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失恋勇者~世界を売った少女と始める異世界往来記~  作者: szk
第四章 胸いっぱいの愛を
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第四十話 ハシエンダから来た少女1

今回は二話連続投下です。

宜しくお願いします。

 黄昏に染まり行く街角で出会った謎の白人美少女と、ただただ立ち尽くす僕ら。

 彼女の麦わら色の髪が夕焼け色に色づき、どこか懐かしい香りがする。

 どうやら日本語を話せるらしいけど、僕はこの子が誰なのかさっぱりわからなかった。

 それにしても、曲りなりにも彼女である霧島の前で、どこの誰かもわからない白人美少女と抱き合っているというのは、例え人違いとはいえ良心の呵責に苛まれるものだ。

 僕は一旦落ち着こうと深呼吸し、彼女を諭すように語り掛ける。



 「あ……君、申し訳ないけど、人違いじゃないかな?」



 それを聞いた彼女は、僕のシャツを掴み、顔を上げ、僕を睨むように言った。



 「ひっどーい! 吾妻私のこと忘れちゃったの? 吾妻に会えるのずっと楽しみにしてたのに!」

 「いやいやいや、ていうか何で俺の名前知ってんの?」

 「まあ、仕方ないか、あれから何年も経つわけだし……。それでも、自分の結婚相手を忘れるなんて酷いよね、摩利香?」



 幼い子のように膨れた彼女は、同意を求めるように霧島の顔を見た。

 こんな宇宙人との遭遇に匹敵するくらいわけが分からないのに、霧島は落ち着き払った様子で柔らかく微笑した。



 「ずいぶん大きくなったわね、ノエル……」

 「の……ノエルだって!?」



 僕は「嘘だろ?」と思いながらも、ノエルと名乗るその少女の顔を注視した。が、とりあえず、綺麗過ぎてこんな間近じゃまともに顔も見れない。

 少し顔を離して恐る恐る顔を見てみたら、確かにどことなくあのエルフの少女の面影があった。

 だけど、例えこの子がノエルに似てるとしたって、僕が気付けないのも無理はない。

 だって彼女はまだ幼女のはずだし、僕が大失態をやらかしてしまったアレがついてないじゃないか。


 

 「……ノエルたって、この子エルフじゃないし。俺らと同じ耳してるじゃん?」

 「あ……それね。こっちの世界にはエルフがいないって聞いていたから……」



 そう言うと、彼女はブロンドをかき分けて両耳に手を当てる。

 柔らかな光が彼女の耳を覆い、いつか見たあの尖がった長い耳がにょきにょきと姿を現した。



 「ま……マジでエルフだ! て言ったって、ノエルはこのくらいの小さな女の子だったわけだし、色々説明つかないでしょ!?」



 僕の当然の反応に、霧島が溜息を吐いて淡々と説明を始める。



 「二つの世界は時間の流れを異にしているの。ハシエンダから帰って来た時、何か不思議に思わなかった?」

 「そういえば、あっちで半年くらい過ごしたけど、こっちじゃ一日も経ってなかった。最初に行った時も……」

 「単純に言えば、ハシエンダの方がこちらの世界より時が早く流れるということかしら」

 「確かにそうなのかもしれないけど、なんだか信じ難い話だな……」

 「時間なんてものは、人が作り出した世界解釈の一つ……仮説に過ぎないの。だからこっちの世界では絶対だと思われてる時間も、あなたは容易く歪めることもできるでしょ?」



 霧島は丁寧に説明するが、僕は頭がこんがらがりそうになったので、さらっと受け流し、そういうもんだと思うようにした。

 それにしても、確かに可愛かったけど、あんなガキんちょだったノエルがこんな金髪美少女に成長するなんてね。そういえば、エルフは皆美男美女だったっけ。

 ようやく納得できた僕は、再会を懐かしみ、ノエルに微笑みかける。



 「驚いたよノエル、こんなに大きくなっちゃってたから、わからなかったよ。ごめんごめん!」

 「本当だよ! 摩利香はわかってくれたのに、結婚相手の吾妻が気付かないなんて、吾妻の薄情者!」



 相変わらず、膨れっ面のノエル。僕はここにきて、自分の置かれている状況が予想より遥かに最悪だということに気付いた。

 ハシエンダで一体何年経ったかわからないが、彼女の中で、僕はまだ現在進行形、現役バリバリの婚約者みたいだからだ。

 僕が頭を抱えながら霧島の方をチラッと見ると、いつになく楽しそうに微笑している。勿論悪い意味で。

 もうどうすればいいかわからなかったけど、膨れっ面のノエルを宥めないと話が進まなそうだ。



 「ごめんよ、許しておくれ。だけどそれはノエルが悪いんだ。ノエルがあまりにも綺麗になり過ぎていて、わからなかったんだよ!」



 と、ダメだとわかっていながら僕は、また誤解を招くような余計なことを言ってしまう。

 ていうか、こんなイタリア人みたいな歯が浮くようなことを、ペラペラとよく言えたものだと思うよ。

 あまりに白々しすぎて逆に彼女の逆鱗に触れちゃうんじゃないかと、正直はらはらしながらノエルの整った顔を伺う。



 「ふーん……」



 僕の咄嗟のよいしょに、彼女は訝し気な感じで僕の顔を覗き込む。やっぱりダメかと思った途端であった。



 「だったら仕方ないよね! 許してあげる。やっぱり吾妻大好き!」

 「ええ!?」


 

 脂汗だらだらだった僕の胸に、再びノエルが飛び込んでくる。

 それほどまでに彼女は僕のことが大好きなのか、それともただチョロいだけはのか。いずれにしても、僕の置かれている状況は一層最悪なのに違いなかった。

 僕はふと何か凄く大事なことを思い出したかのように、付合い始めたばかりの彼女である霧島を見る。



 「良かったわね、こんな美人にハグされて……。でも、幼女好きの那木君には、小さいままの方が良かったんじゃないかしら?」



 皮肉たっぷりの台詞を吐き捨てる霧島の美しい目は、まるで彼女の嫌いな生魚の中にアニサキスでもいたみたいに蔑みに満ちて冷ややかなものだった。

 全く、今日も色々あり過ぎて目が回りそうだ。



 ★



 僕らは再会の喜びに浸りつつも、場所を映してノエルがハシエンダから突然訪れたわけを聞くことになる。

 暗くなってきてたし、あまり人に聞かれるわけにいかなかったので、僕らは再びカラオケボックスに向かうことにした。

 正直きつかったのは、そこに行くまでずっとノエルが僕にべったりとくっつき、腕を握りしめていたこと。

 もちろんそれ自体が悪いってわけじゃなくて、隣を歩く霧島の突き刺すような冷たい視線を浴び続けたってことだ。

 まさかノエルに霧島と付き合ってるなんて、口が裂けても言えないよな。殺されちゃうんじゃなかろうか。



 気まずい空気の中、一人うきうきのノエルと僕らは、さっきまでいたカラオケボックスに着いた。

 受付を済ませ、部屋に入った僕らは、物珍しそうに部屋を見回すノエルを尻目に、灯かりを点け、テレビを消して本題に入る。



 「で……ノエル、君は何の為にこっちの世界に来たんだい?」

 「もちろん吾妻に会う為……ってのもあるけど、ある方に吾妻と摩利香に伝言と協力を頼まれたの」

 「ある方って……?」



 僕と向かい合って座った彼女は、これまでと違う意味深げな顔をして微笑する。



 「二人もよく知っている方よ。ハシエンダの英雄、戦神にして剣神……」

 「ま……まさか、ジャスティーンが!?」

 「正解よ!」



 何でノエルがジャスティーンと知り合いなのかはさておき、僕と霧島はハシエンダから帰る日のことを思い出した。

 常闇の獣に姿を変えてしまっていた霧島を救い、デーモン・アドバートを追い払った後、ジャスティーンは僕らに一旦こっちの世界へ帰るように言った。

 異世界転移の魔法は本来禁忌とされており、乱用すれば霧島みたいに呪いに掛かってしまうってことだが、霧島は一度浄化されたので、前みたいに短期間で使い過ぎなきゃ問題ないらしい。

 勿論、デーモン・アドバートから僕らを遠ざけるのが一番の理由だ。ジャスティーンが手を回して、奴と霧島の契約は解除され、もう奴はこっちの世界へは来れないって話だ。

 全く、あの神様が一体どんなコネクションを使ったかはわからないけど、あの人が味方で本当に良かったよ。


 

 で、ハシエンダから離れた僕らは『虚無の魔王』について調べることができないから、代わりにジャスティーンが魔王のことについて調べてくれることになった。

 そういえば、何か報せなきゃならないときは、そっちの世界に使者を出すなんて言ってたけど、まさかノエルが来るなんて思わなかった。

 ノエルは嬉々としながら、僕らと別れた後の自らの経緯を離し始める。



 「吾妻と摩利香が森を救ってくれた後、私はもう一度吾妻たちに会いたくて、必死に魔法の勉強をして森を出たの。兄さんからは反対されたけどね」

 「だろうね……」

 「でも、やみくもに探すわけにもいかないから、聖都の大学に入って魔法の勉強をしながら、勇者や魔王のことについて調べ始めたの」

 「だ……大学?」



 どうやら、あのちんちくりんだったノエルは、ハシエンダでも稀に見る天才少女だったらしく、本来高貴な身分の子しか入れない大学を飛級に次ぐ飛級で卒業、博士号まで持っているらしい。

 そんな中、『虚無の魔王』について調べていたジャスティーンが、ノエルの研究室を訪れ、僕が異世界から来たってことを知ったという話だ。

 で、僕の居所を知ったノエルは、喜び勇んでジャスティーンの使者になったってこと。

 ノエルが博士とか全く実感の湧かない僕は、ポカーンとしながら彼女の話に相槌を打っていた。

 彼女がハシエンダから来た経緯を話し終えると、それまで黙っていた霧島が冷然と口を開く。



 「それで、あなたが来たってことは、それに足る重大なことを伝えに来たってことでしょ?」

 「そうよ、摩利香・・」



 今まで和やかに微笑してたノエルが、急に張りつめた表情をして僕らに言った。



 「率直に言わせて貰うわ、虚無の魔王が復活する。しかもこちらの世界でね……」



 深い海のように青々と輝く美しい瞳は、まるで夢のようだった偽りの平和を剥ぎ取り、僕らに現実という戦慄を突きつける。

 僕はきっと、もしかしたら心の片隅で魔王は復活しないんじゃないかなんて、思っていたのかもしれない。

 デーモン・アドバートの言っていたことは、嘘ではなかった。



 ――勇者は魔王復活の鍵であり、勇者と魔王は対となるもの。勇者が復活すれば、魔王もまた復活する。



 かつて世界を恐怖に陥れた『虚無の魔王』とは一体何者なのか?

 ハシエンダから警報を伝えにやってきた使者、ノエル・スライザウェイが『虚無の魔王』復活の真相について語る。

第一章以来の懐かしいキャラの登場です。

ずっと日常回だったので、少し本題も進めます。

引き続き、『第四十一話 ハシエンダから来た少女2』

をお楽しみ下さい。

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