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1話 「くぅ……」と鳴くおなかの虫 -1-

「お()さ~ん! どこですかぁ~?」


 深い深い森の中。

 ボクは、どこかで【ドア】から落ちたのであろうお師さんを捜して歩いていた。

【ドア】には、とりあえず待機してもらっている。


「いないかぁ……もう、どこで落ちたんですか、お師さん」


 お師さんは小さいから見つけるのが大変だ。

 そのくせ、好奇心だけは人一倍でちょこまか落ち着きがない。だからよく迷子になる。……まるで幼い子供だ。千年近く生きているとは、とても思えない。


 捜し回っても見つからず、ボクは【ドア】の前へと戻ってくる。


「お師さん、戻ってきましたか?」


【ドア】に問いかけるが、当然返事はない。だって、【ドア】だし。

 森の中の大木に立てかけられた【ドア】。そのドアノブをひねると、中には食堂の風景が広がっている。

 四人掛けのテーブルが三つと、二人掛けのテーブルが二つ。あとは、カウンター席が四つ。

 合計、二十席の、そんなに広くはない店内。けれど、落ち着いた雰囲気がとてもいい。ボクの大好きな空間。


「この辺にはいないみたいだから、ちょっと移動しようか?」


 ドアをポンと叩いて話しかけると、ドアの下から【足】が生えてくる。

【ドア】が離れると、大木は元の、ただの大木へと戻る。

 当然、その大木の中に食堂などは存在しない。



 てぃん……ぽぃん……てぃん……ぽぃん……



 ――と、愛嬌たっぷりの足音を立てて歩き始めた【ドア】に飛び乗って、縁に腰を掛ける。

 のんびりと過ぎていく森の景色を眺めていると、「りーんりーん……」と鈴のような音が鳴る。


「あ、『おなかの虫』だね。どこからか分かる?」


 ボクの問いには答えずに、【ドア】は黙って進路を変える。どうやらはっきりと分かっているようだ。おなかをすかせている人がいる場所が。


「それじゃ、急いでその人のもとへ……って、まだ! まだ、ドア閉めてないから!?」


 急に速度を上げた【ドア】。

 ドアを閉めるまで、振動は直に伝わってくる。激しく上下するドアにしがみついて、ボクは悲鳴を上げる。

 怖いのは、苦手だ。


 なんとかドアを閉めると――振動が収まり、さっきまでの喧騒が嘘のように静かになる。


 ドアを閉めた店内は、外とは空間が遮断され、どんなに揺れても影響を受けない。

 これで落ち着ける。……まぁ、お師さんが絶賛迷子中なので、あんまり落ち着けないけれど。心情的に。


「りーんりーん……」と、可愛い音を響かせるおなかの虫。

 この店は、近くにいる人のおなかの虫を感知して、こうして知らせてくれる。

 そのおなかの虫を聞いて、ボクたちはそちらへ向かい、料理を振る舞う。


 そういうお店なのだ、この――【歩くトラットリア】は。






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