48話 お届け物 -2-
お師さんから託された、グロリアさん用の衣装が入った袋。
その中から出てきたのは、エナメルの光沢が美しい、殉国のレザースーツだった。
股の部分はえっぐい角度の超ハイレグで、胸の真ん中にハートの形の穴が置いており、脇腹部分は大きくあいており革紐が張り巡らされてある。
そして、刺さると痛そうな赤いピンヒールに網タイツ。ムチまで付いている。
「おい…………そこの、男……」
グロリアさんから、物凄い殺意がボクへと向けられている!?
慌てて視線を逸らすと、そこには凍てつく笑顔のキッカさんが。
あ、詰んだ
「どういうつもりなのかな? ん~? タマちゃん?」
「いや、あの……アレは……」
「ちょ~っと、はしゃいじゃった?」
キッカさんの笑顔がマジで怖いっ!?
一体どういうつもりなんだろうか、お師さんは。
あんな、初対面の女性にプレゼントするだけで即極刑判決が出そうな衣装を、「似合うから着てください」的に渡せだなんて……あんな、どこからどう見ても女王様な衣装を…………あっ。
そのキーワードを思いつき、ようやくボクは合点がいった。
ある少女と不思議な国のキャラクターに似た格好をしているボクたち。
青いドレスに大きなリボンと白いエプロンを着けたアイナさん。
ちょっと大きめの懐中時計をアイテムとして持たせればイメージぴったりなウサギ姿のキッカさん。
そして、謎の紫色のネコの着ぐるみ姿なボク。
そして、あのボンテージ。
胸のところにあいたハート型の穴が最大のヒントだったんだ。
「あれは、ハートの女王の衣装です!」
「遺言はそれでいい?」
「あれ!? 謎を解いたのに事態が好転していない!?」
「これを、わたし、に、着ろ、と?」
「あ、いえ! お師さんが! お師さんが『基本全裸ちゃん』に似合うだろうって!」
「誰、が、『基本、全裸、ちゃん』……だ?」
「わぁああ!? それもボクの発言じゃなくてですね……!」
「細胞レベルで灰になれ、この生きる不純性欲モンスター!」
「グロリアさん、悪口のレパートリーだけ広過ぎますって!」
ムチを振り回しながら、グロリアさんがボクを追いかけ回す。
そういうことするからお師さんに『そーゆー人なんだ』と思われるんですよ!
「お前が、着ろっ!」
「それはそれで、地獄絵図ですからね!?」
あのエグい切れ込みのボンテージは…………『ぽろり』します! 確実に!
その後、アイナさんが間に入ってくれてなんとか事なきを得たのだが…………お師さん怖いわぁ……ホント怖いわぁ……あのカエル。
そうだった。
お師さんは女の子の可愛い姿が大好きなのだけれど、それ以上に……
女の子のエロい姿が大好物なんだった。
次に見かけたら、躊躇いなく踏んづけてやるっ!
「……まぁ、大体のいきさつは分かったわ」
それから懸命に説明をして、なんとかボクの容疑は晴れた。
黒幕はあのカエルです!
あいつ、酷いヤツなんです!
密告?
えぇ、しますさ!
命がけですからね!
「タマちゃんもさぁ、渡す前に中を確認しなさいよ」
「そうですね……迂闊でした」
正座をして、ボクは反省の態度を明確に示す。
……たぶん、ボクは悪くないのだが。
「グロリアの衣装は、今回はなしね」
「……ぬか喜びだ、ちっ!」
グロリアさん……ホントごめんなさい。
「まぁ、今度一緒に探しに行くって楽しみが増えたと考えましょう」
「おぉ! 一緒に、探す…………楽し、そう!」
「でしょ? だから、こんな不届きな衣装はゴミ箱へぽい!」
躊躇いなく、女王様コスをゴミ箱に叩き込んだキッカさん。
……それはそれで、ちょっともったいないような…………
その後で、まるでボクを慰めるかのようにウィンクを一つ飛ばしてくれた。
キッカさん……ボクのために場の空気とグロリアさんの怒りに対処してくれたんですね。いい人だなぁ、ホント。




