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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ヒトコロハンマ―

作者: 田中
掲載日:2018/03/21

 少女は泣いていた。

 少女はおじさんに怒鳴られていた。

 少女はおじさんを喜ばせられない自分を責めていた。

 少女はおじさんが用事で外出したあともひとり泣いていた。

 そのとき前触れもなく、いつかテレビで見たような女の子が目の前に現れた。

 そして可愛らしい装飾のハンマーをかかげ、こう言った。

「これは人殺ヒトコロハンマー! 叩かれた人は真っ二つに割れて死ぬの!」

 そしてこう使うんだよとでも言うように、ハンマーをぶんぶん空振りした。


 少女は女の子が何を言っているのか理解できなかった。

 ただ女の子がハンマーを振っている様子が楽しそうで、だからきっとこれを振ればおじさんも喜んでくれるはずだと思った。

 少女は女の子からハンマーを受け取った。

 目の前に広がる可愛らしい装飾に、少女は思わず嬉しくなった。

 見た目通り軽く、中身はすかすかのようで、自分でも楽に振れそうだと少女は思った。

 そうして女の子と別れたあとスイングの練習をしながら、少女はおじさんの帰りを待った。


 そろそろおじさんが帰ってくるという時間になると、少女はいつものようにおじさんに言われた通りの準備をして、待機をした。

 ハンマーはおじさんに見つからないよう、テレビの後ろに隠した。

「さぷらいず」が喜ばれるというのも、いつかテレビで見た記憶があるのだ。

 少女はおじさんの帰りをそわそわしながら待った。


 おじさんが帰ってきた。

 少女はいつものようにおじさんを出迎えた。

 それからいつものことをいつも通りした。

 おじさんは機嫌が良いようだった。

 おじさんは上機嫌のままトイレに行った。

 この隙に、少女は隠していたハンマーを取り出した。

 そして部屋の入口脇に立ち、ハンマーを構えた。


 トイレを流す音がした。

 そして、おじさんが部屋に戻ってきた。

「おじさん!」

 少女はハンマーを力いっぱい振った。

 それはこつんとおじさんの足に当たった。

 おじさんは鈍い反応で少女を見下ろし、布団を蹴り退けるように少女を蹴とばそうとした。

 けれどその前におじさんの体が真っ二つに割れた。足は腰と一緒に床に落ちた。

 少女はわけがわからなかった。

 唖然としてただ、何かとんでもないことをしてしまったのかもしれないという感覚があった。

 少女は混乱のあまり部屋を飛び出した。


 少女は走って走った。

 あの場所から少しでも離れようと。

 怒られるようなことをしたらお仕置きをされる。

 あんなことをしたら一体どんなお仕置きが……!

 少女は恐ろしくてたまらなかった。

 今にもおじさんが走ってきて捕まえられるような気がした。

 だから走った。

 そうして気付いたら知らない場所にいた。


 知らない場所。

 ここまでくればという安心感と、未知の不安とを少女は感じた。

 少し取り戻した冷静さも手伝って、部屋に戻るという考えまで浮かんだ。

 逃げたらますます怒られるかもしれない。

 けれどもう、どうやったら部屋に戻れるのかがわからなかった。

 少女はふらふらと迷い歩いた。

 不意に目に入った公園に、吸い込まれるように立ち寄った。

 少女は力尽きて、その砂場に両手と両膝をついてうな垂れた。

 涙がポタポタと落ちた。

 埋まってしまいたかった。


 おじさんは真っ二つになった。

 だからもう怒鳴られることはない。

 少女の頭に、今日のことが勝手に思い出されてきた。


 おじさんは真っ二つになった。

 だから追い掛けてなんてこれない。


 少女は繰り返し今日の事を振り返った。

 長い間。そうして一つの考えにたどり着いた。


 もうおじさんを喜ばせなくたっていい。


 本当はわかっていた。おじさんがいやだった。


 「お嬢ちゃん?大丈夫?」

 お巡りさんが声を掛けてくれたとき、少女は目を覚ました。

 いつもの部屋にいた。ハンマーは無かった。

 夢だったのだ。

 時間はまだおじさんが外出して間もなかった。

 少女は用心して、部屋から抜け出した。

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