34話 異国の正装 -3-
「シェフ。先代オーナーの故郷のお祭りで、女性はどのような格好をしているのだろうか?」
「魔法少女ですね」
「……まほう、しょうじょ? えっと……魔法使い、だろうか?」
「いえ! もっとふりふりでひらひらでカラフルでミニスカートなのにチラリしない、そんな可愛い衣装です!」
「あ……う…………よく、分からないのだが……」
「あとはビキニアーマーです!」
「びきにあーまー? 鎧、だろうか?」
「はい! 胸と腰だけを防御し、あとは肌を露出させている女性用の素晴らしい鎧です!」
「防御力が極めて低そうなのだが!?」
「アイナさん。鎧に必要なのは防御力ではありません!」
「防御力だと思うのだが!?」
「タマちゃん。期待が膨らみ過ぎてカエル師匠化してるよ。あとで後悔するんだから、ちょっと自重しなさい」
はっ!?
キッカさんの冷静な声でボクは我に返った。
指摘されたとおり、「ここでアピールすれば、アイナさんが着てくれるかも!?」という期待が膨れ上がり過ぎて、自分が何を口走っているのか客観的に見られなくなっていた!
…………死にたい。
「すまない……わたしは、その……肌を出すような格好は……遠慮したい」
「で、ですよね!? いえ、これはあくまで、先代オーナーの故郷のルールですから! 先代オーナーの故郷の女性たちの正装が、魔法少女だったりビキニアーマーだったりスク水ニーソだったり『えっ、それもう紐じゃん!?』みたいなドレスだったりするだけで、決してアイナさんに強要するつもりはなかったんです! 本当です!」
「紐みたいな服着せるつもりだったの?」
「い、いえ……そんなことは…………ふしゅ~ふひゅ~」
「口笛、全然吹けてないわよ……」
以前、お師さんの部屋で見た、上半身裸にサスペンダーオンリーで見えちゃいけない部分だけを隠した肖像画がありまして…………いつか、実物を見てみたいと……儚い夢です…………ふふ。
「わ、わたしは、やっぱり無理かもしれない……キッカと違って、紐のような服を着ることは出来ない……!」
「あたしも無理なんですけどー?」
「い、いえ! 普通の服で行きましょう! いつも通りの服で!」
コスプレは、あくまで先代オーナーの故郷でのマナー。正装。
ボクたちはボクたちなりのマナーと節度を持って参加すればいいのではないかと、そう思います。
「じゃあさ、前夜祭を見てみて、その雰囲気に合わせる感じで本番に挑むっていうのは?」
「あ、いいですね、それ!」
キッカさんがナイスなアイデアを出してくれた。
やはり郷に入っては郷に従うのがベストだ。
周りと同じ。それで行きましょう!
「……でも、もし。周りの人が全員紐みたいな服を着ていたら?」
「その時は、仕方ないから――」
「仕方ないから」と、キッカさんがボクを見る。
まさか、その時は郷に従っちゃおう的な……?
「――不参加で」
「ですよねぇ」
うん。
分かってましたとも。
ボクだって、嫌がるアイナさんの肌を無理矢理見たいとは思いませんよ。
……大丈夫。
落ち込んでなんか、ないもん。




