表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/190

21話 食べる、ということ。 -2-

「あ、あのさ、タマちゃん」


 慌てた様子で駆け寄ってきて、言い訳じみた口調でキッカさんが言う。


「あ、あたし、【ハンティングフィールド】で食材狩ってくるよ。た、足りないでしょ、いろいろと。ね? だから……ね?」


 縋るような瞳。

 この場所から逃げ出したい。そんな感情が有り有りと伝わってくる。


「ねぇ~」


 そんなキッカさんに、姉という人が声をかける。


「ちょっと、そこの小間使いさ~ん?」

「きゃははは」


 イザベラと呼ばれた金髪姉がそう言って、エレーネと呼ばれた茶髪姉がそれを聞いて笑う。

 そして、キッカさんは歯を食いしばる。悔しそうに。


「こっちのデカい女が使えないからさ~ぁ、あなたが注文を聞きに来てくださらないかしら?」

「くださらないかしらぁ?」


 にやにやと、キッカさんを見つめてそんなことを言う。

 ぐっと拳を握りしめて、大きく息を吸い込んだ後、キッカさんは彼女たちのテーブルへと移動した。


「……ご注文を、お伺いいたします」


 掠れた、絞り出すような声。

 いつもの溌剌さは、どこにも見えない。


「適当にお願いするわ」

「何食べても同じでしょ、こんな店」

「急がせてね」

「わたくしたちが空腹で死んだら賠償よ? 払えないでしょ? 一生掛かっても。きゃはっ」


 ガリ……っと、奥歯を噛む音がして、一拍後にキッカさんはなんとか言葉をひねり出した。


「少々……お待ちください」


 頭を下げてこちらへと戻ってくる。


「……タマちゃ……シェフ。オーダーを……」

「はい。承りました」


 彼女たちの目を気にして、ボクをシェフと呼ぶ。

 つらそうに歪んだ顔からは、今にも涙がこぼれ落ちそうだった。これ以上、キッカさんにこんな思いをさせたくない。


「食材が足りませんね」


 なるべく明るい声を意識してそう告げる。


「キッカさんとアイナさんで食料庫を見てきてください」


 食料庫には何もない。

 けれど、ここにいさせるより何倍もいい。

 そこで、このお客様たちが帰るまで時間を潰していてもらおう。


「なら、【ハンティングフィールド】で狩りを……」

「ねぇ、聞きました、お母様。『狩り』ですって。野蛮ねぇ~」


 キッカさんの言葉にかぶせるようにイザベラがいやらしく言う。


「生き物を殺すなんて、神経がどうにかなっている証拠ですわよねぇ」


 エレーネがそれに続ける。

 そして。


「仕様がないでしょう。あの子はもともと『あぁいう子』なのだから」


 マダムが冷たく言い放つ。


「無様で、薄汚れて、狂気的で……我が家の名を汚す欠陥品には、お似合いの生き様だわ」


 とどめとばかりに心を抉るような言葉をまき散らす。


「タマちゃん……ごめん」


 消え入りそうな声で呟いて、キッカさんが足早に従業員スペースへと逃げ込んでいく。

 アイナさんへと視線を送り、キッカさんを追いかけてもらう。

 どうか、そばにいてあげてください。キッカさんが一人で悲しい思いをしなくても済むように。

 独りぼっちというのは、本当に……死にたくなりますから。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ