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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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41話 ドラゴンの少女 -1-

『アイ……ナ…………?』


 そのドラゴンは、アイナさんの名前を呼んだ。


 さっき、アイナさんは言っていた。

「ドラゴンを助けるためにドラミルナ王国の砦を破壊した」と。

 もしかして、このドラゴンが、その時の…………


 みんなの視線がアイナさんに集まる。

 じっとドラゴンを見つめるアイナさん。真剣な顔をして……その顔が、微かに……傾げられる。


「ピンときてませんね、アイナさん!?」


 確実に知り合いだと思うんですけどね!?

 たぶん、ドラゴンの知り合いって、そんなに選択肢ないんじゃないかと。


『この姿じゃ、分からないかもね……アイナなら』

「絶対知り合いね。剣姫のことよく分かってる」


 確かに、アイナさんは誰かの顔を明確に記憶しておくとか苦手そうですもんね。

 ちょっと成長したり、髪型を変えると気付いてもらえない可能性が高い。

 なにせ、何度も戦いを挑んでいたというキッカさんのことをまるで覚えていなかったのだから。


『ちょっと待っていて。今、人化するから……』


 そう言って、ドラゴンは――ボクを物凄く怖い目で睨んできた。

 ……え?


『人化、するから』

「へ?」

『……察しの悪いネコ人間め』


 少し苛立たしげに言って、ドラゴンの爪がボクの頭を弾いた。

 引っ掻くように。


「ぅわっ!?」

「シェフッ!?」


 瞬間、ボクの視界が真っ暗闇に覆われる。

 かぶり物がくるんと反転したのだ。


「な、何も見えません!?」

「あぁ、タマちゃん。ちょっとそのままキープね」

「えっ!? なんでですか?」

「初対面の女の子のヌードが見たいってんなら、止めないけど?」


 ……あ、そういうことか。

 ドラゴンは服を着ていないし、ドラゴンサイズの服なんかそもそもあり得ない。

 そんな状態で人化したら、当然その人は裸なわけだ。

 そこは察してあげなければいけなかったなぁ。


 それから、なんだか不思議な音がして――ゲキョゲキョと、硬い物が擦れ合うような……たぶん、ウロコがぶつかる音だと思うけれど――そんな物が聞こえ、キッカさんが「へぇ……」と息を漏らし「結構可愛いじゃない」と明るい声で言い、「…………仲間ね」と、なんだか心のこもった言葉を呟いていた。

 ……そうか。あのドラゴンさん、キッカさんのお仲間なのか。


 それから衣擦れの音が聞こえてきて、数分後。


「タマちゃん。もういいわよ」


 キッカさんからお許しが出た。

 かぶり物を反転させて、暗闇から抜け出すと、目の前に小柄な女の子がいた。キッカさんよりも小さい。そして…………うん、確かにキッカさんと同じくらい小さい。


「どこを、見た、のですか、人間? 滅し、ますよ?」

「す、すみません! 聴覚のみで伝わった情報の事実確認を……!」


 やばい殺気を感じた。

 なんだろう……もしかして殺気って胸の奥から湧き出しているものなのかな?

 キッカさんしかり、ドラゴンさんしかり、すごくダイレクトに殺気を感じる。遮蔽物が少ないからかな……


「これで、どう、かな? 思い出し、た? アイナ」

「………………ん?」


 ピンときてらっしゃらない!?

 あ、ドラゴンさんが物凄く落ち込んでいる。

 あの、アイナさんなので、きっと、たぶん、ちょ~っとド忘れしてるだけなんじゃないかと……きっとそうですよ。


「ちょっと、ショック……かも、だな……」

「か、変わったしゃべり方ですね。ドラゴンの時の方が流暢にしゃべれていた気がしますけど、なぜなんでしょう?」


 なんとか空気を変えようと、そしてさりげなくアイナさんにヒントを出そうと話題を振る。

 その結果、睨まれた……えぇ~…………


「人化は、難しい……人間の、言葉、は、もっと、難しい……、練習、してる」

「ドラゴンの時はすらすらしゃべれてましたけど」

「あれは、会話では、なく、思念……テレパシー……」

「それ、人間の姿では出来ないんですか?」

「出来たら、やっている、と、分からない、のか、人間?」

「……ごめんなさい」


 なんか、すごく睨まれた。


「……あ」


 背の低いドラゴンさんに睨まれて、視線を上へと逸らしたら、頭に小さな角を見つけた。

 頭の左右に一つずつ、小さな角がちょこんと覗いている。


「可愛い角ですね」

「――っ!?」


 ボクの言葉を聞いた途端、ドラゴンさんは両手で角を握って、顔を真っ赤に染めてボクを睨んできた。ギロリと、ドラゴンの迫力で。


「見るな、ドスケベ! 卑猥の権化! 助平を煮詰めて濃縮したような高純度の不純物!」

「物凄い流暢な罵声ですね!?」


 高純度の不純物って!?

 なぜ、そういう時だけすらすらと……魂からの言葉だから、ですかね。


「おま、おまえの、お前のような、も、もも、……お前のようなももに!」

「『もの』だと思いますよ、『お前のようなものに』」


 ボクは桃ではありませんので。


「し、知って、いる! そう言う、つもり、だった! いや、言った!」


 物凄く意地っ張りな人だなぁ。

 単にボクが嫌われているだけかもしれないけれど。


「不埒! ふしだら! 不届き! 不潔! オケツ! お尻!」

「不潔以降、趣旨変わってると思いますよ!? 後ろ二つに関して特に!」


 ぷりぷりと、照れ隠しのように怒鳴って、麻の布袋から大きな帽子を取り出す。

 そして、二つの角と真っ赤な顔を隠すようにやたらと大きな帽子を被る。

 ぷっくりと膨らんだ丸いシルエットの大きな帽子。大きなキャスケットのような帽子。

 小さな顔の上に大きな帽子が乗っかって、なんとも可愛らしくて、とても似合っている。


「あっ!」


 そして、そんな帽子を見て、アイナさんが声を上げた。

 どうやら、思い出したようだ。






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