プログラムの欠片イベント
仲間が二人になって残り五人、攻撃と防御がとりあえずできてある程度の事態には対処できそうだ。しかし自分は何が出来るかまだわからない。自分は「高次元世界」の住人で勝手に連れてこられた救世主なのだからリーダースキルが一つくらいあってもいいと思う。だがその兆しはまだのようだ。
考え事をしている一葉の後ろで二人はバグとやらを殲滅している。バグは黒いもやのようだが実体はありしっかりと武器があたるようだ。アイリス曰く、バグは小さい時はただのもやで、大きく成長してしまうと手がつけられないそうだ。敵としてはテンプレの設定である。しかしそんなもんだろうと一葉は考えていた。
二人の戦闘力はやはり神と謳うだけある。アイリスは流れるスピード攻撃、倒すたびにいちいちキメポーズをとってうっとおしいが。オルミスは盾が武器なのにちゃんと攻撃出来ている。オルミスは無表情、無言、無関心でひたすらにバグを潰していっている。
自分の横に黒いもやが漂っている。謎の物体に触って見たいという興味が一葉にはあった。もや自体はただのもやらしい。もやの発生源らしきコアが見える。とりあえず触ってみると――――脳に流れ込む苦しいノイズ。昔の記憶がかき乱され、記憶の一欠けらだけが脳に駆け巡っては別の記憶が走る。体が自分の制御下から離れる――――
「わああ~~!! カズハ何してるの! 触っちゃだめだよ!」
「アイリスさんは馬鹿ですか。カズハさんには聞こえていませんよ。私たちが引き剥がさないと」
オルミスは一葉と接触しているバグを破壊した。不意に意識が回復した一葉は視界がちらついていた。
「カズハさん、説明していませんでしたね。バグは直接触るのはとても危険です。精神汚染され、ひどいと死同様の状態になります。触ると他の人が破壊しないと解除できませんから、気を付けてください」
やはり自分には戦闘は無理のようだ。それでも自分の身を守る術を一つくらいは用意したい。
「ごめん…… で、でも! 自分の身くらい守る方法はないかな?」
やはり無理なのだろう。二人ともよそを見て、沈黙してしまった。――――どうせ自分は非力、非能力なんだ。戦闘は神まかせ、自分はその姿を見て虚無感に包まれなきゃいけないんだ――――
「カズハにも出来る事はあるから安心して。ごめんね独りにしちゃって」
無理じゃなかった!
「カズハはこの世界で高次元世界の住人は通称“マスター”になれるの。その名のとおりチームのリーダーで、今まで私たちはマスターがいなかったんだけどマスターがいると力が増幅するの」
そうか女神を統率できるなんて、なんてムフフなんだ…………ハッ! そんな邪な事!!
「マスターの生命力を少しずつ神が吸収していって力を増幅させるの」
「おい、なんか怖いぞ。それで俺は死なないのか」
「ん~~…… だいじょ……」
「死にますよ。神に力を与え続け死にかけた人は何人も見かけました」
「なんでそんな事を言うの! せっかくいいマスターを連れてきたのに!」
ん?今オルミスは『何人も見た』と言った。マスターは俺達の現実世界の人にしかなれない。そのマスターが何人もいるとしたら、この世界はやはりただの幻想の電脳世界ではなく、実際に存在する電脳世界だということだ。それにそのマスターたちに聞けばこの世界の事がよりわかるはずだ。
「カズハ、ごめん、大丈夫だよ。吸収されなくする方法はあるし、そもそも今吸収されてないし。吸収発動はマスターに権限があるの。だから発動させなければ吸収はされない、解除すれば吸収されない、だから安心して。」
「そうです。死にかけたのは、この世界に訪れた愚者達が興奮し狂人と化し膨大な力を神に与えた末路です。節度が大切ですのでカズハさん、あなたはまともな人と見えますのでどうか死なないでください」
吸収される事に関しては納得した。だが他のマスターが気になる……
「あとカズハ! マスターは攻撃もちゃんとできるから!」
「他のマスターが近くにいると仮定して…………マジ!?」
「マスターの能力は二つ、オーラとフィールド。オーラは基本的にさっき言った神に力を与える能力。フィールドは人によって違うんだけど、例えば強力な電磁砲だったり時間を遅れさせたり動けなくしたり、いろいろだよ。カズハはどうなんだろう?」
そうか、攻撃出来んじゃん俺! 異能力開花はいつかな! 楽しみだあ!