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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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53話 マザーとカエルと -2-

 引き続き、睨み合うお師さんとマザーさん。

 すらりと線の細い長身のマザーさんと、ちんちくりんのお師さん。


 アウェーであり、体格差から見ても圧倒的不利な立場だというのに、お師さんは余裕の態度を崩さない。

 神経図太いからなぁ、お師さんは。


「大体がじゃ、べっぴんスレンダーちゃんは、本当の男というものに出会ったことがないんじゃないかのぅ?」


 なんか言い出したぞ、あのカエル。

 どうしよう。

 お師さんが出てきてから、ずっと動悸が治まらない。


 お師さんの挑発ともとれる発言に、マザーさんの瞳が冷たく光る。


「本物の男、だと?」

「そうじゃ。目に見える物に左右される、浮ついたくだらない男しか知らんのではないか?」

「ふん。男など、どいつも同じようなものじゃ」

「それはどうかのぅ」

「ほほぅ。貴様は違うというのか、カエルよ」

「無論じゃ」


 どこに自信が持てるのか一切理解出来ないけれど、お師さんが胸を張る。


「お前さんの言うように、胸の大小で女性の価値を決めるような連中は、女性の本当の美しさ、素晴らしさに気が付いておらんお子ちゃまなのじゃ。到底紳士などとは呼べぬ。嘆かわしいことじゃな」

「胸の大小に一喜一憂する男どもはお子ちゃまじゃと、そなたは言うのか?」

「そうじゃ。大切のなのはここ――心じゃ」


 自身の胸をトントンと叩き、至極まっとうなことを言うお師さん。

 驚いた。あのお師さんがまともな発言を…………重篤な病に侵されているのではないだろうか……?


「じゃからの、その心の入れ物たるおっぱいは、大きかろうが小さかろうが尊いものなのじゃ」

「ブレ始めましたね、お師さん!? そうなるだろうと予想したとおりに!」


 真面目な顔をしたまま、とんでもなく不真面目な発言を真剣な声音で言う。

 この人、もう末期なんでしょうね。


「ふんっ! 大きい方がなお良いのであろう、貴様ら男は」

「そんなことはないのじゃ。大きさなど、取るに足らんことじゃ」

「今さらそのような綺麗ごとを……」

「心の美しさにおっぱいの大きさは比例せん!」


 大きな声で言い切り、そして、いつものまったりした声で囁く。


「お前さんは、誰よりも気高い心を、そのつつましやかなおっぱいの中に持っておるではないか。おっぱいが小さいことは悪ではない。それは、お前さんの心が証明しておるじゃろうて。悪い器に、素晴らしい魂は宿らんよ」

「わたしの、心は……美しいか?」

「無論じゃ。気高く、潔く、そして清らかじゃ」

「……では、その美しい心が入っているこの胸……」

「おっぱい」

「……このおっぱいもまた、悪くはない……のか?」

「うむ」


 なぜ修正させたし!?

 マザーさんに「おっぱい」なんて言葉を言わせて、袋叩きに遭っても知りませんよ!?


「そなたは、……本当におっぱいの大小で人を判断したり、せぬのじゃな?」

「無論じゃ! ワシは、大きいおっぱいも、小さいちっぱいも分け隔てなく大好きじゃからな!」

「結局たどり着く先はそこですか、お師さん!?」

「おっぱいに貴賎なしじゃ!」

「ほんの一瞬だけいい話になりそうかもと思った自分を殴ってやりたいですよ! なるわけないですよね、だってお師さんなんですから!」

「むしろ日替わりで大中小様々なおっぱいを楽しみたいのじゃ!」

「ちょっと黙ってもらえますか!? ボクの中の殺意が限界を超えてしまう前に!」


 もう、いっそのことドラゴンの皆さんに踏みつけてもらえばいいのに!

 もちろん本体で!

 悔いのない最期を遂げられるでしょうよ!


「エロい人、死、ナの?」

「エロい人、死、なノ?」

「そうですね、仕方ないですね、さようならお師さん」

「タマちゃんって、他人ごとだと潔いわよね」


 あれはもう、人生をリセットしないと治らない病気ですから。

 きっと、マザーさんもさぞご立腹で…………ん?


「…………わたしの、このような胸でも、そなたは、よいというのか?」


 ……なんだか、頬を赤く染めてらっしゃいますよ?


「無論じゃ! 許可が出るなら二十四時間張りついていたいくらいじゃ!」


 あの人はなぜあんなに堂々と最低な発言を、それも自信満々に口に出来るのだろうか。

 視線を向けるのはやめておこう。関係者だと思われる。


「流石師弟、思考回路がそっくり」


 やめてください、キッカさん!

 ボクは違いますので!

 断じて違いますので!


 諸事情により、声には出しませんが、心の中で精いっぱい反論させていただきます!


 ただ悔しいかな、さっきまで鳥肌が立つほど冷え切っていた神殿の中の空気が、ほんのわずかだけ、温かくなったような気がしていた。






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