54話 畑を -5-
「おーおー! 見事なもんじゃなぁ。さすがお嬢ちゃんじゃ」
手を叩いて大はしゃぎしているお師さん。
いや、見事は見事なんですけども。
「あれって、きちんと混ざってるんでしょうか?」
「見ておったが、見事なまでに均一に混ざっておったぞ」
「……見えるんですか? そんな、土と土が混ざる瞬間なんて……」
「ワシ、目もいいんじゃ」
「……『も』?」
「うむ。目もいいんじゃ」
どうやら、他にもどこかにいいところがあるらしい。
勝手に旅に出て「探せ」とか言ってくる、赤と白の縞々の冒険家よりも見つけるのが難しそうだけれど、どこかほかにもいいところがあるらしい。
見つからなくてもドントウォ~リ~って? やかましいわ。
「剣姫、ズルい!」
「今、のは、反則、すれすれ、と、思う!」
とんでもない大技に、勝負を挑んでいた二人から物言いが入る。
しかし、チルミルちゃんとピックルちゃんは「すご~いナの!」「ぶわぁ~、って、なったなノ!」と大はしゃぎだ。
争いの心を持たない人は、穏やかに物事を見られるという証左ですね。
「よし! じゃあ、あたしも本気出す! ――はぁぁあっ!」
気合一発。
キッカさんが四人に増える。そしてその四人が四人ずつ増え、さらに四人ずつ……トータル六十四人に増えた。
キッカさんお得意の残像だ。
その残層が、横一列に並び、しゃがんで土を混ぜていく。混ぜ終わると、全員一斉にぴょんっと、前へ跳び、また土を混ぜていく。
まぜまぜ。ぴょんっ!
まぜまぜ。ぴょんっ!
まぜまぜ。ぴょんっ!
まぜまぜ。ぴょんっ!
……なんだろう。なんだかすごく可愛らしい!?
同じ感想を持った者たちは割と多いらしく、ドラゴン族の男衆の間から「ウサ耳、萌えぇぇえ!」なる声が聞こえてきた。
……また投獄されなきゃいいけど。
「また……あのオスどもは…………」
マザーさんが静かに憤る。
「今度はウサ耳じゃと……揺れるものには節操なく興味を示しおって…………」
マザーさんの鋭い瞳が、まざまぜぴょん中のキッカさんをとらえる。
じぃ~……と、見つめる。
揺れるモノすべてを敵視するように――
まぜまぜ。ぴょんっ! ……しーん。
まぜまぜ。ぴょんっ! ……しーん。
まぜまぜ。ぴょんっ! ……しーん。
まぜまぜ。ぴょんっ! ……しーん。
「あのものは仲間じゃ! 大目に見よう!」
「どこを見て仲間認定したのか、是非聞かせてもらえないかなぁ!? ねぇ、マザー!?」
ぴょこぴょこ揺れるウサ耳と、一切揺れない…………皆まで言うまい。
とにかく、マザーさんはキッカさんに敵意を持っていないようだ。
そうですよね。
ウサ耳なら、後からいくらでもつけられますもんね!
「よぉし、そこで納得しているタマちゃん! 後で覚えとけ!」
六十四人のキッカさんが一斉にボクを指さす。
……逃げ切れる気がしない。
と、いうか。
あの残像は効率がいいのだろうか?
分身ではないわけだから、結局キッカさんが一人でやっている事に変わりはなく……むしろ運動量が増えて効率が悪いのでは…………
まぜまぜ。ぴょんっ!
まぜまぜ。ぴょんっ!
まぜまぜ。ぴょんっ!
まぜまぜ。ぴょんっ!
まぜまぜ。ぴょんっ!
まぁ、いいか。そんなこと!
揺れるウサ耳の群れは可愛いですしね!
「くぅ……アイナ、に、続き、キッカ、までも……ズルい…………こうなったら、わたしの、本当の、姿を、見せて、くれるっ!」
どこに対抗心を燃やしたのか、グロリアさんが突如真の姿を現し、折角耕した畑を巨大な足で踏みつけ、「あんぎゃー!」と鳴いて……マザーにこっぴどく叱られていた。
そりゃ、叱られますよ、グロリアさん。
生産性が皆無ですから。
その後、アイナさんとキッカさんの頑張りによって、広大な畑に【歩くトラットリア】の土がしっかりと混ぜ込まれた。
ボクも手伝おうかな~と、思った時にはもうあらかた作業は終わっていて……
「どんくさいオスじゃのぅ……」
――と、マザーさんに呆れられたり蔑まれたりしたわけですが……反論は出来ませんでした。




