33話 深夜の秘め事 -3-
ひとしきり心地良い冷風を堪能した後、大根を探す。
広い冷蔵庫の中には、肉の塊が入っていた。……まだこんなに残ってるのか、鶏。
お前のせいで……お前がやたらと美味しいせいで……
恨みを込めた目で睨みつけ、ドアを閉める。
冷蔵庫は全部で三つある。
さっきのには肉しか入っていなかったので、隣の冷蔵庫を開ける。
……と、そこには何種類もの野菜が入っていた。
おぉ、結構あるじゃない。
「あった。大根!」
冷蔵庫の中から大根を引っ張り出してくる。
丸々と太い、立派な大根だ。
うん。これだけあればかなり胸がスッキリするに違いない。
あたし、思うんだけど。薬とかって、ちまちま飲まないで一気に飲んでやればその場で回復すると思うんだよね。
なので、大根も豪快に丸ごと一本食べてみようと思う。
これで、この胸のムカつきともおさらばよ。
勝利を確信し、魔王を討ち滅ぼした伝説の勇者のように大根を高々と掲げる。
……いや、伝説の勇者が掲げたのは剣なんだろうけれど、気分的に、ね。
「…………あれ?」
冷蔵を閉めようとした時、野菜の奥におかしなものを見つけた。
というか、お菓子を見つけた。
あれは確か、『プリン』とかいう、最高に甘くて最強に美味しいデザートだ。
以前滞在していた街で食べたことがある。
セレブが夢中になる高級デザートだと聞いていた通り、凄まじく美味しいものだった。
多少サイズは違うけれど、あの質感、間違いない。
絶対プリンだ。
まさか、タマちゃんがプリンまで作れるなんて……
「ちょっと味見させてもらおうかなぁ~」
かなりの大きさなので、みんなで分けても随分と残ってしまうだろう。
だってあれ、直径15センチくらいはある。それが二つもあるのだ。
少しくらい食べたって、きっと怒られない。怒られたら、その時謝ればいい。
「んふふ。タマちゃんだもんね。怒らないよねぇ~♪」
うきうきとした気分で、野菜の奥へと隠されていたプリンを引っ張り出して……隠されていた理由を知った。
「…………なんじゃこりゃっ!?」
そこにあったのは……おっぱいだった。
それはそれは大層ご立派な、おっぱいだった。
……あの男…………何作っとんじゃい!
ちょっと揺らしてみる。
ゆっさ……
…………ぷるん。
って、やかましいわ!
揺れる音すら、やかましいわ!
「…………どんだけ好きなのよ……」
大きければいいってもんじゃないでしょー!?
……という言葉は、必死に飲み込んだ。
それは、負け惜しみに聞こえかねないから。
あたしに全然そんなつもりがなかったとしても! 世間的に! 第三者的に聞けば!
もしかしたら、そんな風に誤解されてしまいかねないから!
「………………デカいと、垂れるっつの」
でも、ちょっとした毒だけは吐いておいた。
別に負け惜しみじゃない。ただの真実だ。
あたし別に、全然悔しくないし? つか、負けてないし?
あたしって小柄だし、比率で言ったらむしろいい感じだし?
「…………食ってやる」
ヤツがこっそりと楽しむために作ったのであろう悪しきソレを、たった今、この世界から抹消してやる…………
ふふふふふふふ……まともな食事は一切口にしないくせに、こんな大きなおっぱいプリンは食べるのかしら? それとも眺める用かしら? 突っつくとさぞ気持ちがいいでしょうねぷるんぷるんですものねぇ、おほほほほ!
「明日の朝、この場所で泣き崩れるがいいわ……」
あたしは今、魔王になる。
心に魔を宿す。
邪神よ……我に力を…………この巨大な存在を無に帰すだけの力を…………
「巨乳は……この世から消え去るがいい…………」
胸やけ?
そんなもん知るか。
こっちにはお大根様が丸々一本ついているのだ。
鳥のむね肉と、胸のぷるぷるプリン……どっちも相手にしてやろうじゃない!
胸やけ――あたしと勝負よっ!
フォークなんてまどろっこしいものはいらない。
これは、あたしとむね肉と、そして胸プリンとの真剣勝負!
小細工はいらない。素手と、この口で、あんたを滅ぼす!
――ぷるん。
「…………」
う~っわ。すっごいぷるんぷるん。
試しにちょっと指で突っついたら、とんでもない弾力だったわ。
これだけ弾力があれば、垂直にしても垂れないかもね…………
「…………垂直にしても………………」
特になんという理由もなく。
それでどうしたいとか、理由とか信念なども一切なく。
ただなんとな~く。
あたしはおっぱいプリンが載ったお皿を手に取り、胸元へと近付けていった。
そして、何気な~く、お皿を立てて胸に……
「っと!? …………危なかった…………っ」
お皿を垂直にしようとした瞬間、プリンがお皿から落ちそうになった。
そりゃそうだ。
いくらプリンが崩れないと言っても、お皿にくっついているわけはないのだ。
傾ければ落ちる。当然じゃない…………
どきどきどきどき……
あたしは、何をしようとしていたんだろう……
「つ、疲れてるのね…………おっぱいプリン、勝負は預けておくわ」
今日は、無理だ。
こんなコンディションでは勝負にはならない。
また今度出直すことにする。
胸やけも酷いし。
そう思い、おっぱいプリンを冷蔵庫へ戻そうと持ち上げて…………あたしは動きを止めた。
「…………」
動きを止めてしばらくの間、あたしは……本当にどうでもいいことを、考えていた。




