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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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28話 ドルチェとウェイトレス修行 -1-

「申し訳なかった」


 アイナさんが綺麗な土下座をしている。


 マルーラフルーツを食べて酩酊したアイナさんは、あの後キッカさんに部屋まで運ばれて、ベッドに着くなり眠りに落ちたらしい。……キッカさんを巻き込んで。

 アイナさんは、眠る時にはキッカさんを抱っこしているのだ。


 ……あれ? ボクのプレゼントした黒羊のぬいぐるみは?


「もう二度と、お酒は飲みません」

「いや、あれはボクにも責任が。きちんと説明してませんでしたし」


 ボクは一切怒っていない。というか、アイナさんの意外な一面を見ることが出来てラッキーだったと思っているくらいだ。

 なのだが……


「反省だけならサルでも出来るっ!」


 キッカさんはご立腹だ。

 酔ったアイナさんに相当絡まれたらしい。

 被害報告書を書かせたら、どこかの魔導書並み分厚さになることだろう。


「キッカ、機嫌を直してほしい」

「二時間半拘束されて身動き一つ取れなかったのよ? それがどんなに苦痛か……っ」

「シェ……黒羊のぬいぐるみ(名称考案中)を一撫でさせてあげるから」

「一撫でなの!? なに、その出し惜しみ!? 今度わっしゃわっしゃしてやる!」

「ら、乱暴に扱わないであげてほしい! デリケートな子だから」

「あたしも、二時間半も拘束されると疲弊するくらいにはデリケートなんですけど!?」


 うぅむ。

 キッカさんの怒りが収まらない。

 いや、まぁ、気持ちは分かりますが……眠ることも出来ず、動くことも出来ない二時間半…………つらい。


 よし。

 ここはきっとボクの出番だろう。

 怒りは疲れから生まれる。

 疲れは、甘い物や美味しい物で癒される。


 というわけで、『立ったお腹を寝かしちゃえ! あまあま、激うまクッキング大作戦!』


「キッカさん。今日みんなでとってきた果物で美味しい物を作りましょう」

「お酒にするんでしょ?」

「十分量はありますし、飲むだけじゃもったいないですよ」

「……まぁ、それもそうかもね」


 少しだけ意識がこちらに向いた。キッカさん、美味しい物好きだからなぁ。


「果物を使うってことは、スウィーツだよね?」

「そうですね、ドルチェです」

「え? デザートではないのか?」


 ま、みんな似たような物なのだけれど。

 要するに、甘いお菓子だ。

 そして今回作るのは……


「リンゴのシブーストを作りましょう!」

「「りんごのしぶーすと?」」


 分かりやすい合いの手、ありがとうございます。

 非常に説明がやりやすいです。


「リンゴとシブーストクリームをパイに載せたケーキですよ」

「ケーキかぁ……」


 キッカさんの機嫌がぐんぐんよくなっていく。


「しぶーすとくりーむ、とはなんだろうか?」


 アイナさんが横文字を一回で……!?

 ケーキパワーだろうか? アイナさんの中の女子心が甘い物に食いついたのだろうか。

 すごいな、スウィーツ。


「シブーストクリームっていうのは、カスタードクリームにイタリアンメレンゲとゼラチンを混ぜたものです」

「いた……めれげ?」


 惜しい。

 実物を見ていないと想像しにくいし、想像しにくい物の名前は覚えにくい。

 うん。アイナさんは悪くない。


「……と、ゼン……ラ、チン?」

「ゼラチンです!」


 危ない!

 今なんだか危ないワードが飛び出しそうだった!

『全裸』の後にそのワードはダメです!


 これはマズい。

 一秒でも早くアイナさんに正しい認識をしてもらわなければ! 早急に!


「じゃあ、実際作りながら説明しますね」


 言いながらリンゴの皮を剥き始める。






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