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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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54話 畑を -1-

 ドラゴンの里の男衆が解放され、感謝の涙にむせび泣きながら大地を耕している。


「カエルはいい人~♪(人じゃないけど~♪) 我らが恩人~♪(人じゃないけど~♪)」


 皆が同じ歌を歌いながら、やせ細った腕を懸命に動かしている。

 ……どこの炭鉱夫ですか。

 あ、ちなみに、(人じゃないけど~♪)は、コーラスです。


「衰えたといえど、やっぱりドラゴンよね」


 一列に並び、どこまでも続く荒れ果てた大地を耕し続ける男衆を見て、キッカさんが感心したように呟く。

 確かに、見た目にはがりがりにやせ細っているのにそのパワーは凄まじく、『腐っても鯛』ならぬ、『やせ細ってもドラゴン』ということわざが生まれてもおかしくないくらいの圧倒的なパワーを見せつけている。


「人化してこれなんですから、ドラゴン族って凄い種族ですよね」

「これ、くらいは、容易い。わたしたち、ドラゴン、には」


 同族を褒められたからか、グロリアさんが得意げに鼻を鳴らす。

 グロリアさんに言わせれば当然らしいけれど、人間目線で見ればやっぱり凄い。

 おそらく、人間なら数ヶ月はかかるであろう作業を、小一時間でやってのけたのだ。


「ドラゴンの体重によって踏み固められた大地を、植物が育つのに適した柔らかさにするのが第一条件じゃ」


 お師さんの指示により、里の一角に広大な農耕地が誕生した。

 それは大農場と謳っても一切恥じ入ることのないほどの大きさで、これだけの面積があれば、里の者たちの食料を賄えるだけの植物が育てられそうだ。


「この付近は、人化した者以外の立ち入りは禁止じゃぞぃ」

「うむ。そなたがそう言うのであれば、そのようにするのじゃ。皆の者、心得たな?」

「「「「はい、マザー」」」」


 マザーさんを筆頭に、美しいドラゴン族の女性を侍らせて――どこから持ってきたのか、王様が使っていそうな偉そうな椅子に腰掛けて――これ見よがしにふんぞり返っている、お師さん。

 なんだろう。羨ましいとかではなく、腹立たしい。


 しかし、お師さんの一言でドラゴン族の男性は救われたわけで、その功績は素直に称賛するべきだろう。

 みんな、泣きながら日の光の下で働いている。

 もちろん、感謝と感激の涙だ。


「カエルはいい人~♪(人じゃないけど~♪) 我らが恩人~♪(人じゃないけど~♪)」


 そして、寛大な処置をくだしたマザーさんをはじめとした女性たちにも、その感謝の思いは向けられる。

 かつての、考え無しの行動に対する自戒も込めて。



「大地はなだらか~♪ 作物も育つ~♪」

「「「ぺーったん♪ ぺーったん♪」」」

「山の斜面よりも平地が望ましい~♪」

「「「ぺーったん♪ ぺーったん♪」」」

「平らっていいね~♪」

「「「ぺーったん♪ ぺーったん♪」」」



「……ねぇ。これ自戒の念、入ってる?」

「無性、に、腹立た、しい、な」


 あまり思いは届いていないようだけれど、反省はしているのだろう。あまり思いは届いていないようだけれど。うん。届いていないようだけれど。


 男衆に、ほのかな苛立ちを向けるキッカさんとグロリアさん。

 そして、お師さんの周りに侍りつつ男衆に指示を出すドラゴン族の女性たち。


 これが、極刑と引き換えに彼らに課された罰。


 この荒れた大地を、作物が育つ畑へと作り変える、肉体労働刑だ。

 それにしても、ドラゴン族の男衆はみんな背が高く、彼らが並んで堅い大地を掘り返している様は、実に圧巻だった。


「なだらかぁ~!♪(ファルセット)」

「「「ぺ~~~ったん!♪」」」



 あ、転調した。サビに入ったかな?


「やっぱムカつくわね」

「シメるか」


 ナイフと牙をギラつかせる、キッカさんとグロリアさん。

 待ってください。

 彼らの働きが、ドラゴンの里の食糧危機を救うんですよ!


 小さなことを気にする二人が、二つの意味で、小さいことを気にしている。


「え? なんか言った?」

「何も言ってないですよ!?」

「なにか、思ったか?」

「思うのも禁止!?」


 判定が厳しい。

 なんだか荒んでいる二人から、そそそっと距離を取る。


 距離を取って、ふと顔を上げると……


「じぃ~~~~……」


 ――と、アイナさんがボクを見ていた。

 しかし、ボクがそちらを向いて視線が合うと、ぱっと顔を逸らしたりする。


 …………なんでしょう、この気恥ずかしい感じ。


 明らかに、いつものアイナさんではない。

 物凄く意識されている。

 自意識過剰などではなく、アイナさんは今、ボクのことをとても意識している。


 そんな仕草を見せられて、ボクは思った。


 もしかして……

 もしかしてアイナさんは、ボクのことを……



 ……要注意変質者と、思っているのではないか…………と。


 おぉう……







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