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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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45話 身近に潜む危険 -1-

 お、重い……


 少し寝ようと思っていたのだが(実際、一瞬気を失いはしたものの)、お腹の上にずんっとのしかかる重みに目が覚めてしまった。

 オレンジがぎっしり詰まった段ボール箱がボクのお腹の上に載っている。キッカさんが投げてきたヤツだ。


「とりあえず退かそう…………重い」


 こんな物をよく投げ飛ばせたな、あの細い腕で……筋肉の質が違い過ぎるのだろうか。

 そういえば、腕とか触ったことないかも。

 カッチカチなのかもしれないな。こう、筋肉の組織がみっちりと詰まってて。

 ボクの腕なんかやわやわなのに。二の腕なんかぷにんぷにんだ。

 そういえば、二の腕っておっぱいと同じ柔らかさだってお師さんが言ってたっけ…………うん、キッカさんの腕は硬そうだ。特に深い意味はないけれど。


「よ……いしょっ」


 段ボールの下から這い出す。全力で這い出す。死に物狂いで這い出す。


 はぁ……疲れた…………

 起きようとしたのだが、その起きようという行為のせいで疲れた……横になりたくなった。

 でも、その前に少しホールの様子を見てこようかな。

 やっぱり気になるし。


「もしかしたら、もう動き出したかもしれないな。あ、そうだ。何か簡単な物でも作ってあげよう、うん、そうしよう」


 ベッドから出ると、やっぱり気持ちは厨房へ向かう。

 お腹をすかせている人がいるならば、ボクは厨房に立ちたい。

 たとえ、ボクの中の血液の八割近く(個人による適当な感覚)が失われたとしても。


 そう思って部屋を出て、廊下を進み……あぁ、ここの段ボールを投げたんだ……とか思い、ホールへ続くドアを開けた――まさにその瞬間!


「剣姫、パンツ丸見えだったからね」


 ボクの脳が腕の筋肉へ緊急停止命令を発令した。

 全身の筋肉が一瞬で硬直し、ドアは薄ぅ~く開いた状態で止まる。



 その会話、もう少し詳しく聞きたいっ!



 ……あぁ、いや違う。

 このタイミングで出て行くと気まずい雰囲気になって、アイナさんが恥ずかしい思いをするかもしれない、だ。うん、そっちが正解、本心、いや、ホントに。


「パッ……パンツが……?」

「うん。カエルのパンツ」

「んなっ!? な、……なぜそれを!?」


 否定しない!?

 カエルのパンツ、確定キタァー!


「だから、丸見えだったんだって。あんたがタマちゃんを助けに行った時。風でスカート捲れ上がってたし」

「ふ、……普段なら、そのような事態には…………」

「うん。今、鎧着てないからね」

「わたし、も、見た。お尻に、大きな、カエル」

「グロリアまで!?」


 そんな、背後からも頭上からも確認出来るほどに丸見えだったのか!?

 ここが辺境の地でよかった!

 他の誰にも、そんなトレジャーを見せるわけにはいかない!


 っていうか、なぜボクはそれを目撃していなかったんだ!?

 すぐ目の前に、世界最高峰のトレジャーが存在したというのに!


 悔しさと安堵とちょっと変な高揚感がぐるぐると脳内を、そして体中を駆け巡っている。

 カエル……カエルのパンツ…………なぜカエル……?

 お師さんにパンツの購入代金をもらったから、忠義を尽くす意味合いで?

 ……いや、なんとなく目についたのだろう、カエルのパンツが。

 そして、なんとなく手を伸ばし、なんとなくレジへ持って行ってしまったに違いない。


 お師さんとアイナさんのパンツには、なんの因果関係も存在しない! しないでほしい!


「気を付けなさいよ」

「う、うむ……」

「分かってんの? あんた、結婚する相手にしか肌を見せちゃダメなんでしょ?」


 ……え?


「もし誰かに見られたらどうすんのよ? その人のお嫁さんになるの?」


 いやいや。

 まさか、そんな極端なことは……ない、ですよね?


「…………そうなる、かと、思われる」


 えぇっ!?


 衝撃の事実に、頭の中が真っ白になる。

 そんな……

 そんなことで決まっちゃうものなのだろうか、結婚って。


 そ、それじゃあ、もし…………もしも、何かの事故で、どこの馬の骨とも知れない男の前でアイナさんのスカートが捲れ上がったりしたら………………


「……それは、認められない」


 心臓がぎゅっと音を立てる。

 心拍数が上がり、吐き気がしてくる。


 もし……

 これから先、アイナさんが本当に好きになる人が現れて、それで、心から望んで、その……け、結婚……とか、そういうのをしたいというのであれば、それは……一応、ボクも祝福、する……と、思う。

 けれど、そんなついうっかりな風のイタズラで――「じゃ、結婚します」――みたいなノリで決まってしまったら…………ボクは世界を破壊しそうだ。


「……でも、待てよ」


 もしそうだというのであれば…………ボクが見てしまえば、アイナさんはボクのお嫁さんに………………



「そんなことが出来るはずがないじゃないかっ!」



 自室のベッドに飛び込み、枕に顔を埋めて叫ぶ。

 ……あれ? いつの間にか部屋に戻ってきていた。

 まったく記憶がないのだが……


 でも、そんなことはどうでもよくて……


「アイナさんが望んでいないことを、ボクは強要したくない」


 そもそも……


「強引にパンツを見るとか…………出来るわけがない」


 キッカさんやグロリアさんに殺害されかねないし、アイナさんならボクの奇襲くらい軽くかわしてしまうだろう。

 何より……



「そんなことをしてアイナさんに嫌われたくなんか、ない」



  もしも、アイナさんに嫌われてしまったら……そう思うだけで、世界から色が消え失せてしまったような空恐ろしさを感じた。


 そんな世界で生きていくことが、ボクに出来るとはとても思えなかった。





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