43話 疾走する【ドア】 -1-
ボクたちは、ドラゴンの里を目指していた。
『この向こう、川を越えた先に渓谷があり、その谷底でわたしたちは暮らしている』
突然土下座をしたグロリアさんには驚いたが、事情を聞いて、ボクたちはグロリアさんの棲むというドラゴンの里を目指すことにした。
その里では多くのドラゴンがお腹をすかせているらしい。
ならば、【歩くトラットリア】が駆けつけるのは当然だ。
ドラゴンの姿となり空を飛ぶグロリアさん。
その後ろを、【歩くトラットリア】の【ドア】がてぃんぽぃんと追いかけている。
ドラゴンの飛行速度は相当なものなのだが、【ドア】は難なく並走している。
ただし。
「ゆれ、揺れる、揺れてる! 速いぃぃぃぃいいいっ!」
グロリアさんを見失わないようにドアを開けたまま走っているため、物凄く揺れている。
【ドア】には目とかないから、こっちから指示を出さないと見失ってしまうのだ。だから、お師さんが迷子になった時も、ボクが自分の目で捜さなければいけない。オート発見機能でも付いていれば楽なんだけれど。
そんな便利なものは搭載されていないので、指示が必要になる。
まぁ、指示といっても、「あっちに行ってほしいなぁ~」と思うだけでいいので楽なんだけれど。
「けど……加減って言葉は知らないんだよね、【ドア】ってさぁぁああああ!?」
【ドア】は、常に全力疾走だ。
【ドア】は、閉じていると外からの影響を受けないのだが、開いている時はもろに影響を受けてしまう。
凄まじい速度で駆け抜ける【ドア】。足音こそ『てぃんぽぃん』と可愛らしいけれど、その速度は驚異的――いや、殺人的だ。
「こわぁあぁぁああああいぃぃぃいいいいっ!」
何を隠そう、ボクは速いのが苦手だ。
だって、落ちたら死にますよ、これ?
怖くないわけがないじゃないですか。
物凄く揺れてるし!
落としにかかってるんじゃないかと思うほどに、それはもうすごく揺れてるし!
「シェフ! 大丈夫か!? 危険だと思ったらわたしに掴まるといい!」
柱に体を固定しているアイナさんが、ボクの方へと手を伸ばしてくれる。
そちらを見ると……
ばぃん、ぽぃん、でいん、ぷりん!
もんんんんんんんんんんんのすごく揺れていた!
「ありがとぉぉぉぉおおおおっ!」
「余裕そうじゃん、タマちゃん」
出入り口そばの壁に手をついてバランスを保っているキッカさん。
冷たい視線はともかくとして、すごいバランス感覚だ。こんなに揺れる店内で、何事もないかのように立っている。
ボクなんか、座っていることもままならず、床にべったり寝そべっているというのに。
「こ、こんな、秘境に、す、棲んで、いるんですね、ドラゴ、ンって!」
「いや。以前はもっと分かりやすい場所に里があった」
「たぶん、人間に見つからないように、複雑な地形を求めて移動したんでしょうね」
「そ、そんな、場、所に、ボクたち、が、行って、いい、んでしょう、か!?」
「分からない……あまり、歓迎されないかも、しれない」
「けどさ、放っておけないよね、さっきのグロリアの様子を見ちゃったら」
「たし、確かに、ただごとじゃ、ない、感じ、でしたもん、ね」
「……わたしも、助けたい。受け入れてもらえはしなかったが…………わたしにとっても、懐かしい場所だから」
「理由なんていいんじゃないの? 今のあんたがそうしたいってんなら、それで」
「ボ、ボクも、そう、思い、ます」
「……うん」
アイナさんの思い出に深く刻み込まれている里のドラゴンたち。
ボクにとっては、それだけで十分に助ける理由になる。
……に、しても。
なんで二人とも平然としゃべれるんだろう……ボクなんか、この激しい振動でまともにしゃべれないというのに。
『……カタコト。…………ぷっ』
ナチュラルにカタコトのグロリアさんにまでテレパシーで笑われる始末。
違いますからね。ボクが軟弱なんじゃなくて、お二人が物凄い人たちなんですからね。




