TIPSイベント
体の吸引は突如消え、まぶた越しに見える明るさは治まった。何故か少女に手を握られている感触は、引っ張られた時から無くならず女子にめったに触れたことがない一葉にとってはラッキーイベントであった。目をゆっくりと開け、世界の姿を目の当たりにする。世界はハイコントラストで物体一つ一つが発光しているようだった。地から生える木々、激しく落ちる滝、現実的なものがある。宙に浮く孤島、何もない空から降ってくる花弁、有り得ないものもある。
少女は周りを見渡し、何かを確認しているようだ。少女は小さく「よし」と言うとこちらを振り返り、一葉と目が合った。その瞬間何故か少女は顔をしかめた。その表情のまま顔を傾けて、
「――――? あんただれ?」
突如変な場所に連れてこられた一葉にとっては考えもしない答えだった。
「『あんただれ』ってこっちが聞きたいよ!」
「何でここにいるの?」
「こっちが聞きたい!!」
「何しにきたの?」
「知らねえよ! そっちが勝手に手を引っ張ってこんなところに連れてきたんだろ!」
少女は記憶をたどるように顔を傾けていると、不意に表情が明るくなって、
「ああ! そういえばこんなヤツ連れてきたな! あっははは!」
「あははじゃないよ! とりあえずここはどこ!?」
笑ってごまかそうとする少女はかわいいが、今はそれどころではない。
「落ち着いて、落ち着いて。ここは低次元圧縮世界“ビスポリス”だよ」
「なんだその無駄にかっこいい二つ名! どういう意味だよ!」
訳のわからない単語が出てきて、混乱が増してどんどん頭が熱くなっていく。
「だから落ち着いて話をしてよ。君たちは高次元世界の人で、その人達が創った世界がここなの」
「じゃあ君は人間じゃないの!?」
少女は他種族宣言をして、さらにヒートアップした一葉はジェスチャーまで凄まじくなっている。
「いい加減もちつけって! 人間っていうのは君たちの尺度だけど、まあ人間じゃないよ。私はこの世界の安定化、修繕、改良をしている、神の一人だよ」
少女は言ってもどうにもならない一葉にしびを利かした。そして再び柔らかな口調に戻った。
「なんか雑用神って感じじゃね?」
「神ってそんな派手なことはしないよぉ」
一葉の戸惑いや不安は消えない。少女からの情報を聞けば聞くほど謎が深まっていくだけであった。
「なんで俺をここに連れてきた?」
「その……今この世界が危機に瀕していまして、高次元世界の人が誰でもいいから連れてこなきゃいけなくて、たまたまポータルが開いてその先からとりあえず引っ張ってきたっていう次第です……」
「なるほど、ようは俺自体には理由は無いと?」
「そうなんだけど、せっかくだから手伝って、お願い」
一葉は少女の甘い目で見られたが、そんなチョロい男ではない。しかし、目の前で困っている人がいるのは放っておけなくて、
「――――わかりました」
言ってしまった。
「ありがと~ じゃあなんて呼べばいい?」
「カズハでいいよ。女子に名前で呼ばれるのは慣れてるから。そっちは?」
「私はアイリスって呼んで」
一葉はとても大きな目的だけ知らされているだけの危険な綱渡りを始めてしまった