奴隷としての生活:ペットと家畜と狩猟編
さて、王家直属の奴隷である俺は割と色々なことをさせられていた。
単純作業では建築作業、農作業、専門作業では通訳、家庭教師、特殊なところでは海上交易の時はオールこぎなどだ。
「よく考えたら随分いろいろなことをしてきたよな」
通訳は何故か俺にはエジプトの言葉だけではなく他の地域の言葉もわかるからなんだがな。
因みに覚えていない文字は読めないからギリシャ語やシュメール文字、ヒッタイト語楔形文字、アッカド語楔形文字、エラム楔形文字、古代ペルシア楔形文字、ウガリット文字などはわからない。
神官なんかはこれもわかるんだからすげーな。
因みにエジプト自由民の出身なら文字の読み書きができるだけでも書記官としてそれなりに豪勢な暮らしができるはずなんだが、身元不明で住所不定無職扱いの奴隷の俺にはそんな恩恵はないんだぜ。
「まあ、別に富裕層のほうがいいとも限らんけどな」
エジプトの富裕層は毎日にように宴会をしてるから虫歯や歯槽膿漏、肥満や糖尿病や中風といった生活習慣病に悩まされていて、延々と虫歯の痛みに困ってるようだからな。
ちなみに女王ハトシェプストも例外じゃなくぶっちゃけ、けっこう太ってるし、彼女は晩年は腰骨まで侵食した悪性腫瘍いわゆるガン、虫歯、歯周炎、関節炎、骨粗鬆症、糖尿病、皮膚病等を患っていた。
晩年では口の中に雑菌が大量に繁殖し繁殖し、痛みなどで口を開けられない状態になり抜歯をしたため菌が全身を蝕み、死んだらしいからなぁ。
「そんな死に方はしたくないよな、まったくもって」
肉や魚がメインの狩猟民族と違って、農耕民族はどこもだいたい虫歯に長い間苦しんできたらしい。
インドのように砂糖の精製が早く行われてきた地域は特にだな。
「まあ結局歯磨きとうがいが大事なわけだけどな」
俺はただの家庭教師だが、ネフゥルウラーには食事後には必ず歯磨きとうがいをするように勧めてる。
「王女様、虫歯になると一生、とてつもない激痛と
付き合わないといけませんから、歯磨きとうがいは必ずしてくださいね」
「はい、お母様とか大変そうですものね」
「ええ、ですから若いうちから虫歯にならないように
ちゃんと歯磨きの習慣をつけておきましょう」
「はい、分かりました先生」
さて、今日の仕事は王家の狩猟に従事する日だ。
古代エジプトでの狩猟は食べ物を得るためのもの。
飼ってペットにするもの。
権威を誇示するためのものの3種類に分けられる。
食べ物を得るためというのは聞いての通り、食材を得るための狩りで主にガゼルやシマウマ、ウサギなどの草食動物や鴨や鳩、鶉、水鳥などを狩って食べる。
因みに古代エジプトでは鴨は高級食材だ、冬の一時期しか取れないからな。
ペットを得るためのものというのも聞いての通り、変わった動物を飼うことは権力の象徴だから色々な動物を捕らえてはペットにしていた
ゾウ、ヒョウ、ライオン、カバ、ワニ、ヒヒ、ハイエナ、シマウマ、ガゼルなど。
ただこれらの動物はほとんど人に懐かないので、あくまでも檻などに入れて飼うだけだけどな。
家畜としては犬、猫、ロバ、馬、牛、山羊、羊、豚、鶏、家鴨、ホロホロ鳥などがいる。
変わったところではチーターも家畜として猟犬と同じように狩りに使われている。
しかし、チーターは繁殖能力が飼育下ではものすごく低い。
ホロホロチョウというのは大雑把に言えば鶏の親戚みたいな雉の仲間の飛べない鳥だ。
エジプトは特に夏は暑い気候なので、食べ物はどんどん腐ってしまう。
それで腐った食材の廃棄は、昔は道ばたや川に捨てられて、ファラオがそれを禁止したりもしていた。
いまでは、飼っている家畜主に豚や鶏に食糧として人間の残飯を食べさせてる。
豚が不浄とされる地域があるのは残飯や糞尿を食わせて育ててるのを受け入れられなかったんだろう。
権威を示すためのものというのはペットを得るためのものとほぼ同じだが主にライオンや大型の野牛を狩ることで王としての権威を示すというものだな。
狩猟用の道具としては網や弓矢、槍や槍投げ器、ブーメランやボーラなどが使われる。
ボーラというのは丸めた石を革で包んで紐をつけ、それを3つほど結びつけたもので振り回して投げると複数の石が当たったり紐が足に絡みついたりする。
今日は食材を得るための狩りだから、まだ危険は少い方だ。
「よし、行こうか」
今日は男奴隷と二人組だ.
危険な動物の狩りの場合はもっと大勢で狩りを行うが今日は反撃されたりする動物を狩るわけじゃないからな。
「おう」
鳥を狙うにはブーメラン、ガゼルを狙うにはボーラや弓矢が主に使われる。
うさぎの場合は弓矢だな。
俺は弓矢を使う技術はないのでボーラを手にしている。
ハウンドが走り出してウサギを追い立ててきた。
「よし頼む」
「あいよ、任せろ」
彼は弓に矢をつがえると兎を見事に狩ってみせた。
その場で血抜き処理をして痛まないようにする。
「流石だな」
「なに、大したことはないぜ」
いやいや、大したもんだと思うぜ。
次の得物はガゼルだ。
「うし、うまく行ってくれよ」
俺は頭の上でボーラを振り回してガゼルめがけて投げた。
ボーラはうまく足に絡まり、ガゼルが倒れたところに、相棒が矢をいて仕留めてくれた。
「よっしゃ、ありがとな」
「よし、血抜きをして持って帰ろう」
俺達はガゼルを血抜きして、棒に足を結わえて二人でそれを肩に担いでもどった。
今回のガゼルはそれなりの大きさとはいえ結構重いのだ。
そして王宮の厨房に運び入れれば今日の仕事は終わりだ
「流石に疲れたな」
「ああ、早く帰って休むとしようぜ」
「そうしよう」
俺達は川で血を洗い流して家に戻ると、飯を食って寝ることにした。