初顔合わせイベント
カレンダーは十二月を示していた。今日は自分の部屋の大掃除をすべく、至る引き出しや棚が荒れていた。はたから見れば、泥棒が部屋を払拭した後のように見えるありさまである。棚の中にこれだけの物が詰まっていたと思うと、まるで忘れていた記憶がさらに湧き上がってくるのではないかと思えてくる。
大掃除は誘惑のオンパレードである。本が出てくれば読書に読みふけ、文集が出てくれば思い出を蘇らせ、おもちゃが出てくれば遊び呆けてしまう。空は橙色に染まっており、西はすでに紺色が迫っていた。一葉は棚から不意に出てきた、ホコリをまとった携帯ゲーム機を手に取った。それは実に懐かしい代物で一葉が初めて買ってもらったゲーム機である。いつも小学校から帰ってきては夕飯時まで遊び続けたのは今となってはいい思い出である。
このゲーム機も例外ではなく興味をそそられ、電池を入れ替え電源を入れた。ゆっくりと液晶が淡く光り、ややカクカクしたアニメーションが一葉を迎える。画面には大きく「TETRIS」と表示され、懐かしい8ビット音楽が思い出を掘り返す。幾度とこの画面と音楽を聴いても飽きず、興奮が消えなかった過去の感情は今でも同じであった。やりこんだこのゲームは瞬発力とテクニックでコンピューターを秒殺できるまでプレイし、機体の油のテカリがその証拠である。十年以上ものブランクがあったものの、衰えておらず、高得点技を連発し夕日をバックにプレイする一葉は、まるで小学生時代の彼そのものであった。
ゲーム機はもうガタがきているようで、黒い横線が入ったり、時々ネガカラーになったりして基盤が壊れかけているのがわかった。そんな状態のテトリスでも一葉はきれいにブロックを積み上げ、棒状のブロックで高得点を取るべく下ボタンを押した。
――――――――瞬時に鮮やか画面は純白へと化し、一葉はゲーム機から引き剥がされた。部屋は暴風に見舞われ、片づけ途中の本や紙が盛大に飛び回っている。
一葉は突然の現象に気を失いかけ、風が治まったところでゆっくりと目を開ける。部屋はゴミ置き場の如く無秩序に物が散乱していた。
――――――――その中に人のシルエットが見える。髪の長い、やや長身の少女がそこに立っていた。一葉は訳もわからず、ただ倒れたまま、口を開けたままそれを見ていた。少女はコスプレイヤーとしか思えない姿だった。髪は水色で腰まで届く長髪。目は髪と同じく水色。少し露出が多く近未来的な服装。
――――仮にこれがコスプレイヤーだとしても何故ここに突如現れたかも不思議である。海のような色をした少女は一葉を見つめて
「ねえ! ゲート、ゲート知らない!? う~ん、知らないよね…… ああ、もう帰れなよ~ ってここどこ? もしかして高次元世界!? ヤバイよ~!」
少女は一葉以上に焦って、質問をしては一人で納得するのを繰り返していた。
「あ、あの…… どうかしまし……」
「あった! ゲートがあった! これで帰れる!」
「あの! どうかしましたか!?」
「え? ああ、ごめんなさい! もう行けるから!!」
「はあ? よくわからないんですけど?」
そう少女は言うと一葉の手を引っ張って“ゲート”と読んでいた自分のゲーム機を振りかざした。体は吸われるように部屋の壁に引き寄せられ、視界はホワイトアウトしていった。