魔魚に積極的に求婚される?
「ご主人様愛しています!」
「喋った!」
どうも眷属となったことで魔魚が知能を持ったようだ。
普通にしゃべっている!
語尾にギョギョとついたりもしないようだ。
う~ん。ファンタジーっていってもめっちゃリアルな魚だしな~。アニメ調の可愛いお魚さんとかではまったくない。
生々しい。
ぶっちゃけまったく可愛くなかった。
「ぜひ、私の卵にご主人様の精液のぶっかけを!」
「やめれ」
「いやいや。そういうけどこれがなかなか~」
神様がノリノリで(脳内に念話で)説明してくれた。
ノリがいい。
というかずっと喋っている。
コミュ症の人見知りが心を許すとこんな感じになるものである。
勘弁してくれ。
水魔法はスゲ~と思ったがいきなりそれが精液魔法に派生して……しかもいうにことかいて……お魚の卵にぶっかけとかありえない!
「心配しなくても生まれる子供は全部オスだから」
「ご主人様に愛されるのは私だけで充分です。娘など不要」
魔魚はどうもヤンデレのようだった。
ツンデレ二人に続いてヤンデレか。やれやれだ。
神様の説明を要約すると……
「娘ならケガさせたくないだろうけど、息子なら別に死んでもいいでしょう? 息子たちを戦わせて、母親である魔魚ちゃんと父親な君がレベルUP! 労せずして魔力GET!」
だそうである。
ヒデー。
そうなんだけど理にかなっている。
俺の眷属となった魔魚が喋れるようになったくらいだ。息子たちも進化する。知能も持つ。
集団戦闘する魚の魔物の群れ。
水場では無敵である。
その力を魔魚がネズミ講方式で吸収、川と海を制すれば、ゆくゆくはリバイアサンになることも不可能ではないそうだ。
リバイアサンってなんだよと思ったが、すごく強い魔物らしい。
なんでも世界を滅ぼせるとか、世界の半分を制するとか。
シャレにならん。
まあ。それもつきつめればらしいが……
そこはつきつめなくてもいいと思う。
人魚くらいで。
「わかりました。ご主人様の命じるままに」
正直。これだけ好意を向けられると情もうつる。
性的な意味はまったくないが、眷属として魔魚の面倒を見ないわけにはいくまい。
「まずは陣地作りだ」
「ご主人様はツンデレですか?」
「違う」
知能を得たとはいえ、どこからそんな知識を得るんだ。
神様からなんだろうな、そうだろうな~。
知性を得たといっても魔魚はただのお魚である。
他のでかいヤツに食われたら寝覚めが悪い。
岩を動かして安全地帯を作ろうと思う。
ううう。
重くて動かん。
「ご主人様。頑張って~」
「ウォーターウォール!」
ばしゃあ!
適当に言ってみただけなんだが、水のバリアーが形成された。
川の水を利用している。
うむ。
レベル1ではいきなり水を生成したりはできないようだ。だがありものは使える。
ばしゃあ、と一瞬で壊れた。
MP不足?
ステータスが大雑把なんでそのへんが見えない。
これでは実用性がないようだ。
やむなく自力で岩を動かす。
ううう。
動いた。
これ、周囲の水が岩を動かしているみたいだ。
すぐにMP切れ。
頑張っているうちに回復する。
最初は岩一個が限界だったのが二個、三個と増えていく。
MP自体が少ないので回復も早いようだ。
魔魚を守る安全地帯のイケスが完成する。
「ご主人様、危ない!」
「え?」
俺の後ろに向けて魔魚が水のビームを発射する。
口から。
魔法である。
ウォーターカッターとでもいうのだろうか?
ぷか~とお魚が浮かんだ。
これで食事もGET。
え~と。
「火魔法は無理だから」
神様が言った。
あ~うん。
何となくそんな感じはしてた。
火をつけるのは自力である。というか物理。
神様がいてくれて助かる。
やり方を教わり、めっちゃサバイバルっぽい火つけ。
テキト~な木を持ってきてゴリゴリすり合わせるのだが……
ううむ。
まるで火がつかん。
「ご主人様、こちらに」
魔魚が尻尾から水のナイフを突き出した。ウォーターナイフ?
水だが、もう物理的にナイフである。
けっこう長時間いける。
こいつの方がMPどっさりなんじゃないか?
それで木をゴリゴリ。
煙があがりはじめた。
「おおっ、やるな」
「ご主人様のためなら当然です」
やめれ。
情が移る。
着々と俺の好感度をGETしていく魔魚だが性的な意味はまったくないので間違えないで欲しい。
これはあくまで友情である。
串に刺して焼き魚に。
普通に魔魚も食った。
同族だが気にならないのだろうか?
「は? 魔物ごとき私たちの餌になれてシアワセというものでしょう」
そうらしかった。
その後しばらく狩り。
岩で作ったイケスの外で俺が水に足をつける。
ぶしゃあ、と水音。
肉食のお魚が俺を狙ってくる。
「ウォーターカッター!」
魔魚が射撃でぶったおす。
すごいスナイパーだった。
俺も狙うがまったく当たらん。
魚の他にカニ。
デカい。
こうしてみると魔魚はこのあたりの川の魔物としては小さいらしい。
「ウォーターボム!」
水中で爆発。
ぷかぷかと死体が浮かぶ。
これだけあれば食糧確保は大丈夫だろう。
ううむ。
これ、魔物を倒して魔魚がレベルUPしてるようだ。
おこぼれで俺もMPが上昇したのがわかる。
ウォーターウォールの形成時間が伸びている。5分くらい?
これならイケスの陣地を突破できる強敵が来ても魔魚を守れるだろう。その隙に攻撃してもらう。
当面は大丈夫か?
「ご主人様、お優しい」
いやいや。
今のところ攻撃手段がおまえしかないからな。
俺がディフェンス、おまえがオフェンスだ。
あと俺が餌か?
そこに性的な意味はまったくないので誤解しないように。
神様がまたおかしなことを(脳内に念話で)言い出した。
「まあ、獣姦に忌避感があるのはわかる。今度オナニーする時の精液を魔魚ちゃんに上げるといいよ」
「楽しみです」
ね~わ、と言いたいところだが生理現象だからな~。
いずれオナニー……はしなくとも夢精はさけられん。
その時に出ちゃった精液をやるのはしょうがないか……ううう。
他の魔物の魚をティムする手もあるが、魔魚の時のようにうまくいくとは限らない。餌役やってて思ったのだが、腕の一本位楽勝で持っていかれそうである。
そうそう簡単に眷属は増やせない。
正直、魔魚に情が移った部分もある(あくまで友情的な意味で)。
仕方ない、その時は覚悟するしかないだろう。
「やった~!」
ノリノリで狩りを続けようとする魔魚を止め、陣地の増強に。
岩の防壁を二重に。
これなら一層を突破されても二層に逃げる隙を作れる。
ところどころ岩の隙間があるので魔魚は神出鬼没に死角から攻撃可能。
俺がウォーターウォールで時間稼ぎ。
魔法の防壁を物理で突破できないのは確認済である。
このあたりの魔物で魔法が使えるのはいないらしい。
ならば充分な安全マージンだろう。
二重の防壁が完成したところで休憩である。
夕飯も焼き魚だが種類があるので飽きない。
川側の防御は完璧だろう。
「あとは森か?」
とりあえず今晩は魔魚を頼りに水辺で仮眠といこう。
森側はウオーターカッターで木をぶったおす。
そこそこの広さの広場が出来た。
例えばクマの魔物なんかが襲ってきてもいきなり食われる心配はない、というわけだ。
あとはアレだ。
魔魚が陸上を移動できれば、森側の攻略も容易になるんだが……
「神様、スライムみたいなのはいないの?」
「う~ん。そこまで手を貸すのはどうなんだろうね」
スライムをテイムできればそいつをプール代わりに魔魚を移動と考えたんだが、確かにそれもそうである。
今でも十分に手を貸してもらっている。
感謝しかないんだから。
プランBといくか。
ぶったおした木を削る。
魔魚同様のウォーターナイフである。
攻撃は気がそがれるが工作用なら問題ない。
魔魚が入れるくらいのバケツを作る。
「ふわわ~。ありがとうございます。ご主人様~。これでいつも一緒~」
「そうなんだが」
重い。
水一杯のバケツを抱えて動くのがしんどい。
MPはレベルUPしたが、身体強化はまだまだのようだ。
神様が言うには、体の中の血液の流れを操れば超人のような動きも可能だそうだが、それも極めればである。
徐々にということだろう。
まあ。
水辺周りに安全地帯が出来ただけラッキーというものだ。
俺一人では魔物一匹倒せなかったと思う。
そういう意味では魔魚との出会いは僥倖なのだ。
神様のサービスなんだろうが、ここから地道にレベル上げしていけばいいというものである。
「私が見張りますので、ご主人様はごゆっくり~」
ちなみに魔魚はバケツに入って森側の防衛。
川の方は二重の城壁があり、まず大丈夫。
いつの間にやら神様も帰宅(?)されたようで、二人っきりだ。
魔魚の求婚は続いているが、それも慣れた。
まあ。そのうちにオナニー(or夢精?)する段になったら精液を分けてあげるとしよう。
いずれ進化すれば人魚になれるというし。
ううう。
うやむやのうちに獣姦に押し切られてしまっている気がする。
そんなこんなで、いつの間にか眠ってしまったようだ……
ドカッ!
意表を突く大きな音に飛び起きたのは、完全に夢見心地になってからだった。
川側からの侵入?
「ご主人様、あぶないッ!」
魔魚がいなや、ウォーターカッターを放つが躱される。
態勢が悪すぎる。
木製のバケツがひっくり返され、地面にビチャビチャとはじけながらの射撃ではあたらない。
敵は、まず最初に魔魚のバケツを狙い(投石だ)、それから俺を仕留めるつもりらしい。
ちなみに魔魚が居眠りしていたのは当然だが、責められん。
森側からの侵入なら即、気がつき飛び起きたはず。
川側の城壁を砕かれても音で気が付く。
侵入者は川から城壁をジャンプで飛び越えて侵入したのだ。
兎?
大きさは普通の兎だった……なるほどこの大きさでは……大型の魔物なら物音で察知できただろうが、この大きさは想定外。
そしてこいつはただの兎じゃない。
俺がウォーターウォールを張る間もなく首に食いつく素早さと凶暴な牙を備えた、兎の魔物なのだった。
「ご主人様ッ!」
瞬間、魔魚が俺と兎の間に侵入してくる!
どうやって?
まるで瞬間移動でもしたような速度だ。
そんなことを考えている場合じゃない。
俺の首筋を狙っていた兎の魔物の牙が魔魚の体を切り裂き、ドバッ! と赤い血が零れだした。
「あ」
「……」
声も出せず、ベチャっと地面に落ちる、魔魚。
反撃?
それとも?
考えるまでもない。
『水魔法派生……治癒魔法レベル3!』
ははは。
レベル2を跳びこえていきなり3か。
それも当然だろう。
ウォーターウォールで兎の魔物を排除しながら、俺は全力で魔魚に治癒を施す。
レベル2で足りないなら3になればいい。
要は気合だ。
「ご主人様……」
「血が足りないな」
なんとか持ちこたえたようだが、こぼれ出た量が半端ない。
というか魚の致死量出血ってどんなだ?
お刺身にされてもお魚ってしばらく生きてるからな~魔魚の生命力に感謝ってところである。
そのパクパクする口に俺は指先を突き入れる。
「好きなだけ持ってけ……そして絶対死ぬな。これは命令だ」
そう。こいつはヤンデレだが俺はツンデレなのだ。
あ~あ。
デレちゃったよ。
獣姦は勘弁してくれよ。
これは一刻も早く人魚に進化してもらわないとな。
「ちゅ~ちゅっちゅ~♡」
それと魔魚さん?
一心不乱に吸い過ぎじゃないですかね?
しかし不思議なものだ。
血を吸われるほどに逆にレベルUPしていくよう、体の中に力がみなぎる。
『水魔法レベル2!』
パワーアップ完了だ。
さあ、ここから反撃開始である。
水の防壁に閉じ込められたうさぎちゃんに逃げ場はないのだ。
それはそれとして……
「チュッチュ~♡」
つーかどうみてももう治ってるよなおまえ。
魔魚の吸いつきはもはやどうみても性的なものに変わっているのだった。