表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルマ剣姫と歩くトラットリア  作者: 宮地拓海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/190

34話 異国の正装 -2-

「じゃあさ、剣姫。冒険者になってからは?」

「どうにも苦手意識が払拭出来ず……今に至るまで参加はしていない」


 苦手意識があるのか……


「だったら……」

「なおのこと、参加するべきよね」


 ボクが「やめましょうか」と言いかけたところで、キッカさんが参加を推奨した。

 すごくいい笑顔で。


「今日は朝から祭りの準備をして、明日は一日中騒ぎまくる。それが収穫祭なの」


 カウンターの席を立ち、フロアの中央へと歩いていく。

 ボクとアイナさんの視線を一身に受け、両腕を広げて熱弁を振るうキッカさん。


「人が集まるところには、必ず商人が集まるのよ。だから、準備の段階からあちらこちらに出店が並ぶの。おいしい食べ物から異国の雑貨、日用品から可愛いアクセサリーまで。その種類は多岐にわたって、無節操で無茶苦茶で、ごった煮みたいで楽しいの」


 生き生きと語るキッカさん。

 アイナさんとは対照的に、収穫祭が大好きなんだなってよく分かる。


「前夜祭のうちにお店をぐるっと回って、本番当日はひたすら飲んで食べて踊って歌う。翌日は、後片付けという名の後夜祭でお酒を飲みながら来年の収穫祭の話を語り合う。それが、収穫祭なのよ」

「基本的に、飲んで食べてなんですね」

「そうよ。だって、収穫祭だもん。収穫した物のありがたみを胃袋でたっぷりと感じなきゃ」


 そういう物なのか。


「刈り取った稲穂を積み上げて巨大なモニュメントを作り、夜になるとそれに火を放つの」

「モニュメント?」

「うん。その土地で祀っている神様を模したのが基本かな。狼とか、鳥とか、龍とか」

「それを、燃やしちゃっていいんですか?」

「稲穂だからね。その神様に、『今年はこんなに収穫出来ました。来年もよろしくお願いします』って、煙に載せて天へ返すのよ」

「なるほど。そういうことなんですね」


 毎年一度、人間と神様がそうやって繋がる日。

 それって、なんだかとてもいい習慣のように思えた。

 感謝の心を忘れない。それは、生命をいただいている者たちにとってとても大切なことだから。


「俄然行きたくなってきました」

「美味しい物もたくさんあるんだよ」

「あ、ボクはそういうのより、お祭りの雰囲気を楽しみたいですね」

「あ……そ」

「……キッカ」

「…………分かってるって」


 なんだか微妙な空気が流れた。

 アイナさんとキッカさんが目配せをして、そして視線を逸らせる。


「そういえば、お祭りの時に着る服とかあるんですか?」

「着る服? ドレスコードみたいなこと?」

「いえ、そういうのではなくてですね……」


 お祭りを盛り上げるための衣装。

 そういう物があると、お師さんに聞いたことがあるのだ。


「先代オーナーの故郷では、毎年夏と冬にとても大きなお祭りが開催され、何十万人もの人が集まるんだそうです」

「何十万人!?」

「それはすごい……各国からほとんどの住人が集まってくるのだろうか」


 大きな街でも、人口は数万人。王都と言われる大都会でも五万人前後。十万人も人は住んでいない。

 そんなに一つの街に人間が集中してしまったら、食料がなくなってしまう。


 つまり、三~四つほどの王国からほとんどの住人が押し寄せてくるような大規模なお祭りというわけだ。

 先代オーナーの故郷。規模が凄まじい。

 さすが、この【歩くトラットリア】の基礎を作り上げた人の故郷だ。


「それで、そのお祭りでは『コスプレ』という衣装を身に纏うのがマナーなのだそうです」

「「こすぷれ?」」

「はい。ボクもお師さんから聞いただけなので、詳しくは知らないんですが……」


 コスプレというのは、実に多岐にわたるカテゴリーの中から自分に合った衣装を選ぶのだという。


「男性なら、甲冑や制服、魔物や動物に扮する人もいるそうです」

「え? 決まってないの?」

「はい。ただ一つだけルールがあります」

「そのルールとは、どのようなものなのだろうか?」


 コスプレのルール。それは――


「普段の自分とは、まったく違う格好をする。――というのがルールです」

「普段の自分とは、まったく違う……たとえば、シェフならわたしのような鎧を身に纏う、ということだろうか?」

「そうですね」

「あはは。似合わなそう」


 む。

 酷いですよキッカさん。

 ボクだって、ちゃんとした鎧を身に纏えば、一端の男に見えるんですからね。


「では、わたしはシェフのようなエプロンを」

「剣姫は普段からエプロンしてるじゃん。ダメだよそれじゃ。もっと違うのにしなきゃ」

「もっと、違うの…………う~む……」

「ちなみに、あたしが普段と違う格好をするんだったら――」

「巨乳じゃな」


 ――どん!

 ぐぇっ!


「あれ? 今、お師さんの声が聞こえなかっただろうか?」

「さぁ? 気のせいじゃない?」


 キッカさんが涼しい顔で嘘を吐いている。

 床を踏みしめているキッカさんの足の下に、見慣れた緑色のぬめぬめした物体が見え隠れしているが……うん。見なかったことにしよう。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ