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スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


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38話 『鬼』と呼ばれた少女 -1-

「あの町、ドラミルナの領内だったんだって」


 買い物をさっさと切り上げ、【歩くトラットリア】に戻ってきたボクたち。

 アイナさんは少し疲れたと、自室へと戻ってしまった。


 なので、今フロアにはボクとキッカさんの二人きりだ。

 お師さんは、相変わらずどこにいるのか分からない。


「ドラミルナというのは?」

「ドラゴン狩りで名を上げたドラゴンスレイヤーの王国よ」

「ドラゴンスレイヤー、ですか」

「そう。アーマーナイトって重装兵を盾役として、アーチャーナイト、ランスナイト、マジックナイトの援護を受けて、ソードナイトがドラゴンを討つ――そんな国」


 防具屋で会ったあの重装カルテットって人たちは、そこのアーマーナイトだったのだろう。


「ドラゴンスレイヤー……ドラゴンを狩る者、ですか」


 ドラゴンを倒す目的は、おそらくその鱗や牙を持ち帰るためだろう。

 ドラゴンの血肉は様々なアイテムに活用されている。

 また、ドラゴンの部材は効果がとても高く、高値で取引されていると聞く。

 心臓は薬に、肉は魔法薬に、鱗は防具に、牙や角や爪は武器に――と、一頭のドラゴンを狩るだけで相当な金額が手に入る。


「集団でとはいえ、ドラゴンを狩る者たちが、たった一人の人間を見て悲鳴を上げるなんて情けなさ過ぎませんかね」


 あ、いけない。

 すごく嫌な言い方をしてしまった。

 それぞれに事情はあるわけだし、それを知らずに他人を批判するようなことは口にするべきではない………………とはいえ、アイナさんはウチの大切な従業員であるわけだし、そのアイナさんに無礼を働いたのであれば、責任者(代理)であるボクは代わりに憤るべきではないだろうか。


「腰抜けどもめっ!」

「うんうん。タマちゃんって、分かりやすいよね、善悪の線引きもさ」

「弱い者イジメしか出来ないヤツなんて、ろくでなしだと決まってるんですよ!」

「それは、自分が弱い者で、かつイジメられていたって自覚があるってこと?」

「う……ボ、ボクのことは、今はどうでもいいんです」


 確かに、めっちゃイジメられていましたけども。


「自分のことならどうでもいいんですよ、ボクは。割と我慢出来てしまいますし、死ぬような目に遭わされない限り、翌日には忘れてたりしますし」

「もうちょっと怒ってもいいと思うけど?」

「ボクとお師さんはどんな目に遭ったっていいんです」

「さりげなくカエル師匠を道連れにするんだね……」


 お師さんがイジメに遭っていても、「元気だなぁ~」くらいの感想しか抱けない気がします。

 それにお師さんをイジメられる人なんて、そうそういませんし。


「けど、従業員を傷付けるような人は、やっぱり許せません」

「剣姫だけじゃなくて、あたしもってこと?」

「当然じゃないですか。アイナさんもキッカさんも、ボクにとってかけがえのない大切な人なんです」

「………………そ、か。ありがと」


 俯いて、肉がついていない焼き鳥の串を指で弄ぶ。


「おかわり欲しいですか?」

「いや、そういうんじゃないから」

「そう、ですか?」


 帰ってくるなり「焼き鳥食べたい」って言うから、ねぎまとももを焼いて出したんだけど、串をいじられていると食べ足りないのかと思っちゃうな。

 違うのかぁ。残念。

 おかわりはまた今度ですかね。


「タマちゃんは従業員を大切に思ってくれてるんだね。……ちょっと見直した」

「そりゃ大切にしますよ。お二人には何度助けてもらったか」

「それを言ったら、あたしだって……」

「え? なんです?」

「なんでもない」


 空になって串だけが残った皿を返される。

 例によって、ボクは厨房に、キッカさんはカウンター席に座っている。


 お皿を受け取り、串を捨てて、流しへとお皿を置く。

 お皿……


「あのお店を出る時なんですけど……」


 出る時にも失礼なことがあった。

 そこはきちんと文句を言っておきましたけども。


「キッカさんに向かって酷いことを言った人がいるんですよ」

「あたしに? 気付かなかったけど……なんて言ってたの?」

「聞かない方がいいですよ。気分悪くなりますから」

「平気だよ。あたしはそういうの慣れてるし。で、なんて言ってた?」


 ボクたちが店を出る時、キッカさんが先頭で、アイナさんがそれに続いて、ボクは二人の背中を見つめながらお店を出た。

 最後にもう一度、何もしなかったくせに失礼だけを働いた接客業失格の店員の顔を見てから、店を出た。


 その時、入り口付近にいた男がキッカさんを見て言ったのだ。

「トウキだ……」と。


「だからボク言ってやったんです。『誰の胸が小皿ですかっ!』って!」

「『盗鬼』! 剣鬼に対して、盗賊として名をあげていたあたしのことを一部の連中が『盗鬼』って呼ぶようになったの!」

「えっ!? 『陶器』じゃないんですか!? セトモノ的な!?」

「違うわよ!」


 そうか、勘違いだったのか。

 悪いことをしてしまった……


「……で、なんで『陶器』って聞いて『小皿』ってワードが出てきたのか、じっくりと話を聞かせてくれるかしら?」

「あっ! そうだ! 食料庫にリンゴが残っていたはずだ! ちょっと持ってこよう!」


 さりげない演技と共に、ボクは厨房から離脱する。

 ……だって、キッカさんに向かって『陶器だ』って……そんなの、小皿を連想するに決まってるじゃないですか!

 ……せめて大皿って言っておけばよかっただろうか…………悔やまれる。






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