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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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59 動物性たんぱく質

「いい? この魔獣からは、ヤギのミルクが取れるのよ」


 と、キッカさんが自信満々に説明してくれる。

 ……の、だが。


「……あの、キッカさん…………ヒツジですっ!」

「そーゆーことじゃないの! っていうか、気を使って小声で指摘してきてんじゃないわよ!」


 だって、『クイツクシープ』って言ってるのにヤギって……シープなのにヤギって。


「この魔獣は、ヒツジっぽく見えるけど、ヤギなの!」

「でも名前が」

「それは、この魔獣に名前を付けた昔の学者かなんかがヒツジと間違えて付けちゃったのよ、たぶん、知らないけど!」


 物っ凄い保険をかけたなぁ、自分の発言に。


「とにかく! ヤギなの!」

「すっごいもこもこですけど?」

「もっこもこのヤギなの!」

「うむ! もこもこは可愛いと思う!」

「今そんな話してないから、黙ってて、剣姫!」

「……もこっ」


 なに今の!?

 注意されて、思わず漏れ出ちゃった声ですか!?


「もこ、もえ」

「うっさい」


 うわぁ、めっちゃ目が見開かれてる。

 瞳孔もすっごい開いてますよ、キッカさん。

 ヤバいです、ヤバいです、それ以上見開くと目が転げ落ちちゃいますって!

 瞬きしましょう! ね!?

 分かりました!

 ヤギです!

 ヤギですから!


「剣姫も聞いたことない? この魔獣のこと」

「いや、知らない魔獣だった。もし、もっと以前から知っていたなら、なんとかして飼い慣らしていたかもしれない」

「あんた……定宿すら持ってないくせに、ペットなんか飼えると思ってたの?」

「しかし、わたしはかつて、ぴーさんというペットと一緒に暮らしていたぞ!」

「ぬいぐるみでしょうが!?」

「今はシェ……とても可愛い黒いヒツジのぬいぐるみ(匿名希望)と生活を共にしている」


 あれ?

 ボクがあげた黒ヒツジ、名前決まったのかな?

 何故か名前を伏せているようだけれど。


「そして、今はキッカとも一緒に寝ている!」

「その並びで言われると、あたしまでペット扱いされてるようで不愉快だわ!」

「しかし、ペットを飼ったならば、わたしは毎晩抱いて寝たいと思っていたのだ」

「あんたはなんでもかんでも抱き着いて寝るでしょうが! っていうか、『ペットが出来たら抱いて寝たい』っていうのと『あたしを抱いて寝ているからペット』っていうのは全然違うからね!?」

「……………………え?」

「なんで理解できてないのよ!? あたしがいっぱいしゃべったから? ちゃんと聞きなさいよ!」

「すまない。それよりも、クイツクシープがもこもこで可愛いなと」

「ちゃんと聞きなさよ! 途中で飽きてんじゃないわよ!」


 凄いなぁ、キッカさん。

 さっきから一切休みなくしゃべりつつけてる。

 一切休みなくしゃべり続けてるのに、なんの情報も入ってこない。


「あの、キッカさん、そろそろ本題の方を……」

「あたしじゃなくて、剣姫に言いなさいよ!」

「でも、そうすると、『クイツクシープを飼育してみたい』という話題になりますよ?」

「うむ!」

「『うむ』じゃないのよ! いいから黙って聞きなさい!」


 ほら、やっぱりキッカさんなんじゃないですかぁ~。

 も~ぅ。


「『も~ぅ』みたいな顔でこっち見んな! あたしは何も間違ってない!」


 顔を真っ赤にして「むきぃー!」っと地団太を踏むキッカさん。

 そのあふれ出る闘気や殺気に充てられたのか、クイツクシープ(メス)がむくりと顔を持ち上げた。

 あ、すかさず後頭部に一撃喰らわせて気絶させた。

 すっごい。

 早い。

 そして、一撃が重い。


 え、あの一撃って、ちょいちょいアイナさんが喰らってるやつじゃないですか?

 あんな重い一撃喰らって「痛い……」で済んでるんですか!?


「凄いな、アイナさん……」

「なんでよ!?」


 キッカさんが物凄い勢いでボクに食いついてくる。

 いや、だって、あの重い一撃を喰らっても平気な顔をしてますし。


「たまにはあたしも褒めなさいよ!」

「褒め……えっと…………よっ、キッカさん!」

「やっつけか!?」


 そんな、急に褒めろと言われましても。


「えっと、キッカさんは、博識ですよね。冒険者だからか凄くいろんなことを知っていて、いつも教わることばかりで、すごいな~って思ってますよ」

「…………」


 じぃ~っと、ボクの瞳を覗き込んでくるキッカさん。

 もっと褒めた方がいいだろうか……


「……そっか。いつも凄いって思ってるんだ」


 あ、なんか満足してくれたみたい。


 意外とハードルが低かった。

 よかった。


 もう一個くらい何か褒めろって言われてたら、「そのバニー、もこもこの尻尾に目がいって、ついついお尻見ちゃいますよね☆」とか口走りそうだったから。

 きっと命拾いをしたのだろう、ボクは。


「とはいえさ、もう一個くらい何か褒めてもいいんじゃない?」

「そのバニー、もこもこの尻尾に目がいって、ついついお尻見ちゃいますよね☆」

「他になんかないのか!?」

「ごぅっ!?」


 みぞおちに、重い一撃が……あの巨大なクイツクシープを昏倒させた必殺の一撃が……


「そんなわけないでしょ。物っ凄い手加減してるわよ、感謝しなさいよね」


 わぁ……凄く感謝しにくい。


 だって、ボクの頭に浮かんでいたセリフをそのまま言うんだもの。

 そのまま応えちゃうじゃないですか、そんなの…………


 結局、キッカさんの博識な知識が聞けたのは、ボクが復活した二十分後になってしまった。







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