46話 揺れる…… -1-
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なんということだろう……
シェフを助けようと空へ飛び出した時、わたしはパンツ丸出しだった……らしい。
恥ずかしい。
こんな時の心情を言い表した言葉がある。
『穴を掘りたい』
今はまさにそんな気分だ。
「気を付けなさいよ」
「う、うむ……」
キッカに釘を刺される。
いつも鎧を身に纏っているから、それに慣れてしまっていて……今回のことは完全なる油断だ。
気を付けなければ…………
シェフは、見た――の、だろうか?
後ろにいたキッカにも、上空にいたグロリアにも丸見えだったらしい。
では、前にいたシェフには…………
はぅっ!
ど、ど、どうしよう……もし、見られていたら、どうしようっ。
い、一応、綺麗に洗濯はしているが、それでも、やはり、なんというか…………見苦しいものを見せてしまったのではないかという不安がぬぐい去れない。
そんなことを考えるとぞっとして、血の気が引いてい…………おかしい、血が顔に集まってくる。は、鼻血を吹きそうだ……
「分かってんの? あんた、結婚する相手にしか肌を見せちゃダメなんでしょ?」
ぼーっとしていたわたしに、再度釘を刺すキッカ。
……結婚。
そう、肌は――特に、太ももやお腹などは、将来を誓い合った人にしか見せてはいけないのだと、父にキツく言い聞かせられていた。
「破れば、殺す」と、言われている……あの父ならやりかねない。いや、確実にやりに来る。
「もし誰かに見られたらどうすんのよ? その人のお嫁さんになるの?」
しかし、不意の事故で肌を見られてしまった場合は……
「…………そうなる、かと、思われる」
もしくは、その目撃者を……消すことになるかもしれない。
噂では、女性の肌を見たくて見たくて仕方のない男性が一部にはいるのだとか。そういった者たちは、時にひっそりと、時に強引に女性の肌を見ようとしてくるらしい。
もし、そういう者に遭遇してしまった場合……そして、肌を見られてしまった場合…………覚悟を決めなければいけない。
ヤらなければ、ヤられる。――父に。
だから、覚悟が必要だ。心を鬼にする覚悟が……
それが、心に決めた人でない限りは……
「――っ!?」
不意にシェフの顔が浮かび、心臓が驚いて軋みを上げる。
いや、違う。
結婚というのは、どちらかが一方的に願っても叶うものではないし、そもそも、こちらの都合を相手に押しつけるのは一体どうなのかと思わなくもないわけで…………『一方的に』!? 一方的に、なんだというのだろう? わたしは今、何を思ったのだろう?
わたしが、一方的に、シェフを………………なんだ?
け……
けっこ………………
「こけー!」
「どうした剣姫!?」
「反省、の、表れ?」
「いや、絶対違うでしょ!? 剣姫? しっかりしなさい、剣姫!」
落ち着け。
落ち着くのだ。
剣士たる者、いつも平常心を保たねばならない。
深呼吸……すぅ…………はぁ……
大きく息を吸う。
胸が持ち上がり、吐き出すと共にゆっさりと揺れる。
…………揺れる。
「なぜ、わたしの胸は揺れるのだろう……?」
「お、なんだ、ケンカか? 買うわよ、いくらでも! たとえ開始と同時に惨敗することになろうとも!」
「キッカ、落ち着いて。そんな、そっこーで、負けを、認めなくても」
「張り合う気すら失せるわよ、こんなもん!」
こんなもん……
そう、こんなもんだ。
こんなもんは……きっと、シェフに嫌われているに違いない。
シェフを助けたい一心で、無我夢中だったとはいえ……こんなもんを顔に押しつけてしまったのだから……避けられても、当然………………
「大きな胸が……憎いっ!」
「じゃあくれ!」
「キッカ、落ち着いて。あなたは、そっちへは、行かない、で。わたし、一人では、捌き、きれない、から」
わたしの胸が大きくなければ、きっとシェフに避けられることもなく、もっと…………『もっと』、なんだ?
それを考えようとした時、わたしの胸が『とくん……』と音を鳴らした。




