水属性な神様とエロい魔法?
「なるほど。水属性の神様ですか?」
「そういうことだね」
口調は軽いし、姿は見えないが、重々しい存在だということは理解できた。
そこは神様だし。
俺の転生担当の神様は『水属性』らしいのである。
特に名前はないらしい。
神様だしな。
水属性全般の神様だ。
そんじょそこらの低級な神的存在とは違うのだろう。
なにせ四大属性だ。
そのうちの一つ『水』をとりしきる神様。
大物だな~。
「それほどでもないが」
「いえいえ。すごいっすよ」
とりあえず持ち上げておこうと思う。
お世辞で気分良くなってもらえばおまけのチート能力をもらえるかもしれないし。
「そういうのはナシ。あくまで水属性のみ。極振り。水属性を極める可能性は秘めてるとはいえるけど。君が転生する条件はそれになる」
ううう。
読まれていた。
念話……だろうか?
そもそも四大属性の一つを司る神様に隠し事など出来るはずがない。
お世辞やおべんちゃらはやめておいた方がよさそうだ。
いやでも。実際スゲ~なと思ってるのも本当なんですけどね!
神様が続ける。
「なのでハーレム展開も保証できない。実現するとしたら君自身の努力次第」
恥ずかしい。
本気でハーレム転生したいなんて思ったわけじゃないが、やはり頭の片隅にうかんでしまうものだ。
だってリアル異世界転生ですよ!
つい夢見てしまうのも仕方ないというものだ。
でも頭に思い浮かんだだけで口にしてないことで責められるのも酷である。
まあいい。
しかし水属性か~。
漠然と『水』言われるととらえどころがないものである。
土なら、ゴーレムやメイドロボ作り。
火なら、体を熱く燃やす媚薬効果。
風なら、パンチラぴら~、なんて能力が思い浮かぶのだが。
水はちょっと直接的でない。
「何? ひょっとして君、怒ってる?」
「いえいえそんなことないですよ。勝手に頭の中のエロ妄想を覗かれて逆切れなんてしてません!」
「気にすることないのに。人間はみんなエロいものでしょ」
「ですよね~」
意外とさばけた神様だった。
まあな。
確かに念話で人の心を読めるなら、この程度気にしてたらやってられんよね。
エロ談義は人間関係の潤滑油だ。
ハーレム妄想を看破された時点で隠すものもない、むしろ積極的にエロトークに寄せていこうと思う、俺である。
「やはり水属性と言えばローション! ぬるぬるなローションを自在にあやつり女性を私の愛撫の虜に!」
「まあ。いいんじゃない」
神様の姿が見えないのでさげすむ瞳が見えないのが幸いだった。
特に怒ってる感じではない。
「でも。いきなり異世界人の女性の肌にローションを塗るのは厳しいと思う。君に行ってもらう世界は結構リアル。そんなご都合のハーレム展開は無理。それに水属性も最初はレベル低い。極めればもちろん、君の言うようなローションプレイも自由自在だけど」
「失礼。悪ふざけが過ぎました」
「まあ。エロトークが潤滑油なのは賛同する。私も嫌いじゃないですよ」
「これはどうも」
まあ、人間関係を潤滑したいという俺の意志を読み取り、神様が気を使ってくれたようである。
しかしな~水属性か?
どんな使い方があるんだろう。
「たとえば敵の血液を操っていきなり即死攻撃とかできそうですよね?」
「あくまで極めればだけどね」
水属性……というのが漠然としているので、そんな攻撃方法が頭に浮かんだのだがそんな簡単でもないらしい。
言われてみれば、火魔法のファイアーボールなんかでもいきなり敵の体内で発生させられるなら同じことである。
風魔法のウインドカッターも同様。
土魔法=肉体操作という解釈でいきなり敵の体をグチャグチャ。
結局、極めれば大差ないような気もする。
そこに至るまでの地道なレベル上げに各属性ごとの個性が出る感じなんだろうか~、なんて予想する、俺。
そして。どうもその予想で正解らしかった。
「最初は人里離れた場所でレベル上げになると思う。水属性魔法を極めたあとなら人間社会でチートも不可能ではない」
なるほど。
納得だ。
いきなりローションぬるぬるになるはずがない。
序盤は地道な展開がお約束である。
人里離れた魔界の森かなんかか?
何せ、水だ。
真面目に農地でも作っていればおなかをすかせた魔物がやってきて眷属になってくれたりする、スローライフ展開などだろう。
可愛い女の子の登場はかなり先になってからだな。
う~む眷属はスライムなんかいいんじゃないだろうか?
スライムはぬるぬるだ。
ローション能力の強化にもつながりそうな気がする。
地道なレベル上げと将来のハーレム展開を両立するには、やはりスライムがいいんじゃないだろうか?
うん。そんな妄想に神様のリアクションは特になかった。
エロトークを混ぜたのが悪かったのだろうか?
そんな願望もちょっとはあるが、基本は真面目にやるつもりなんすけどね~。
嘘じゃないッスよ。
「ということで、どうする? 転生する? やめとく?」
「ぜひお願いします!」
まあ、アレだ。
謙虚な姿勢を見せておまけのチート能力をGETなんて作戦は失敗だったが(心を読まれてしまっては仕方がない)、転生自体に異論はない。
水属性というのも漠然としているが、悪くないと思う、なにせ四大属性だ。
つきつめれば最強の水魔法使いになれるかもしれないし。
つきつめられればだが……。
とりあえず火魔法、風魔法、土魔法の使い手とはなかよくしようと思う、俺だった。
そりゃ水の神様がいるんだ。
他の属性の神様もいるだろう。
その神様たちが自分の配下を戦わせてゲームを楽しんでいないとも限らないし。
ふっふっふ。
その手には乗らん。
必殺のエロトークで、他の転生者となかよくなる所存!
「ん~、そこは無理に戦う必要はないけどね。君次第」
「とりあえず戦いは向いてないんでスローライフ志望ッスね」
嘘はついてない。
ついてもバレるし。
とまあ、アレだ。
そんなこんなのグダグダなチュートリアルを終え、俺は異世界に旅立つことになったんである。
お約束の剣と魔法のファンタジー世界らしい。
楽しみだ。
前世の思い出話は特にいらないと思う。
いらないよね?
かわりばえのしないごく普通の日本人の男が死後に異世界に転生する。
異世界美少女とのハーレムをGET出来るかは俺自身の努力次第。
悪くない。
というかベストと言ってもいい。
「ありがとう水属性の神様!」
分かれる前に直接言えや、って話であるが何せ俺の心の中なんて丸見えである。
恥ずかしい。
照れた。
そんな照れ隠しも兼ねたエロトークだったんである。
そういうことにしておいてくれ。
「とうっ!」
そんなこんなで降り立った異世界の大地。
テンション高く掛け声一発!
目の前に川と滝があった。
さすが水属性の神様だ、飲み水には困らなそうだ。
どうみても人里離れた山のどこか(どうせ魔界の魔の森とかそんなんだろう)な立地だが、気にしない。
転生したとなれば、最初にやるのはアレである。
お約束のステータスオープンだ! ……と思ったのだが、普通に頭の中に浮かんでくるものがある。
『水魔法……レベル1』
え。これだけ?
めっちゃ漠然としてるんですけど?
それ以外のHPとかMPとかさっぱりなんですけど。
「まさか水属性のレベル表示以外、ステータスの鑑定が出来ない仕様じゃないでしょうね?」
ありえる。
とにかく漠然とした神様だったしな。
つきつめれば……ばかりで、その過程がめっちゃふわっとしてたし、こんなことで水属性を突き詰められるんだろうか?
まあいい。
考えてもはじまらない。
下手うって死んでもどうということはない、元から死んでいたところが、予想外の延長戦。生きてるだけで丸儲けというものである。
それだけで水属性な神様に感謝してもし足りないというものだ。
本人には言えなかったけども、照れて。
「べ、別にツンデレじゃないんだからねっ!」
生き返ったせいか、妙にハイテンションだ。
体も軽いしな~。
何だか若返ったような気がする。
いや、どう見ても若返ってるよな、これ。
前世の実年齢についてはノーコメントだが、俺はウッキウキで自分の姿を確かめるべく、水辺へと向かった。
「おおっ! 確かに若返っておる!」
見た目はまんま若いころの俺でまったくイケメンではなかったけれども。
つーか地味。
クッ。
こんなんでハーレムが実現できるのだろうか?
よほどのチートまで上り詰めなくてはモテ要素がない気がする。
「ありがとう神様っ! 生き返らせてくれて!」
やけくそなわけじゃない。
そもそも水属性ONLYと言われていたじゃないか。
整形やイケメン転生なんて管轄外である。
土属性なら顔の整形も出来たのかなあ、なんて一瞬思うが、それも極めればだ。
この地味顔で人生を全うしたんだから、今度も大丈夫だろう。
ハーレムだけがすべてじゃない、自分に言い聞かせる。
「まあいい。喉が渇いた」
川の水は奇麗でおいしそうである。
水属性の神様が転移先に用意した場所の水、毒ってことはあるまい。
両手ですくう。
透明で冷たい。
ゴクリと飲み干した。
「うま!」
二杯目。
さすが水属性の神様。はんぱない名水ですね、なんて声は出なかった。
水面に差し入れた手の指先に激痛が走ったからである!
「イデデ!」
ナニコレ!
指先からドバ~と鮮血!
超血がでてるんすけど!
バシャっと水面をはじく音がした。
魚だ。
名水に気を取られて気が付かなったが川魚がいて……ていうかピラニア的な?……俺の指に食いついたようだった。
慌てて指先を押さえる。
止血である。
指が食いちぎられたってことはないが、かなりバックリ。
うわ~肉食の魔物(魔魚?)なんじゃねーの?
なんだよこの罠はよ~なんて神様を恨んでしまったが……すぐにそれは感謝に変わる。
「おおっ! 血が止まっている!」
かなりパックリいった傷跡からの鮮血が止まり、もう跡形もないくらいに。
水属性=血液も水と認識し操作できたようだ。
ここまでいくと治癒魔法みたいである。
他人に治癒をほどこせるかはわからんが現状でも自分自身の出血は何とかできそう。
脳裏にも……
『水魔法派生……治癒魔法レベル1』
なんてのが浮かぶ。
ステータス画面が見えるわけじゃないが確実だ!
とりあえず止血に関しては相当いけそうである。
さすがに試してみる気にはならんが。
魔魚に食われかけたときは痛かったし。
なんて思っていたら、脳裏にもう一個浮かぶ。
「へ?」
『水魔法派生……テイマースキル・レベル1』
ぱしゃん、なんて水音がして、さっき俺の指にくいついた魔魚が水面から顔を出していた。
何となくだが……俺の眷属になったのがわかる。
心で感じる。
こいつはさっき俺の指に食いつき(噛みちぎりそこなったが)、流れた血を飲んだ。
水魔法使いな俺は自分の血を操れる。
「その血を飲んだこいつをティムして眷属に出来るってことか!」
「ご名答~」
頭の中に神様の声。
「どう? 水魔法といってもやり方次第でいろいろできるでしょ?」
「すごいっス。神様、ありがとうございます!」
「そう素直に来られると落ち着かないね」
珍しく本音100%な感謝の言葉に神様が照れていらっしゃる。
いやいや。
ここは下ネタを挟む余地ないっスよ~。
転生即、治癒とモンスターテイマーのスキルGETするなんて水魔法の派生すごすぎじゃないですか?
つーかめっちゃ面白い、コレ!
もちろん極めるのには途方もない道のりを頑張らないとなんだろうが、その道のりが色々派生バラエティーに富んでめっちゃおもしろそう、モチベあがりまくりっすよ!
つーか、水魔法すごい!
そんな本音に照れた神様がおかしなことを言い出した。
「そこのお魚さんも極めれば君の望みのハーレムの一員になれるよ、人魚とか?」
「へ?」
「あとサービスに一個教えてあげよう。君の精液も水魔法で操れる。そこのお魚さんの産卵した卵にぶっかけると子供たちも眷属に!」
「いやいやそれは……」
他にも色々……ノリノリで語りかける神様(俺の脳内への念話だけど)。
どうも本音100%の感謝と水魔法への感嘆が嬉しかったらしい。
チョロすぎだろう。
どうも照れ屋でツンデレ体質なのは俺だけじゃなく、俺の転生担当の神様もそうだったらしい。
お似合いということか?
ふと視線を感じると……そこにはティムしたばかりの魔魚が熱い視線で俺を見つめているではないか?
こいつメスらしい。
いやいや。ないから。
獣姦とかないから。
お魚の卵にぶっかけとかありえないから!
魔魚(つきつめれば人魚に進化するらしい)は、今はまだただのお魚なのだ。
それも肉食だ!
今度は俺の違うところのお肉を狙っているとしか思えない(あきらかに性的な熱い視線)で魔魚が俺を見つめているッ!