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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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202/214

75 試合終了

「……バカな」


 マザーさんの美しい顔が歪む。

 こういう表情をしても、綺麗なんだなぁ、美人さんって。


「……え、どういうこと?」

「始まって……ない、のでしょうか?」

「マザー?」


 ざわざわと、周りの者たちが騒ぎ始める。

 それもそのはず。


 開始の合図の後、ボクとマザーさんの腕は1ミリも動いていない。

 傍から見ていると、ただ手を繋いで見つめ合っているラブラブバカップルに見えているかもしれないね。


 ただ、マザーさんだけが表情を驚愕にゆがめ、幾筋もの冷や汗を流している。

 あ、また落ちていった。


 まるで流れ星の様に、光を反射させてきらめく雫が落ちていく。


 綺麗だなぁ~、なんて、のんきにそんなことを思ってしまった。


「……そなた、何者なのじゃ」


 震える唇で、マザーさんが囁く。

 もしかしたら、普通に声を発したつもりなのかもしれないけれど、その音は掠れ、もしかしたら一番近くにいるボクにしか届いていなかったかもしれない。

 なので、こちらも小声で。


「ただのシェフですよ」


 くわっと目を見開いて、反論しようとしたっぽいマザーさんだったが、結局何も言わず、目を細めてこちらを訝しむ様に見つめるだけにとどめたようだった。


 だって、ボクは歩くトラットリアのシェフで、それ以上でもそれ以下でもない。

 それ以外に、自分のことを説明する方法が思いつかない。


「マザーさん」

「――っ!?」


 小声で話しかければ、マザーさんが肩を震わせる。

 指先が小刻みに震え始め、瞳孔が広がっていく。


 ……そんなに怖がらなくても、何もしませんよ、ボクは。


「提案なんですが……もうやめませんか?」

「な……ぬ?」


 いやだって、ほら、ドラゴン族って負けず嫌いでプライドの高い種族らしいですし。


「ここはマザーさんの寛大な心で、勝負をなかったことにしてくれたと――そういうことにしてもらえると嬉しいんですけどね?」


 と、ボクは下手に出て提案したつもりだったのに、マザーさんの瞳はさらに大きく見開かれ、口が半開きになって、呼吸が出来ないかのようにぱくぱくと小さく開閉した。

 なんか、めっちゃ怯えられてる……


「あの……今日は感謝祭なので、平和に、みんなで楽しく、歌って踊って、美味しいものをいっぱい食べる日にしませんか?」



 折角、こうして多くの人が集まって、食糧危機が改善して、未来は明るいな~っていうおめでたい日なんですから。


「みんなで、笑って過ごしましょうよ。……ね?」

「……は、はい」


 わぁ、メッチャ敬語。


「すみません。ボク、怖いですか?」

「い、いや! そのようなことは決して!」


 って言いながら、メッチャ怖がられてるし……


「す、すまぬ。あ、いや、申し訳ない……いや、違うな、そなたの望むことを考えれば口調は変えぬ方が……しかし……ぅぐぅ」


 なんか、悩ませちゃってるかな?


「普通にしてくれるのが、一番嬉しいですよ、ボクは」



 恐れられて、避けられて、忌み嫌われるのには――もう、飽きました。



「……すまぬ。このような感情は初めてじゃ」

「いえ。なんか、すみません」


 ぺこりと頭を下げると、マザーさんは目をまん丸くして「ぷっ」っと吹き出し、ついで大口を開けて笑い出した。


「なんじゃ、その腑抜けた声は? あはは! やめじゃやめじゃ! 競い合うなどバカバカしい!」


 そういって、ボクの手を放し、岩のテーブルから離れていった。

 あぁ、よかった。

 これで勝負は無し、ですね。


「ふん! アイナなどに頼らずとも、ドラゴン族の中から巨乳を生み出して見せるわ! ドラゴン族は最強じゃからの!」


 大きい声でそう宣言したマザーさんに、周りのドラゴンたちが「わっ!」と声を上げる。

 琴線に触れたのか、周りのドラゴン族たちがこぞって拳を振り上げ、コールを開始する。


「「「きょーにゅーうっ! きょーにゅーうっ!」」」


 ……うん。

 そのコールはどうなんだろう。


 ……ちょっと、混ざろうかな?


 そんなことを考えていると、目の前にアイナさんが。


「あ。アイナさ――」


 名を呼ぼうとしたら、腕を掴まれ、「ぐいっ」と引っ張られた。

 抗えず、ボクはよろめき、腕が引かれた方向――つまりアイナさんの胸の中へと倒れ込んだ。



 ぽっぃぃ~~~ん☆



「パラダイスっ!」


 あ、違った。


「ど、どうしたんですか、アイナさん!?」

「その前にしっかりと心の声が漏れてたわよ、タマちゃん?」


 わぁ、聞きとがめられちゃった☆

 目、逸らしとこっと。


「……?」


 小首をかしげるアイナさんは、非常に愛くるしいですが、首を傾げたいのはボクの方です!


「あの、アイナさん?」

「……やっぱり、シェフは、シェフだ」


 え……あ、はい。


「シェフ、です」

「うむ……」


 何かを考え、数度頷いて、何かを納得して、ボクを開放する。

 ……あぁ、パラダイスが。


「……マザーが弱くなった…………はっ!? 老い!?」

「失敬な事を抜かすな、この乳腫れ娘!」


 すぱかーん! っと、マザーさんのげんこつがアイナさんの後頭部に炸裂し、「……いたい」とアイナさんが涙目になった。


 ドラゴンの一撃を喰らって涙目で済んでいるアイナさんが凄いのか、アイナさんを涙目にさせたマザーさんが凄いのか、ボクには分からなかった。







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