70 アイナさんの得意分野
「ちょっと剣姫!」
キッカさんが、アイナさんを引っ張ってマザーさんから距離を取る。
ボクも追従する。
「あんた、本気なの?」
「うむ。勝負に勝って、マザーにシェフの料理を食べてもらう」
「料理なら、サラダだって料理じゃない! そこまであんたがリスク背負う必要ないって!」
「リス君……?」
「なに背負おうとしてんのよ!?」
「……うむ」
「で、満更でもなさそうな顔してんじゃないわよ!」
今、アイナさんは脳内でリス君を背負っているのだろう。
そんな場合じゃないですよ!?
「あんた、結婚ってなにか、ちゃんとわかってる?」
「うむ。父と母がしたものだ」
それはその通りなんでしょうが……なんだろう、おそらくですけど、分かってなさそうな気がします。
「もし、ドラゴン族の誰かと結婚なんかしたら、もうシェフと一緒に歩くトラットリアにはいられないんだよ? それでもいいの?」
「え…………むぅ、そうか。そうなってしまうのか……」
あぁ、やっぱりわかってなかった。
「しかし、勝てば問題はない」
「あのねぇ……」
「マザーは……いや、ドラゴン族は、力あるものしか認めない。誇り高い種族なのだ」
「その通りじゃ」
距離をとっても、こちらの話は筒抜けだったようで、マザーさんが返事を寄越してきた。
「我らを認めさせるだけの力を誇示して見せよ。さすれば、そなたらの願いを聞き叶えてくれよう」
「力があっても、胸が大きいってだけで剣姫のこと認めてなかったじゃない」
「それはそれ、これはこれ、乳は乳じゃ!」
乳は乳……っと。
「何メモってんの? 出しなさい、没収」
……没収された。
「それに、グロリアを尊重して、タマちゃんの料理を食べるって言ったじゃない」
「しかし、勝負を持ち掛けてきたのは、キッカよ、そなたではないか」
「あたしのも、お祭りの座興のつもりだったわよ。……まさか、そんな条件つけてくるなんて……そもそも、マザーが意地張ってるだけだって思ったから、負けたら『しょうがないか~』ってメンツを保ちつつ一緒に美味しい料理が食べられるって、そう思っただけなのに!」
キッカさん、そんなことを考えてあんな提案をしたんだ。
「いろいろ考えてるんですね」
「むしろ、タマちゃんと剣姫がまったく考えてなさ過ぎて、あたしは毎度ひやひやしてるわよ」
「ひゃっひゃっひゃっしてる?」
「誰がそんなイジワルババアみたいな笑い方してんのよ、剣姫!?」
※個人の感想です。
……ふぅ、なんか言わなきゃいけない気がして、つい。
「とにかく、あたしはヤだからね!」
怖い目でアイナさんを睨むキッカさん。
そうか……
「アイナさんと離れ離れになるのが寂しいんですね」
「わざわざ口に出す必要がないって、分かんないかな!? 分かるよね!? 分かれ!」
めっちゃ蹴られた。
ひどい!
「キッカ……」
そんなキッカさんを見て、アイナさんがむず痒そうに口元を緩める。
「キッカは、かわいい」
「……あんたに言われても、嬉しくないのよ」
「…………では、シェフ」
「タマちゃんだからどうってわけでもないの!」
「せーの――」
「なんで声揃えて言おうとしてんの!?」
「「キッカは」さんはかわいい」わいい」
「やせめてもうちょい揃えなさいよ!? やるならね!?」
びっくりするぐらい息が合わなかった。
ばらんばらんだった。
「キッカ」
「……なによ?」
「安心してほしい」
アイナさんがキッカさんの肩に手を乗せ、力強く頷く。
「どんな勝負であろうと、わたしは負けない」
不思議だけれど、アイナさんがそう言うと、本当にそうなるのだろうなと確信できる。
アイナさんの人柄と、実力、そして一緒に過ごしてきた時間が培った絆がそう思わせるのだろう。
「……分かったわよ。その代わり、絶対勝ちなさいよね」
「約束しよう」
「嘘吐いたら、なんでもあたしのいうこと一個聞いてもらうからね」
「キッカのお願いなら、いつだって大歓迎だ」
すっかりと仲良くなった二人。
こういうの見てると、なんだか感慨深いなぁ。
「話はついたようだな。……して、何で我らに挑むつもりなのじゃ、アイナよ」
アイナさんだったら、模擬戦でもマザーさんに勝てそうだけれど……出来れば危険なことはやめてほしい。
もっと安全で、出来れば可愛らしい勝負がいいな……
そんなボクの願いが届いたのか、アイナさんが提案したのはとても可愛らしい勝負方法だった。
「早チチ対決だ!」
「『早クチ』すらいえない分際で、よく早口対決なんて提案で来たわね、あんた!?」
ただ、ボクの願いが一つ足りていなかった。
絶対アイナさんが勝ちますように!
お願い届いて!
もう遅いとか言わないで!
お願いします、神様!




