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ある朝の汚物

作者: OS

倦怠感に沈んだ体から思い息を吐く。朝の冷たい空気が肺に流れ込んで、一日の始まりを肌で感じた。

自転車にまたがり、駆け出した。重いペダルを漕ぐ、体は加速していき、左右の視界が高速で流れていく。

私はいつも通りの最寄り駅までの道を、いつも通り無心でなぞっていた。意識を向けるのは目の前を走っている自転車。近づきすぎず、遠ざかりすぎない程度の速さを意識する――特に意味はないが。

私の自転車は随分と年季が入っていて、ただ漕ぐだけでも甲高い金属音を鳴らし続ける。

しかし、そんなことはどうでもよかった。些細なことであり、頭の片隅に追いやられてすぐに吹き飛んでしまう程度のことだ。

つまるところ、退屈だった。

毎朝同じ道を通り、思考は虚無を極めていく。

今日もいつもと変わらない、億劫な日であることを予見しているようだ。そんなことをぼんやりと考えていた、そんなときのことだった。

視界の端に「何か」が見えた。

ぼんやりとした、濃霧のような思考を吹き飛ばすような「何か」。それを視界にかすめた時、私は二つのことを思った。

一つは、これについて考えることは退屈な時間を少しだけ良いものに超えてくれるだろうと。

二つは、それだけ特別なものと認識した「何か」が、いったい何なのかがわからなかったということだ。

そんなことを考えている間に、「何か」は俺の見える範囲から消え去ってしまった。私にはそれを再び見ることはできない。自転車に乗りながら後ろを向くなど愚の骨頂である。また、それをするだけの興味はあれにはなかった。

私にできることは、おぼろげな記憶から投影することだけである。


しかし、結論から言ってしまえば私は「何か」の正体について暴くことはできなかった。それはこの朝の間に、というわけではなく、生涯においてで、ということだ。


「何か」は確か黒かった。そして、同時に白い生肉の筋のようなものを含んでいた。地面にこびり付いていて、それ故に一見して汚いという印象を与えた。。

いくつか推論を立てることはできよう。

例えば、カラスの死体である。カラスが道で力尽き、雨水、自動車などによって地面に何度も押し付けられたことによってできたという考えだ。

例えば、ゴミ袋の成れの果てである。時間の経過によってビニールが避けて、中身の生ごみがカラスの死体のように変形した結果である。

例えば、段ボールのような梱包用の素材である。雨水によって水分を多く含み、それが鞣すように傷つけられた結果である。


または、と続けようとして私は自転車を降りた。

気が付いたらすでに目的地の駐輪場についていた。私はそこで、今までの思考を捨てて自転車を立て掛けて、薄汚れた細い金属棒に挟ませるようにタイヤを差し込んだ。

そして、駅へと歩き出す。先ほどまでの思考は疑問という形では残らず、暇つぶしという形で残った。

結局、私はあの「何か」の正体が知りたいのではなかった。

ただ、退屈な時間をつぶしたかっただけだったのだ。


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