78 今度こそ感謝祭!
アイナさんたちにカレーなどを取りに行ってもらっている間、ボクは再びお肉を焼いていた。
それから、キッカさんが好きそうな隠し玉も。
喜んでくれるかな~?
アイナさんは……グラタンとか、喜んでくれるだろうか?
わくわくが止まらない。
「ふふ、楽しいな」
「なにが、そんなに、楽しい、か?」
グロリアさんがボクの作業を眺めながら聞いてくる。
お手伝いは、まだちょっと難しそうだったから、見学してもらってるんだ。
「ボクが作った料理を、美味しいって食べてくれるのが嬉しいんですよ。だから、美味しい料理を作っている時はわくわくするんです。『美味しいって言ってもらえるかな?』『おかわりって言ってもらえるかな?』って」
「ほぉ……、そんなのが、嬉しいのか、おまぇ……ぁの…………シェマは」
シェマ!?
「えっと、シェマって?」
「アイナが、シェフと、キッカがタマと呼んでいる。だから、お前の名前はたぶん、シェマが、正解」
いや、そんな半分ずつ混ぜたような名前ではないんですが……
「そう呼んじゃ、だめ、か?」
「いいえ。構いませんよ。好きに呼んでくれて」
「エロニンゲン、ナの!」
「エロニンゲンのオス、なノ!」
「それはやめてくれると嬉しいかなぁ!?」
エロくないですしね!
全然、エロくないですから!
※個人の感想です
「シェマ……」
「はい。なんですか、グロリアさん」
「………………ぇへへ。シェマだ」
なんだか嬉しそうだ。
初対面の時のような険のある表情は、もうどこにも見当たらない。
よかった。
少しは仲良くなれたかな。
「これは、もう食べられる、か?」
「はい。食べますか?」
「食べる!」
「ヤ! ナの」
「イ・ヤ、なノ!」
ん~……まぁ、今回は諦めるかぁ。
いつか、美味しいって言ってくれるようになったら嬉しいな。
「わらわも、いただこう」
そう言って、ボクの前にやってきたのは、マザーさんだった。
「マザー、お肉、食べる、ナの?」
「ぶにぶにぶっしゃー、食べる、なノ?」
「う、ぐ……食べる前に怯むようなことを言うのではない、チルミル、ピックル」
物凄く嫌そうな顔をするマザーさん。
頬が引きつっている。
「あの、勝負はついていませんから、無理に食べる必要はないですよ?」
ここで無理強いして、また勝負だとか、アイナさんを嫁にだとか、そんな話がぶり返しては困る。
「いや、勝負など関係なく、その……食べてみたいのじゃ」
とても不安そうに、少し泣きそうな顔で、マザーさんがこちらを見る。
「そなたが、作ってくれたもの、じゃからの」
ともすれば、勘違いをしてしまいそうなセリフを、勘違いしてしまいそうな表情で言われて、危うく勘違いしてしまいそうになった。
「カエルに続いて、懐いた、ナの」
「カエルと同類、なノ!」
あ、すっごい目が覚めた気分。
アレと同類なんて、ノーセンキューなので。
「……それに、勝負は決しておったしの」
優しい瞳で言って、マザーさんが串焼きを一本手に取る。
これで、間に挟まっている玉ねぎやピーマンだけを食べてお肉を残しても、もう怒ったりしませんよ、ボクは。
「では、いただく――っ!」
意を決して、マザーさんはクイツクシープのお肉にかぶりついた。
おぉっ!?
凄い勢い!
凄い度胸!
マザーさんが肉にかぶりついた瞬間、全ドラゴンがどよめき、かなり大きな声となって空気を震わせた。
「あ、あの……」
お肉を食べた瞬間、口を押えてうずくまったマザーさん。
やっぱり、口に合わないかな……と、不安になった瞬間、目の前に笑顔の花が咲いた。
「美味いのじゃ! こんな美味しい物は、生まれて初めて食べたのじゃ!」
めっちゃ食わず嫌いだったー!?
「なに? そなたらは食わぬのか? 仕方ないのじゃ、わらわがすべてもらってしんぜよう!」
「お待ちください、マザー!」
「我々も食べます!」
「そなたらにはまだ早いのじゃ!」
「ン百年生きてきて、まだ早いものなんて一つもありませぬ!」
「食べさせてください! いや、食べます!」
そうして、ドラゴン族の女性たちが一斉に串焼きに手を伸ばし、そして一斉にお肉にかじりついて、一斉に歓喜の声を上げた。
「「「んまぁーい!」」」
あぁ、よかった。
お口に合って。
「すごい、ナの!」
「これは、なんなノ!?」
「美味しいでしょ? お肉も魚も、ちゃんと料理すれば美味しく食べられるんだよ」
「すごいナの! シェマ!」
「男前なノ、シェマ!」
あはは、なんかチルミルちゃんとピックルちゃんまでシェマ呼びになっちゃった。
グロリアさんの真似っ子なのかな。
「シェフー!」
「タマちゃ~ん!」
ドラゴン族のみなさんがお肉に夢中でかじりつく中、歩くトラットリアからアイナさんとキッカさんが戻ってきた。
よかった。
仲直り出来たみたいだ。
顔を見れば分かる。
「この茶色いの、すっごい堪んない匂い!」
「こちらの白いのも、素晴らしい香りだ」
キッカさんはカレーが、アイナさんはグラタンが気になるようだ。
「では、みなさん! お腹がはちきれるくらい、いっぱい召し上がってください!」
食べ物を与えてくれるこの大地と、生命に感謝を込めて。
「感謝祭の始まりです!」
そうして、ボクたちの感謝祭が始まった。
あけましておめでとうございます
本年も、『スキルマ剣姫と歩くトラットリア』をよろしくお願いいたします




