83 ドラゴンVSドラルミナ騎士団
本来の姿を取り戻したドラゴン族は強かった。
『子らを守るのだ!』
マザーさんが吠え、チルミルちゃんやピックルちゃんが空高く舞い上がり、それを守りながら女性たちがその周りを取り囲むように飛び立つ。
『我らは時間を!』
『行くぞ!』
そして、男性たちが騎士に向かって突進していく。
まず狙ったのは、遠距離攻撃が可能なアーチャー部隊。
数十体のドラゴンが一斉に吐き出したブレスが、弓を構えた騎士たちを飲み込む。
ドラゴン封じの宝玉の力を過信していたのか、騎士たちは本来の姿を取り戻したドラゴンを前に統率が乱れていた。
「狼狽えるな! 陣形を整えろ! 魔法壁!」
深紅の鎧を着た騎士の怒声に、騎士たちの雰囲気が変わる。
狼狽が消え、一瞬にして統率を取り戻す。
凄いな。
たった一言で。
ドラゴンのブレスに翻弄されていた騎士たちの周りに赤く黒い光が現れて、ブレスを弾き返す。
あれが、魔法壁というものだろうか。
あの赤い鎧の騎士は宝玉を持っていた騎士で、この騎士団の団長のような存在だろうか。
宝玉を破壊したアイナさんは――
「こいつっ! 国崩しの剣姫だ! 格好に惑わされて油断するな!」
「「「おぅ!」」」
別の騎士たちに取り囲まれていた。
部隊長らしき騎士が慎重に距離を取り、アイナさんの動きを封じるよう、騎士たちに細かい指示を出している。
あんな大勢に囲まれたら、いくらアイナさんでも――
「大丈夫」
アイナさんの元へと駆けつけようとしたボクの前に、キッカさんの背中が現れた。
ボクを背にかばうように立ち、騎士たちを油断なく見つめている。
「あんな連中、剣姫の敵じゃない」
そう言って、少しだけ振り返り、ボクを見る。
「弱点さえ突かれなきゃ、絶対に負けないわよ」
弱点……あ、ボクか!?
「ごめんなさい、みなさんの足を引っ張ってしまって」
「まさか」
キッカさんは柔らかく笑って――
「迷惑に感じてるなら、とっくに離れてるよ、あたしも、剣姫も」
そんなことを言ってくれた。
足手まといでも、そばにいてくれる。
そんな二人の優しさと、自分が享受している幸福を噛み締める。
「剣姫を取り囲んでいるのは、この騎士団の中でもトップクラスの騎士たち。アタシでも名前を知っているような連中よ」
「強いんですか?」
「まぁね。一応連中もスキルマ――騎士のスキルをマスターしている連中だから」
スキルマ。
それは、アイナさんやキッカさんと同じ。
つまり、この二人くらいに強い人たちだということだ。
それって、マズいのでは?
「大丈夫だって」
キッカさんの表情が引き締まる。
次の瞬間、騎士たちが一斉にアイナさんへと斬りかかる。
だが、ボクが瞬きをした瞬間に、騎士たちは全員が後方へ大きく弾き飛ばされていた。
「同じスキルマでも、実力には天と地ほどの差があるのよ」
そういえば、キッカさんもアイナさんと同じスキルマだけれど、何度勝負を挑んでも軽くあしらわれるほど強さに差があった。
そうか、アイナさん、めちゃくちゃ強いんだ。
「あの娘が攻めあぐねているのは、……たぶん、迷いね」
かつて、ドラゴンを守るためにドラルミナの砦を一人で破壊したアイナさん。
その時から『剣鬼』と呼ばれるようになり、そしてアイナさんはそれをとても気にしていた。
ドラルミナで、感謝祭の準備をしようとしていた時に「あの町の者にとって、わたしは『鬼』なのだ」と寂しそうに言っていた。
ドラゴンを守るためだとは言え、人に剣を向ける。
それは、アイナさんにとって忌避すべきことなのだろう。
「あんなイヤな連中、ぶちのめしてやればいいとボクは思いますけどね」
「そういう素直なところ、割と好きだよ、あたしは」
あははと笑い、キッカさんは真剣な目でアイナさんを見つめる。
「けど、剣姫の不器用なくらい真っ直ぐな性格も、あたしは結構気に入ってる」
「ボクもです」
人を傷つけたくないというアイナさんの気持ちは尊重したい。
とはいえ――ドラゴン族のみなさんや、アイナさんを傷つけることは許さないけれど。
「魔法を放て! 矢を絶やすな! あのデカいドラゴンを討ち取れば連中は統率を失う!」
赤い騎士が、マザーさんを狙えと指示を飛ばす。
それとほぼ同時に、火矢と魔法らしき炎がマザーに向かって放たれる。
ドラゴン族の男性たちが身を挺してマザーさんの盾となり、魔法や火矢を浴びて墜落していく。
ドラゴンを狩ることに特化した強国、ドラルミナ。
その騎士団の強さは本物らしく、ドラゴンたちが撃ち落されていく。
「キッカさん、ボクのことはいいですから、マザーさんを守ってあげてください!」
「ダメよ」
けれど、キッカさんはボクの傍から離れない。
「タマちゃんに何かあったら、剣姫は動けなくなる」
そして、とても落ち着いた声で言う。
「逆に言えば、タマちゃんさえ守り切れば、あたしたちに負けはない」
こんな、数えるのも嫌になるほどたくさんいる騎士を前に、そんなことを言いきった。




