードではな。単にマッチョになっただけのようだ」
魔魚が言い、俺が答える。
あんな力持ちになる時点で魔法に決まってるんだが……実際食材採取に魔兎は重宝したんである。
水路の外側も探したので、当然魔魚をバケツに入れて連れていくことになる。
バケツを二個持ちでそっちに食材を入れる。
魔兎は力持ち。
コショウやトウガラシもそうしてGETしたものだ。
これでなかなか記憶力のいい魔兎は一度覚えたら間違えない。
有能なのだ。
力仕事、運送業に魔兎はかかせない。
この陣地(もはや領地か?)のインフラを一手に引き受けてるともいえる魔兎なんだが、確かに地味かも。
もっとこうカッコイイ魔法が使いたいんだろうな。
「「できました!」」
「ほう、いいじゃないか?」
そうこうしてるうちに陶器鍋が完成。
そりゃ、形はデコボコしてるが充分調理に使える完成度だ。
ここ数日の失敗を乗り越え、よく頑張ったと思う。
二人の頭をナデナデ。
「ふええ~」
「嬉しいです、ご主人様」
可愛い。
うちの眷属は語尾とかないんだが声が可愛い。
そもそも獣人娘じゃなくガチの獣だから、語尾で属性アピールする必要がないんである。
美少女要素は声しかない。
それでもここ数日の温泉入浴でずいぶん奇麗にはなったんだけどな。
みためは凶暴な魔物のままだが。
「ただいま戻りました……ふう」
溜息な魔兎である。
また魔法で置いて行かれたと思っているんだろう、かといって料理は楽しみだ、怒るわけにもいかない、ジレンマ。
まあいい。
腹いっぱいになれば機嫌も直るだろ。
いきなり料理ではダメだ。下ごしらえ。
お魚のガラを使ったダシ汁は、塩、砂糖の二種類すでに出来ている。
これをグツグツ煮込む。
香辛料もあるが、今日はシンプルでいいか?
そこにお魚、根菜を投入。
煮つけ、煮しめである。
「そう。これだよ。これまではこの火加減が出せなかった」
木の鍋では燃えてしまって火加減の調整が出来ない。
ひたすらお湯に付け込むだけで沸騰させられなかった。
あとはお米を炊いたり、パンを焼いたり。
陶器作りに使った窯でパンも焼かせてもらうとしよう。
麦とコメは魔兎が収穫済みなんだが、調理のしようがなかったんである。
『水魔法レベル7!』
「おおっ今日は早いな!」
早くもレベル7。順調だ。
一度イメージをつかめば、焚火の火加減は魔狐にまかせられそう。
ちょっと暇が出来たな。
う~ん。どうしよう。
チラ見する魔兎の表情が見えた。
相変わらず凶悪な表情だが慣れると色々わかるものだな~。
仕方ないな。
料理が出来上がるまでつきあってやるとするか。
「ヒャッハ~、やりましたよご主人様~」
「ああうん。よかったな……」
現金なものでノリノリだ。
俺が魔兎に指導したのは、なんていうか、いわば風魔法?
魔兎がジャンプして飛ぶ空中に足場を創ったらどうか? と言ってみただけ。
実際、出来た。
「つーか出来るのはわかってたけど。魔兎、無自覚に空中で二弾ジャンプなんかしてたし。あんなの物理じゃ、無理」
魔法はイメージという。
魔兎には、空中に風(空気?)を固定して階段に使うという発想がなかった。
まあ、日本人でもないただの魔物じゃ異世界もののネット小説を読んだこともないんだ、仕方ないだろう。
そんな魔兎が無意識にやってる行動を見て、いけるな、ってふんでたというわけ。
やっと魔法っぽいカッコイイ魔法が使えて嬉しいらしく、俺の呼ぶ声も聞こえないみたいだ。
「仕方ない。魔魚、たのむ」
「おまかせ下さい、旦那様」
バシャ!
……はい、残念。
頑張った魔兎の空中登りよりもシンプルな魔魚の物理ジャンプの方が高く飛べたというわけ。
空気の階段が消失。
川面に落っこちていた。
魔法は目的じゃなく手段、最善の結果のために最適な魔法を選ぶべきだ。
地味でも有効なものはあるんだから。
バシャーン!
ぐぬぬ、といいながらもそれでも嬉しそうだ。
練習すれば色々できるようになるだろう。
魔法はイメージだから。そのイメージを魔兎はようやくつかむことが出来たというわけだ。
「うま! ご主人様神ですか! 神シェフですか!」
劇的に向上した料理はたいそう好評だった。
特訓を見守りながら、お米でも炊いてみるとしようかな?
炊飯器じゃない鍋炊き、最初から上手に行くとは思えないが、何事も練習だ。
「ううう。お腹いた。イダダダ……」
今度は魔魚。
食べ過ぎかと思ったが、これはアレだな。産卵?
眷属たちが……奥様ぁ、などと心配そうだが、大丈夫だろう、魔魚は前回も安産だったし。
「奥様、私がついていますよ」
「……いいから、いってらっしゃい。アダダ……」
というのも魔兎の口調があまりにも上の空だったからである。
本当は魔法の特訓が続けたいらしい。
こいつは最初の産卵も立ち会ってるしな。チョロいと思ってるんだろう。
そこは信頼感だ。
サーセン、と特訓に戻る魔兎。
高度上げに挑戦、バチャバチャと水面に落っこちまくる魔兎の立てる騒音の中、魔魚は出産(産卵)するはめに。
……俺?
俺はといえばぶっかけ精液用の栄養補給に余念がなかったよ。
だいぶ元気になってきた。
これならきっと大丈夫だろう。
俺たちの領地の日常はこんな風にいつもてんやわんやだ。