54話 畑を -4-
グロリアさんがボクの前から去り、キッカさんのところへ向かう。
あ、なんかキッカさんに抱き着いて「むぁむぁ」言い始めた。
え、なんでキッカさんこっち見てるの?
え、それってボクのせいですか?
えぇ~……
と、今度は小さな二人のミニドラゴンがボクの前にやって来て、二人そろってバンザイしながら、可愛い牙が見えるくらいに大きな口を開いて笑顔で話しかけてきた。
「お手伝い、するナの!」
「お手伝い、任せるなノ!」
まだまだ幼さの残るチルミルちゃんとピルクルちゃんは、とっても仲良しなのか、行動がよく似ている。
同時にバンザイしたり、シンメトリーに首を傾げたる。
見ているだけで癒される。
「チルミルちゃんとピックルちゃんも手伝ってくれるの? ありがとうね、二人とも」
「えへへナの」
「えへへなノ」
幼い二人が無邪気に笑う。
「エロい師匠の、エロい弟子ナの」
「エロさの、一子相伝なノ!」
「そんな言葉は覚えなくていいんだよ、二人とも!?」
そういうところまでお揃いじゃなくていいから!
どっちかが止めて!
無邪気な顔で毒牙を突き立ててくる幼い二人に翻弄されてしますボク。
そんな中、アイナさんが元気よく手を挙げる。
「は、はい! わたしも手伝う!」
全員の視線が、アイナさんに集中する。
アイナさん。背骨、ピーン! 腕、ピーン!
地面と、見事に垂直ですね。
「いや、剣姫……あんたはもう手伝うって決定してるから」
「言う、必要、は、ない」
「ないナの」
「ないなノ」
「そ……そう、か」
指摘されて、そろ~っとアイナさんの腕が降ろされていく。
いや、分かります。分かりますよ!
こう、みんなで盛り上がっていると「自分も!」って気分になることはありますよね。
うん。アイナさんの行動は決して間違っていない!
「アイナさんが手伝ってくれると、百人力ですね!」
「うむ!」
「……またそうやって甘やかす」
「……しまり、の、ない、顔を、さらして……恥という概念がないのかあの唐変木は」
「朴念仁ナの」
「表六玉なノ!」
キッカさんの溜息を始めに、ドラゴン女子の悪態が続く。
っていうか、さすがのバリエーションですね!?
チルミルちゃんとピックルちゃんは、その年からすでにそうなんですね……きっと、それもこれもマザーさんの影響なんでしょうけれど。
「それじゃあ、みんなで土を散布しましょう」
「うむ!」
「剣姫、グロリア! 勝負よ!」
「望む、ところ、だ!」
「望むナの!」
「望みなノ!」
言うや否や、キッカさんが布袋に腕を突っ込んでくる。
それに負けじと、グロリアさんが、チルミルちゃんが、ピックルちゃんが、三方からほぼ同時に腕を突っ込んでくる。
こぼれる、こぼれる!
稀少な土なんですよ!? もっと丁寧に!
「シェフ。わたしにも、分けてくれるだろうか」
「はい。もちろん」
駆け出して、我先にと土を撒きまくるあの人たちとは違い、アイナさんは落ち着いたものだ。
穏やかというか、たおやかというか。アイナさんらしいゆったりとした雰囲気を纏っている。
やっぱり、こういう感じが癒されるなぁ……。
「ボクたちは、マイペースで行きましょうね」
出来たら二人で、仲良く、一緒に。でへへ☆
「マイペース……、うむ。心得た」
こちらを見てこくりと頷くアイナさん。
あ、にこってしてくれた。
それじゃあ、仲良くマイペースに――
「わたしも、自分のペースでやってみる」
――…………え?
しっかりと頷いた後、アイナさんは布袋へと手を突っ込んで土を一掴み取り出す。
そして、その土をおもむろに、空へ――
いや、放り投げたよ!?
何してるんですか、アイナさん!?
貴重な土がぁ!?
「剣技――鳳凰旋風刃っ!」
空に舞った土が、アイナさんから発せられた突風に掻っ攫われて、物凄い速度で吹き飛ばされていく。
耕された農耕地の土をも巻き上げ、遥か上空で混ぜ合わされたそれらは、突風が過ぎ去ると同時に空から降り注いでくる。
ボドボドと鈍い音をさせて、農耕地にやわらかい土が敷き詰められていく。
…………ゆったり感、皆無っ!
ただ、風に揺れるアイナさんのロングヘアーは、さらさらでキラキラしていて、とっても綺麗だった。




