37話 鎧を見て -1-
「……で、どうしましょうか?」
ちょっとお店ではしゃいでしまって追い出されたボクたちは、とぼとぼと布屋小路を歩いていた。
慌てて精算したのは、アイナさんのドレスとバニーガールの衣装のみだ。
折角着飾る衣装を買いに来たというのに……
「お二人の分しか買えませんでしたね……」
「シェフの服しか買えていない……」
「タマちゃんの服しか買ってないねぇ……」
…………ん?
偶然にも揃った声は、ボクの聞き間違いだとは思うのだけれど、なんとなく……ボクの意見と食い違っているように感じた。
「こ、困りましたね」
「うむ」
「そうね」
そうそう、みんな困っている。
そこは一緒。
「シェフのドレスしか――」
「タマちゃんのバニーガールしか――」
「「買えてない」」
「もう一軒行きましょう! 早急に! 可及的速やかに! 過不足なく!」
ヤバい!
このままでは、あの衣装のどちらかを着せられてしまう!
最悪の場合、両方着せられかねない!
……バニー姿なんか、アイナさんに見せられない。
今すぐ別のお店に入って、カッコいい、そう、たとえば全身鎧とかを買って「ボクはこれを着ます!」と高らかに宣言しなければいけない!
大惨事を引き起こす前に食い止める!
「あっ、あそこにいい感じの防具屋さんが! ボク、あぁいうところ見てみたいなぁ! わぁ、楽しみ~!」
「えぇ~、あそこたぶん普通の防具屋だよ?」
「普通っていいですよね! 普通最高! 人生、平穏が一番です! さぁ、行きましょう! さぁ、アイナさんも!」
「う、うむ……シェフがそう言うのなら」
なんとなく「もっと他の面白そうなお店がいいのになぁ」的な雰囲気を醸し出す二人の背中を押して、ボクはごく一般的な防具屋さんへと入っていった。
金属と油の匂いが充満していて、少しむせそうになる。
こ、これが、冒険者の世界か……空気が濃い気がする。
「ボク、鎧って着たことないんで、着てみたいなぁ~」
と、さりげなく自分の意思を主張しつつ店内を見て回る。
お祭りの日だからか、はたまたいつもこんなに賑わっているのか、店内にはたくさんのお客さんがいた。ただ、先程の店とは違い、客層が濃い……というか、物凄い筋肉率だ。
この店にはドレスコードならぬ『筋肉コード』でもあるんじゃないかと思ってしまうほど、店内にいる人たちはみんなむっきむきだった。
「おい、ボーズ! 邪魔だ、退け!」
「は、はい! すみません」
店内をきょろきょろ見渡していると、後ろからトゲトゲの鎧を身に纏ったモヒカンヘアーのおじさんに怒られた。通路を塞いでしまっていたらしい。
……しかし、あのトゲトゲ鎧は防具なのだろうか、武器なのだろうか。
「ほら、タマちゃん。うろちょろしてるとさらわれちゃうわよ」
キッカさんがボクを手招きして呼ぶ。
「そんな、子供じゃないんですから……」
「何言ってんの。大人の女の人もさらわれちゃうような世の中なのよ」
「……女の人でもないんですが?」
キッカさんはもうずっと面白がっている。
まったくもう……




