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女王召喚物語 ~ルルカと9の女王~  作者: 藍色折紙
女王を召喚せし少女
1/38

プロローグ~始まりに吹く風~

背中に刻まれた刻印。


火の雨降りしきる、惨劇の終わり。


夢虚ろな世界で、嘆き眠る小さな少女。


消えゆく叫びを聞いた、女王との物語。



     ■



オルナレシア大陸に緑息吹く季節が訪れる。

鳥はささやき風に揺れる木々は若草色に。立ち並ぶ草が揺れる平原に暖かい日差しが降り注ぐ。

冬に凍えた森の奥にも光は差し込み、泉や川はそれを受けてきらきらと輝く。

白みかかっていた冬の空は次第に青みを帯びていき、厚くそびえるような雪雲は次第に薄く日差しを微かに隠すような柔らかい雲へと変わっていく。

それは春の訪れと言っていいだろう。

そんな空の下、平原を一人の女性が気持ちよさそうに歩いていた。


「んーようやく寒さもなくなってきたかなぁ」


 ハンチング帽を脱ぐと大きく三つ編みにした金色の髪が肩へとおりる。

風に揺れる前髪を手で上げるとその緑色の瞳に空を映した。

春の陽気は歩く彼女の体を火照らせる。

雨除けのマントを脱ぎ、そのマントを肩にかけていたバッグに乗せると伸びを一つ。

春の陽気を体いっぱいに受けて感じ取ってから、ブーツの紐を結びなおすとまた歩き出す。


「毎度の事とはいえ帰る足取りは軽いなぁ。さて帰ったら誰に渡すんだろう?」


 気持ちのいい風を感じながら一人歩く彼女はバッグを開ける。

そこにはたくさんの手紙、便箋が入っていた。それを一つずつ拾い上げ宛先を確認していく。


「えぇとローズさんとこ2通、マリッカさんとこ4通。ダナトン伯爵様1通。それとナターシャさんとこ17通。全部ラブレターだこれ。んん?これ、読めない。なんとまぁ可愛らしいイラストだけど、宛先はお父さんかお母さんに書いてもらった方がよかったよ」


 可愛らしい犬か猫か区別もつかないイラストの手紙。

幼すぎる子が書いたんだろうか宛先どころか名前もふにゃふにゃで読めたものじゃなかった。

たまにある郵便物だ。この後彼女かまたは同僚が配ることになるので困ったものである。


「あとで誰かに聞いてみよ。それから?ジュナン夫人2通。うーわ。金ぴかだ。まーたパーティの誘いなんだろうね。それとシャノンさま……珍しい。私宛だ」


 手に取った便箋の一つ。そこに自分宛のものがあった。

彼女、シャノンはその便箋を空に掲げて太陽の光で透かして見る。

手紙が一通入っているようだった。

郵便屋さんのシャノン。

運ぶことはまだしも自分で手紙で受け取るのは実はこれが初めてだったりする。


「帰るまでの暇つぶし発見。開けてみますか」


 他人の手紙を見てはいけない。というのは郵便屋の決まり事ではあるが、手にしているのは自分宛の手紙。シャノンは気兼ねなく便箋を開けた。

シャノン宛の手紙はイラストもアクセントも一つもない真っ白な紙。そこに、男とも女とも取れない字が書かれている。

誰が出したのか確認してみたが、手紙、便箋に差し出し人は書かれてなく、ただシャノン=ライルフィーさまへ。とだけ。

読めばわかるかもしれない。とシャノンは思い手紙を広げた。



 これをあなたが読むとき。一つの嵐が訪れるでしょう。


 嵐は楽しいことも、うれしいことも、悲しいことも、苦しいこともあります。


 でも嵐はやがてそこにあるすべてをふきとばしてしまうのでしょう。


 それは、すべての終わりを意味しています。


 それは、避けようのないこと。


 でも、逃げないで。


 あなたには、誰かを救えるだけの光がある。


 雨降る時も、風吹き荒れるときも、夜の暗さが訪れるときも。


 決して逃げることのない、強い心でいることを願っています。


 忘れないで。あなたをささえる人もいることを。


 だいじょうぶ。あなたは、嵐が持つ本当の涙をぬぐえるのだから。



 読み終えたシャノンではあるが書かれていることがなんのことか全く見当がつかなかった。

具体的なことは何もないし、差出人がわかるようなこともない。


「占い術の押し売りかなにかですかねー?」


 初めてもらった手紙がそういうものとはがっかり。と、そんなことを考えるシャノンではあるが、彼女はまだ知らない。知ることもない。それが、これから始まる物語を指しているとは。


「あ」


 急に吹いた風は、手にあった手紙をさらって大空へと舞い上げた。

茫然とそれを見送るシャノン。

青い空の向こうに小さくなった手紙はやがて視界からいなくなった。

誰からの手紙なのかはわからなかったがそれでも、なぜかわからないけど、今の手紙の内容を心のどこかに覚えておこうとシャノンは思った。

中身のなくなった便箋をバッグにしまい、また歩き出す。

手紙に書かれていた嵐はすぐそこ。

シャノンは知りはしない。

嵐も、春の陽気のように浮かべたその笑顔を必要としている人がいるということも。

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