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奴隷としての生活:エジプト神話オシリスとセトの諍いと俺とミウとの巡礼新婚旅行編

 さて今日は、家庭教師の日だ。


 俺はネフェルウラー王女のところへ行ってエジプトの神話を教えることにした。



「さて、ネフゥルウラー王女。

 ラーは地上より追放された後、自らが太陽を回す仕事を押し付けられました。

 ラーは朝に炎と再生の不死鳥ベヌウによって暖められ息を吹き返し、東から西まで太陽を運ぶと力尽き、翌朝までベヌウに温め直されまた朝になると息を吹き返し太陽を回すということを延々と繰り返すようになりました。

 そしてラーが地上から去ったあとの地上を治めることになったのは大地の神ゲブと、天の女神ヌトの間に生まれた子供の長男であるオシリスでした。

 今までの神々と同じようにオシリスは妹のイシスと、セトは妹のネフティスと結婚しています。

 一人余ったハロエリスは東の方に旅立ったと言われています」


 ネフェルウラーが首を傾げて聞いてきた。


「ハロエリス様はその後どうなったのですか?」


 俺は苦笑して答えた。


「ハロエリスは後にホルスとなって生まれ変わったと言われています」


 彼女は嬉しそうに言った。


「そうだったのですね、なら良かったです。

 一人寂しくされていたのでは可愛そうですものね」


 うん、」実はその可能性もあるんだ。


 ハロエリスは大ホルスともいわれてるがオシリスとイシスの子供のホルスとは別という話もある。


「ともかく、オシリスはそれなりに上手く地上を治めていました。

 ラーの治世では動物の狩猟や木の実や果実の採集を主に行った生活でしたが、ラーが地上から離れたことにより世界は寒くなり、雨がふらなくなって森林がとっても少なくなって砂漠になってしまいました」


 俺の言葉にネフェルウラーは驚いたようだった。


「まあ、昔はこのあたりに森があったのですか?」


 俺は頷いた。


「ええ、そう言われています。

 オシリスは生産と豊穣と植物の神として、トートの知恵を借りながらナイル川周辺での麦や野菜の栽培方法やパンやビール、ワインなどのお酒の作り方を人々に広め、動物の育て方や乳の絞り方、それを使ったチーズの作り方を教え、法律を定めてそれを告知し、文字を作って作って広めることにより人々の絶大な支持を集めました。

 しかし、その様子を見て弟のセトは嫉妬しました。

 彼はオシリスより自分のほうが優れていると思っていて、ラーのあとを継ぐのは自分であるべきだと思っていました。

 まあ、長男のオシリスは、割と優しくてのんびりとした、神様だったようで、セトのそんな感情には気が付かなかったようです。

 それがさらにセトを苦しめセトはオシリスを暗殺しようとしました。

 まずは、大きな宴会を開きオシリスが酔っ払ったところを殺そうと企んだのです。

 しかし、ここで重大な事件が起きます。

 宴会で盛大に酔っ払ったオシリスは、寝室を間違え妻のイシスとその妹であるネフティスを間違えネフティスを押し倒してしまいました。

 オシリスとセトはあまり似ていませんでしたがイシスとネフティスはそっくりな姉妹だったのです。

 そしてさらにまの悪いことにそれをセトは見てしまいました」


 彼女は驚きながら言ったんだ。


「大変なことですね」


 俺は頷いて言葉を続けた。


「はい、とても大変なことです。

 オシリスは酔っ払っていてイシスとネフティスの区別がついていなかっただけかもしれませんが、セトは大事な奥さんまでオシリスに取られたと思ってしまったのです。

 まあ、よけいなことを企まなければよかった気もしますけどね。

 怒りが頂点になったセトは協力者の72名の廷臣達とオシリスを暗殺しようとします。

 セトは、とても豪華ないちじくの木製の棺桶をつくらせて宴の席に運ばせ、その棺桶にピッタリ入った者に進呈しようと言いました。

 立派な棺桶と言うのは昔から人々の憧れだったのです」


 彼女はコクコクと頷いた。


「なるほど、わかります。

 私だって欲しいです」


 俺は苦笑しながら続けた。


「その気持はわかりますが、気をつけてくださいね。

 さて宴の参加者たちは、入れ替わり立ち替わりで棺桶の中に横たわって試してみましたがみんな大きすぎたり小さすぎたりで、ぴったり入れる者はいませんでした。

 それもそのはずで、もともとこの棺桶は、オシリスの寸法にピッタリあわせてセトが作ったものだったからです。

 最後の最後にオシリスが自分にピッタリの棺桶に気持ちよく横たわったのです。

 するとオシリスが抵抗する暇もない間にセトの部下が乱入し棺桶に蓋がかぶせられ、オシリスの入った棺桶は、ナイル河へ投げ込まれました。

 それをしったイシスは川下の北側へ流れていく棺を追いかけていきます。

 この時ネフティスもいっしょにオシリスを追いかけたそうです」


 彼女はコクコクと頷いた。


「なるほど、わかります。

 私だって追いかけていくとおもいます」


「こうして、兄オシリスを棺桶に閉じ込めて、ナイル川に流しセトは兄から王の座を簒奪しました。

 一方オシリスを探してナイル河をずっと下っていったイシスは、立派な棺が中洲の国ビブロスに流れ着いたと聞いて魔術で人の姿に变化して、ビブロスの国に入りました。

 この頃のナイルの中洲は一緒の国ではなかったのですね。

 オシリスは豊穣と植物の神だったため、ナイルの上流から流れ着いた棺はいちじくの木が生え、その木はオシリスの入った棺桶を中に入れたまま大きく育ち、ビブロスの王はこれを使って宮殿の柱を作りました。

 イシスはこれを知り、喪服を着て、ビブロス宮殿へ行き、王子の乳母となりました。

 イシスはその御礼にと王子を不死にすべく、炎と再生の不死鳥ベヌウの象徴である火の上にかざしました。

 しかしビブロスの王妃のアスタルテがこれを王子を殺そうとしていると誤解して、王に止めさせるように訴えたので、王子は不死となることができませんでした。

 イシスは背中にトビの翼を持った女性という神の元の姿に戻って、自分の素性とオシリスが入った棺が柱になっている事情を明かして納得してもらい、オシリスの入ったいちじくの木の柱を魔術で小さくして回収すると棺をブートーの沼地の葦の茂みの中にかくしてオシリスを生き返らせる方法を探すためにその場を離れました。

 しかし、イシスがオシリスを見つけて生き返らせようとしていることを知ったセトは、部下に命じて虱潰しにそれを探させ、オシリスの入った棺桶を見つけオシリスの遺体を14に切り刻んでバラバラにナイル川に

 投げ込みました。

 イシスはネフティスやネフティスとオシリスの息子アヌビス、川の神でワニの神でもあるセベクなどの力を借りてばらばらにされたオシリスの体を見つけていき、そのたびにその場所に神殿を建てて葬式を行ったのです。

 その為エジプト各地にオシリスの神殿が今でも存在し、オシリスの巡礼の始はアビドスから始めますが、アビドスは一番最初にオシリスの頭を見つけた場所だったからだと言われています」


「なるほど、そうだったのですね」


「こうしてイシスはオシリスのばらばらにされた13の部分を取り戻しましたが、男根だけはナイルの魚に食われてなくなってしまいました。

 イシスは土で男根の模造を作って、油を塗りアヌビスがオシリスの遺体を包帯で巻いてつなげました。

 アヌビスはそれにとって、ミイラづくりの神となったのです。

 さて、アヌビスによってつなぎあわされたオシリスの遺体をイシスは、妹ネフティスと協力して、復活の魔術儀式を行い、オシリスは蘇りました。

 しかし、体の一部が欠けたままなので、地上に留まることは出来ず、オシリスは、地下の死者の世界へ行き、冥界の神になりました。

 そして、オシリスが死んで冥界下った時真実と正義と秩序をつかさどる女神マアトは地上に正義はなくなったと嘆きオシリスと一緒に冥界へ行ってしまいました。

 マアトは冥界裁判を行い死者の罪状を読み上げ、天秤の片方に死者の心臓、もう片方にマアトの羽を載せ、つりあわないときは過去に悪行を犯したということがわかり罪人はアメミットに心臓を食べられ、

 地上へ戻ってくることはできなくなったのです」


「恐ろしいことですね」


「はい、ですので生きているうちに罪を犯してはいけません。

 さて時間ですね、今日はこのくらいにしておきましょう」


「はい、先生ありがとうございました」


 俺はネフェルウラーの部屋を出て、給料を受け取って家に戻った。


「ただいま、ミウ」


「おかえりなさいお兄ちゃん」


 俺はもらった給料のはいった袋を見せてミウに言った。


「今月の給料が出たからそろそろ巡礼の旅行に行けそうだよ」


「そうなんだ、やっと行けるんだね。

 嬉しいな」


 ミウが嬉しそうで俺も嬉しいぜ。


 古代エジプトは42のノモス……これは日本の県やアメリカの州みたいな人口密集地だな、があって、各ノモスはすべてナイル川に面している。


 ノモスには必ず港があり港には関所があって、個人でのノモスの間の移動には通行手形(パスポート)をもっていないと通れなかった。


 ノモスの間をつなぐ船は大きなフェリーのようになっていて、結構大きな荷物や動物ものせることができたくらいだ。


 因みに小さな船は葦を編んで作ったが、大きな船は当然木製だ。


 そして古代エジプトでは、移動には基本ナイル川を渡る船を使っていた。


 陸上の移動はナイル川を使えない場合か船を使うよりも歩いたりしたほうが早い場合のみだ。


 この時代馬車は王家が金などの貴金属や荷物を運ぶ場合ぐらいしか使われていなかったからな。


 ナイル川は南北に流れていて、北から風が吹いている。


 なので帆を張れば簡単に南に遡れるし帆を下ろせば川の流れにのり南から北へ移動できるわけだ。


 さて、新婚の夫婦はオシリス神復活の地であり主神殿のある聖地アビドスから初めて13の神殿をめぐる巡礼の旅に出ることになる。


 そして女性は結婚した時に必ず男性と巡礼に行くことが義務付けされている。


 逆に結婚した女性の一人での旅行は基本禁じられていた。


 まあ不義密通につながると考えられていたようだ。


 古代エジプトでは一生に一度オシリス神殿を巡礼をすることであの世へ行く約束ができるとされていて、その後のすべての巡礼の起源だと言われている。


 古代エジプトは神への巡礼を最初に行なった地域でもあるんだな。


 そしてオシリス巡礼は船でゆっくりあっちこっちの神殿を巡って行ったんだ。


 そしてアビドスは年に1度、オシリスの復活を祝う祭礼がおこなわれ、エジプト国中から巡礼者が訪れたんだ。


「じゃあ行こうか」


「うん」


 俺達はワセトからナイル川を下ってアビドスへ向かう。


 旅費はミウの家族も出してくれたので十分に旅を楽しむことができそうだ。


 船は同じように巡礼に向かう新婚風や子供連れの家族だたくさんのってる。


 やがてアビドスに到着すると俺達は船から降りた。


 さて、アビドス巡礼では石碑ステラに家族名を記して、オシリス神殿にそれを奉納する。


 金がある人間は個人用で祠堂を立ててその中にステラを収めたり、墓をここに作ったりもするが俺たちには無理だな。


「どうか、うまれかわってもまたミウと出会えますように」


「どうかまたうまれかわってもまたお兄ちゃんと出会えますように」


 俺達はオシリスに祈りと願いを捧げると、神殿で行われているオシリス神とセトの争いそしてオシリスの死と復活、その息子ホルス神がセトを倒しその化身としてファラオが玉座に就くのを祝う劇を鑑賞した。


「なかなかいい話だったな」


「うん、おもしろかったね」


 俺たちには劇を見る機会なんてめったにないからな。


 その後、バザーの屋台で肉と豆が挟まれたパンとビールを買って二人で分け合って食べる。

 ちょっとした贅沢だ。


「ん、スパイスがきいててうまいなこれ」


「ほんと、美味しいね、ちょっと高いだけのことはあるね」


 その日は神殿に併設された宿に泊まって翌朝になったらまた船に乗って、今度は別のオシリス神のあるノモスに向かう、こうして俺とミウは13のオシリス神殿をのんびり巡礼して周り一生一度の巡礼と新婚祝の旅を十分に楽しんだんだ。


 そしてその旅が終わればまた平穏で代わり映えのない日常生活に戻ることになるんだ。

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