68 勝負?
感謝祭の料理が、ジンギスカンだけなわけがない。
「こっちは、ラムの串焼きで、こちらがマトンのケバブです!」
ラムはクセがなく、純粋に肉のうまみを楽しめるため、串焼きにして軽く味付けするだけで充分美味しい。
ラムの間にネギやピーマン、玉ねぎを挟んでバーベキュー型にしてある。
輝く肉汁が食欲を誘う逸品です、どうぞ、お召し上がりを!
そしてマトンは、少々クセがあるため好き嫌いが分かれるらしい。
でも大丈夫!
歩くトラットリアは「誰でも美味しく食べられる料理」を作る天才だ。
マトンのケバブは、トルティーヤに挟んで、千切りキャベツとトマト、赤玉ねぎ、パプリカ、そして細切りのキュウリを一緒に入れて、ハーブとスパイスを多分に使用したヨーグルトベースのソースをかける。
ヨーグルトとハーブがマトンのクセをうまく覆い隠し、ソースに仕込んだスパイスがピリッと刺激的な味わいを与えてくれる。
このソースがキュウリとよく合うんだ。
フレッシュトマトの輪切りが爽やかさとボリュームを与えてくれて、赤玉ねぎのちょっとした辛さとパプリカの嫌味のない苦みが味を引き立たせてくれる。
どちらも、一口食べれば病みつきになる美味しさ、間違いなし!
……一口でも、食べてくれれば!
「食べてくださいってばぁー!」
「そういうのを食べているから、そなたはエロく育ったのだ」
心外だな!?
お師さんの足元にも及びませんよ、ボクの抱くエロスなんて!
「おいし……うまっ、これ、うまっ!」
と、戻ってきたグロリアさんが串焼きとケバブ――っていうかもうタコスですけども、を両手で持って交互に頬張っている。
あ~ぁ、みなさんも食べてくれたらいいのに。
「こんな時、お師さんがいてくれたら、みなさん食べてくれたでしょうか?」
「うむ、可能性は高い。呼んでこようか?」
と、復活したアイナさんが言うが、今はやめておこう。
「お師さんって、年に何回か静かになる時があるんです。そういう時は、何を言っても上の空で――」
凄く寂しそうな顔をするから、ボクはなるべくそっとしておくようにしている。
一人でいろいろ考えているみたいだから。
「そうか……」
「それじゃあさ、あたしたちと勝負して、あたしたちが勝ったら、マザー! あなたにお肉を食べてもらうわよ!」
「ほほぅ……おもしろい」
キッカさんの徴発を受けて、マザーさんの目がギラリと光った。
「ドラゴン族として、人間風情に後れを取るわけにはゆかぬ」
何やら殺気のようなものを放ち始めているけれども!?
「勝負といっても、怪我をしない程度の、ゲームみたいなものですからね!? ですよね、キッカさん?」
「そうそう。かる~いお遊びよ。ま~ぁ? 遊びでも負けるのが怖いって言うんだったら、見逃してあげてもいいけどね~?」
煽りますねぇ、キッカさん。
本当に勝算あるんでしょうね?
いや、キッカさんのことだから、なにか思惑があってのことだろう。
無策でドラゴンに挑むなんて、そんな無謀な真似、冒険者であるキッカさんがするはずがない。
「面白いのじゃ、受けて立ってやろう」
マザーさんが乗ってきた。
マザーさんもキッカさんも、どちらも勝ちを確信しているような強気の笑みを浮かべている。
「して、勝負の方法は?」
「それはね……タマちゃん!」
「え? は、はい!」
「言ってやって!」
「丸投げ!?」
まさかの、ノープラン!?
「なんか、絶対勝てるような勝負方法で、さっさと負かしちゃって、お肉食べさせてやりなさい」
煽るだけ煽っておいて、肝心なところは丸投げで、よくそれで堂々と優雅に串焼きにかぶりつけますね……まったくもぅ。
ドラゴン族は、この世界で最上位の最強生物だ。
人間の姿に変身していても、その力はさほど衰えないとマザーさんが言っていた。
あの固かった大地を耕して見せたドラゴン族の男性たちのパワーを見れば、それがハッタリでないことは一目瞭然。
そんなドラゴン族に絶対に勝てるような勝負って……
体力勝負はダメ。
知力も、きっとすごいんじゃないかなぁ、ドラゴン族って。
となれば、……運?
いや、絶対に勝てる勝負をってキッカさんは言っていたし……
「もしこちらが勝利した暁には、キッカとアイナには辱めを受けてもらうぞ?」
辱め!?
それって、いったい、ほわい!?
「そうじゃな……そこのエロニンゲンが好きそうな、紐のような水着でも着て踊ってもらうとするかのぅ」
ボクは決して、そのようなきわどい趣味は持ち合わせていませんが……ちょっと見たい!
嘘です、ごめんなさい、めっちゃ見たい!
でも、誰にも見せたくないし、アイナさんやキッカさんにそんな真似はさせられない!
これは、いよいよ……負けられなくなってしまった。




