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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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213/214

86 父と娘


★★★★★★★★★★


 久しぶりに見る父の顔は、怖かった。

 ……でも。


「キッカを殺させはしない」


 刃を、受け止めた。

 受け止められた。


 はるか遠いと思っていた、どんなに走っても、手を伸ばしても届かないと思っていた父の剣を、わたしは止め――


「遅い」

「ぐ……ぅっ!?」


 みぞおちに重い一撃を喰らわされる。

 そうだった。

 剣を止めて終わりではない。


 父は、相手の息の根を止めるまで決して止まらない。

 そういう生き物だった。


 追撃が来る――


「剣技・曼殊沙華!」


 三十六閃の斬撃を一度に放つ。

 わたしを中心に全方位の斬撃を――


「ほぅ……」


 一振りで八連撃を繰り出した父の剣を、なんとか跳ね返す。


「見事だ。貴様、名は?」


 少し距離を取り、父がわたしに興味を示す。


 ……名を、聞かれた。


「……覚えていませんか?」

「知らぬ顔だ」

「…………アイナです」

「そうか。覚えてやろう」

「あなたの娘のアイナです!」

「娘…………」


 父の目が眇められる。

 そして、わたしの顔を見て、微かに目を大きく開く。



「そういえばいたなぁ。足手まといなチビが。貴様があのチビなのか。大きくなったものだ」



 父は……わたしのことなど、覚えてもいなかった。

 いや、わたしが生まれたことにすら、興味などなかったのかもしれない。


「気付けばいなくなっていたので、どこかで死んだと思ったが、そうか、生きていたのか」


 少しだけ嬉しそうに言って、剣を構える。


「強さを見てやろう。使えるようなら、旅への同行を許可してやらんでもない」


 父に認められる強さ――



 それは、もしかしたら、わたしがずっと追い求めていたものなのかもしれない。

 いつか、この人に認められたいと。

 わたしのことを、真っ直ぐに見てほしいと。


 そのチャンスが巡ってきた……だというのに。


「遠慮する」


 まったく、嬉しくない。


「生憎と、共に旅をする相手なら、もうすでにそばにいてくれる」


 そして――


「わたしは、彼たち以外と共にいたいとは思わない」


 こちらも剣を構える。

 あの切っ先がわずかにでも動いた時、この場にいる誰かの命が失われるかもしれない。

 父の強さは、そのレベルなのだ。



 絶対にさせない。



「のぼせ上がるな。力を見ると言っただけだ。まだ、共にいる許可を出したわけでは――」


 消えた!?


「――ない」

「そこだ!」



 左前方から放たれた斬撃を打ち落とす。

 地面が裂け、大地が揺れる。


「よく見ている。……少し強めに行くぞ」


 再び父の姿が消え、同時に父から放たれる殺気が濃度を増した。

 世界を埋め尽くすように広がる殺気に、父の気配が紛れて消える。


 見失った時は――



「剣技・曼殊沙華!」



 全方位の斬撃で身を守る――



「その技はもう見た」


 放った斬撃の中に父の剣が滑り込んでくる。

 同時多発の必殺の一撃を巧みに避け、わずかもないような剣筋の隙間を的確についてくる。


 その一撃はわたしのノドを的確に捕らえ――


「……だから、違う技で裏をかいた」


 ――わたしの残像を消し飛ばす。



「姿が見えなくなったのなら、攻撃する隙を作れば、あなたは確実に仕留めに来る。その瞬間を狙った」


 言いながら剣を振るう。

 わたしの放った一撃が、父の腕に細い切り傷を作った。



 ……入った。


 寸前で気配を察知され、決定的な一撃にはならなかったが、かすり傷程度ではあるが、あの父に一撃入れることが出来た。


 わたしは強くなった。

 これなら、父と互角に戦うことも――




「のぼせ上がるなと言ったはずだ」




 その声は、激しい痛みの中で聞こえてきた。



「……ぁ……っ」



 気が付いた時、父の剣はわたしの腹を切り裂いていた。







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