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第7話

もちろん、ひとりは拓朗だ。


もう一人は体育科教師の阿久あく まさるだった。

阿久は28歳の独身で雰囲気は完全に暑苦しい感じのマッチョだ。

髪型は角刈り、そしてニキビ跡で凸凹の四角い顔の男である。

いつも洗濯したのは何時だろうかと思うようなジャージを着ている。

そして男子バスケ部の顧問である。

正に今の拓朗とは対照的な男である。


阿久は亜理紗が新任でこの学園に赴任してきた時に一目惚れしてしまい勝手に運命を感じていた。

さらに一年後、亜理紗が女子バスケ部の顧問に就任してバスケの話題を振って、勝手に盛り上がり周りの人間には、亜理紗と親密な関係とアピールしていた。

だが、亜理紗にはアメリカに恋人がいるという噂だった。

周りからは可哀想な人と言う認識だったが、本人は亜理紗一筋でまったく周りが見えていなかった。

亜理紗の迷惑も考えず女子バスケ部のコートがある第2体育館を毎日訪ねては亜理紗に話しかけていた。

だが亜理紗は思春期をアメリカで育ちドライな考えの持ち主で、とくに阿久に対しては迷惑ですとはっきり言っていた。

だが阿久は亜理紗が照れていると勘違いしてさらに猛アタックをしていた。

毎日、部活の邪魔をしに来る阿久を女子生徒達が訴え、阿久は第2体育館には出入り禁止になってしまう。

笑えないし、心から同情を禁じえない可哀想な男である。

阿久が所属する体育科の職員室は第一体育館の奥にあり、本館にある亜理紗達一般の職員室とは別になっているのだ。

第2体育館に出入り禁止の阿久は、亜理紗の姿を見られるのは始業式などの全体集会と、こういった職員会議の場以外では見ることが出来なくなった。

それで阿久は本館から第2体育館に続く渡り廊下で亜理紗を待ち伏せしていたが、ある日教頭に呼ばれ言われた。

「阿久先生、山口先生から苦情が来ています。ストーカーまがいの事は止めて欲しいとのことです。山口先生は警察に言うと言っているのですが、なんとか思い留まって貰っています。いいですか今回は口頭での訓戒としますが、これ以上、山口先生に付きまとうようでしたら、学園としても処分を下しますので憶えておいてください」

これで阿久は同じ学校の職員でありながらも亜理紗の姿を見れなくなった。

さすがに阿久も亜理紗に嫌われていると自覚したのである。




「對馬先生、先生の言いたい事はなんとなく分かりますが、学園が職員に依頼する事は業務と考えていただきたい。よろしいですね」

と教頭が拓朗が発言する前に拒否する事は出来ませんよと暗に釘を刺してきた。


その教頭の言葉を聞き、亜理紗の顔が笑顔に変わり、拓朗を眩しいものでも見るような目で見る。

里奈を初め女子バスケ部員も嬉しそうだ。


拓朗の頭に奈々美や紀香達の顔が浮かんだ。


―――業務命令か、そうなると断るのは無理だ。みんなすまない


と拓朗は黙り込んだが、阿久は黙っていなかった。

阿久は亜理紗の声を聞いたのは実に三ヶ月ぶりであった。

亜理紗の姿を見て、声を聞いて阿久はときめいていた。

だが、その亜理紗が拓朗を見る目は普通では無い。

自分の運命の相手が自分以外の男をあんな目で見るのは許せないと思った。

阿久は拓朗に対して対抗心が湧き上がってくるのを感じていた。

と同時に憎しみも湧き上がって来る。

一気に頭に血が上ったが、ここは努めて冷静に話そうと立ち上がった・


「對馬君は高校生の時は確かにすばらしい実績を残したようですが、今はどうなのですかな。

5年間のブランクと言うのは大きいですぞ。安易な考えでバスケ部の顧問は勤まりません」


さらに発言しようとしたところ、なんと周りの職員が阿久の意見を支持してきた。


「そうです。今回だけは阿久先生の言われる事も分かります」

「部員に相談もせず簡単に顧問を変更するのは良くないとおもいます」


そうです、そのとおりですと亜理紗と教頭以外の職員が口々にいっている。

これは女性職員たちは拓朗と亜理紗が接近するのを面白くないと思っているからであり、男性職員も同様だが拓朗に対してやっかみや嫉妬の気持ちもある。

けっして阿久を応援している訳ではないのだが、阿久は嬉しくなってしまった。

普段、女性職員は阿久と廊下ですれ違うだけでも顔を顰め避けるようにすれ違うか、完全に無視されるかのどちらかである。

男性職員もまともに相手にしてくれる者は少ないのに、今回はみんなが自分を支持してくれている。

阿久は調子に乗ってさらに発言する。


「それに對馬君は指導者としての経験も無いのでしょう、簡単に監督やコーチが勤まるはずもありませんな」


とドヤ顔で話す阿久に対し、亜理紗は非常に厳しい表情で言う。


「誰でも初めてのときがあります。對馬先生なら立派にコーチが勤まると私は確信しております」


「ほう、そうですか、ならば對馬君の現在の実力を測る必要がありますな。どうでしょう。私が指導している男子バスケ部と對馬君の試合でもしましょうか。それで對馬君の力も図れるでしょう。あっはっは」


完全に調子に乗った阿久は、まさか拓朗が受けるとは思わなかったが、久々に亜理紗と話せるのが嬉しくて言いたい放題だった。


「分かりました、じゃあ、月曜日の放課後にでも試合をしましょう」

不敵な面構えで拓朗は言い放ったのだった。



「對馬先生、よろしいんですか」

亜理紗が心配そうな顔で聞いてくる。


拓朗はまあ、やってみましょうと言いながらも考えていた・


―――もう5年近くボールに触っていないし、今の俺じゃ高校生に適うわけ無いさ。でもいくら口で言っても山口先生やあの女子バスケ部の子達は納得してくれないだろうから、ここは、実際にプレーを見せて納得して貰おう。

阿久先生の言い方にはちょっとむかつく物があるけど、考古学部を見捨てるなんて出来ないし


「對馬先生がそう言われるならそうしましょう。たしかに阿久先生の言われる事にも一理あります。

バスケ部の顧問になってもらうのは對馬先生の実力を見てからでも遅くは無いでしょう」


教頭は満足そうに言うと詳細を詰めてくる・

「では、阿久先生、どのようなルールで行なうのですか」


「そ、そうですね…」


阿久はまさか拓朗が受けるとは思っていなかったので考え込んでしまった。

あの動画で見た高校生の拓朗は、体育教師である阿久も認めざるを得ないほどすごかった。

いままで教えた生徒にあれほどの運動能力を持った生徒はいなかった。

いくら5年のブランクがあるといってもうちのバスケ部員じゃ1ON1では勝てないだろう。

どうすれば…


そこにバスケ部員の里奈が案を出した。

「亜理紗先生、私達が對馬先生のチームに入って男子バスケ部と試合をしましょう。對馬先生と同じチームで戦えるなんて私たちにとっては大変名誉な事だと思います」


亜理紗は最初、拓朗と阿久の1ON1で簡単に決着が着くと考えていたが、里奈の提案は魅力的だった。

拓朗と同じチームで試合をするなんて夢のような話だ。

さらに相手があの阿久なら願っても無いこと。

二度と私に近寄れないよう完膚なきまで思いっきり叩き潰してやろうと思った。

亜理紗は里奈の提案に嬉しそうな顔をした後、すぐに心底嫌そうな顔になり阿久に言った。


「そ、そうね、そうしましょう。…阿久先生、それでよろしいですね。先生が言い出したことですから」


亜理紗はきつい目で阿久に言い放った。有無を言わせない目だった。


「あ、ああ、それで良いだろう。だが對馬君があまりにも不甲斐無いようなら女子バスケ部の顧問の件は無かった事になりますな」


阿久はちょっとまずい事になったなと思いながらも自分から言い出したことなので頷くしかなかったが、拓朗を顧問にする条件にする事には成功した。拓朗がバテて交代したり活躍しなかったら難癖をつけて認めないようにしようと考えた。それに選手には拓朗だけをつぶすように指示するつもりだ。


それを聞いた亜理紗は阿久の考えをある程度読めたが認めることにした。


「それでいいでしょう。オフィシャルズは引退した3年生の元部員に頼みます。きちんとルールに則り正々堂々と戦いましょう。あらかじめ言っておきますが選手同士の肉体の接触は原則として禁止されています。もちろんゴール下のせめぎあいの時はある程度仕方ないですけど、手で体に触ったり押したりしたらパーソナルファウルになります。

悪質な場合は例え阿久先生と言えどもアンスポーツマンライク・ファウル、ディスクオリファイング・ファウルになりますから注意してください」


亜理紗はきつい目で阿久を睨むと、すぐに優しげな眼差しで拓朗に向かって言った。


「では、私達が先生のチームメイトになります、いっしょに頑張りましょうね」


拓朗はすぐに返事はしなかった。


――まてよ、確か奈々美や紀香達はバスケ部だったって言ってたな。彼女達に相談してみるか、どっちにしろ話さなきゃならないし、なんとか考古学部は続けたいんだけど


「いや、ちょっと待ってください。うちの部員達に相談しなければならないですし。山口先生、うちの藤井や山咲はバスケ部だったんですよね」


「はい、…ですが学業不振を理由に退部してしまいました。たしか對馬先生に勉強を教えて貰う事を条件に考古学部に入部したんですよね。今回の実力テストではどうでしたか。今日結果が届いてますよね」


「彼女達は頑張りましたよ。たしか四人共、学年で20位以内に入ったんですよ」


これには亜理紗もバスケ部員たちもびっくりしていた。

「ほ、本当ですか、たしか彼女達は一年生の三学期の期末テストでは下位の方の成績だったと思うのですが」


「はい、四人共わずか4問くらい間違えただけです。それでも10位以内に入れないとは。さすがにうちはレベルが高いですね」


一年の頃の紀香達の担任をしていた教師も驚いているようだ。


「夏休みの間、對馬先生が勉強を教えたんですよね」


「はい、学校にも届けを出していますし、父兄にも話して許可を得て勉強会をやりました。ですが俺、いや、私が教えたのは私なりの勉強方法と暗記方法だけです。彼女たちが頑張った結果ですよ」


だが、これには拓朗自身も知らない重大な訳があった。

拓朗は10年以上にも及ぶ長い期間、風と水の妖精と共に生きて来た。

妖精たちは拓朗の体内の病巣を取り除き正常な細胞に戻すだけではなく、身体の活性化も行なっていた。

さらに拓朗に精通が来てからは、毎日、拓朗との交わりの中で拓朗の体液を受け入れ、それを霊液に精製し拓朗に戻していた。そして何時しか拓朗は高い身体能力を身につけて行った。

精霊の力が宿った拓朗は二人と別れる頃には人間の限界をはるかに越える身体能力持つに至った。

拓朗は、もはや純粋な人間とは言えないだろう。


二人が別れる際、目立たないようにしててくれと言ったのはこのためである。

二人の妖精たちも、拓朗との交わりによって、妖精から高位妖精になりさらに精霊にまで昇華したのである。


奈々美や紀香達はその拓朗と関係持った。

そして拓朗との交わりの中で拓朗の体液を飲んだり浴びたり胎内に受け入れたりしている。

その所為で彼女らの身体能力が細胞の活性化により上がっていた。

脳細胞の活性化は勉強する事で著しく行なわれ、暗記能力や演算能力が飛躍的に上がっていた。

肌や髪の毛も艶々して体の調子もかつて無いほど良い。

しかも、拓朗に思いと遂げられ女の歓びを知りストレスなど無縁の状態である。

まさにリア充状態である彼女達は、毎日が楽しくてしかたがない。

拓朗の期待に応える為勉強でもすごい集中力を発揮しどんどん頭に入ってくる。

彼女達が運動をしていたら何をやっても今ならすぐに上達するであろう。


「それで、藤井達はバスケ部ではどうだったのですか」


「えっ、藤井さんたちですか、そうですね、レギュラーメンバーになるにはちょっと…彼女達は身長が低いのも不利なのですが、スピードが足りないのです。伸び悩んでました」


「そうですか、阿久先生のチームと試合する事は了解です。でも私のチームのメンバーは少し考えさせてください」


「えっ、私たちじゃだめなんですか」


「ちょっと、藤井達と相談したいのです。彼女達も今回の関係者ですから説明しなければなりません」


亜理紗は拓朗が紀香達をメンバーにしたいのだろうと気付いた。

だが1ピリオド10分間で4ピリオドをプレーするのは交代メンバーがいないと女子では難しいだろう。


「對馬先生、では考古学部と女子バスケ部の合同チームで戦いましょう」


拓朗も了承し月曜日の放課後に試合が行なわれる事になった。


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