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第4話


始業式が終わり夏休みの課題を提出し放課後になっても、生徒達の話題は拓朗の事であったが、拓朗のクラスでは拓朗以外でも、特に男子生徒達が驚いていた。


それは藤井紀香、山咲奈々美、相沢 純、篠崎ミサの四人があまりにも変身していたからであった。

四人は拓朗の気を惹く為に髪型まで変えていたが、落ち着いた都会的な雰囲気となにより別人かと思うほど綺麗な少女になっていた。


特に相沢 純は夏休み前は長めのおかっぱ頭でゲジゲジ眉毛といった感じだったのだが、今では元AKBの篠まりのような髪形に変え、眉毛も綺麗に整えられて顔の肌艶も美しい。

四人共、髪の艶が素晴らしいし肌艶も美しくなっていた。

篠崎ミサはもともと目が大きくたれ目だったのだが、顔が細面になりその目が優しげな眼差しで大きな魅力になっている。


クラスの男子達は急に可愛くなった4人を驚きと憧れの目で見ているが、紀香達はまったく相手にしないばかりか気にもしていない様だ。


「ねえねえ、夏休み中に何があったの。なんかずいぶん雰囲気が変わったけど」

さっそくクラスの女子達が紀香達に聞いてくる。


「別に。特に何も無いわよ。勉強に明け暮れた灰色の夏休みだったわよ。みんなだってそうでしょ」

不機嫌を露にしながら紀香が答える。


「そんな訳ないでしょ。ねえ、何があったのよ。四人してそんなに可愛くなるなんてさ」

周り中の男子が耳を立てて聞いているのが良く判る。


「まあ、四人で銀座やら渋谷には行ったけど、それでそこらにいた女の子の髪型をまねてみただけよ」


「うそっ、そんなんでここまで変わる筈ないわ。髪の毛も肌もぴかぴかだし。ねえ何があったのよ。教えてよ」


「あっ、そういえばあんた達、夏休み前に對馬先生に頼まれたとかで考古学部に入部してたわよね。

對馬先生の変身といい、あんた達といい、先生と何かあったんじゃないの」


いきなりクラスメイトの一人が核心に迫る質問をしてきた。

しかし、こういった質問をされるだろうと予測していた紀香は、少しも動揺せず答えた。


「ああ、對馬先生はね、私達の担任だし、部活の顧問だからみんなで美容室に連れてったのよ。

あのままじゃ、ねえ。あんまりだったから。それにもともとイケメンだったみたいだし。

それからあの眼鏡は重いし視野も狭いからコンタクトに変えたんだって」

平然とした態度で答える紀香。


「じゃあ、あんた達の変身はどうなのよ」


「別に…さっき言った通りよ。UFOに攫われて改造されたとでも言えば良いわけ」


「真面目に答えてよ。どうすればそんなに綺麗になれるの」


「知らないわよ。高級エステにでも通えば綺麗になれるんじゃないの」


とにかく紀香は不機嫌だった。

そのためクラスの女子もこれ以上聞くことが出来ない雰囲気だった。

そこで奈々美に矛先が向いた。


「ねえ、奈々美、奈々美だったら教えてくれるわよね」


だが奈々美もやはり不機嫌だった。


「さっき、紀香が言った通りよ。あんまりしつこいと怒るわよ。

ねえ、私達は変身するたびに戦闘力が上がるの。そしてまだ二回も変身を残しているんだから」


「ウプッ、あんた達はフ○ーザか。わかったわよ。怒らせないほうがいいみたいね」


怒った顔でジョークを言う奈々美にクラスの女子もこれ以上の追及はやめた様だ。

だが、また明日になったら聞いてみようと思っていた。


紀香達の不機嫌の原因は拓朗だった。

クラスの女子たちの多くが拓朗を見て目がハートになっていた。

無関心そうな女子もいたが内心じゃ何を考えてるのか判ったもんじゃない。

放課後、四人は考古学部の部室で相談していた。


「まったくぅ、あれほど学校じゃ眼鏡をしてねって言ったのにぃ」


「ほんとに困った先生だよね。私達の心配も知らないで」


「で、でもさ、今日、教壇に立った先生は堂々としてて一段とかっこよかったね」


拓朗は真っ白なワイシャツを着ていても逞しいと分かる体つきである。

加えて紀香達と関係を重ねるうちに、女性から見てセクシーな雰囲気になっていた。


「うーん、このままじゃ、試験明けに考古学部に先生目当てで女子の入部希望者が殺到するわよ」


「先生は誰にも渡さない。みんないいわね。絶対に誰にも渡さないんだから」


「もちろんよ、でもどうすんのよ。先生を連れてどっか遠くに逃げる?」


「真面目に考えなさいよ。もう入部の受付はしないとか入部テストをやるとか」


「その腺がいいかも、とにかく女子は絶対に入部させないようにしようね。後で先生と相談しよう」


だが、拓朗の事で頭がいっぱいな紀香達は気付かなかった。

紀香達が目当てで考古学部に入部しようと考えている男子もいる事を。

それに紀香達の強敵は意外なところから拓朗を狙っていた。



二日目の実力テストが終わり放課後になった。

松涛学園のテストは業者による問題で、答えは4択でマークシート方式である。

コンピュータによる集計で点数や順位は三日後くらいには生徒に知らされる。

そして上位50名は名前が張り出されるのであった。


拓朗は生徒達の夏休みの課題の評価も終わり、今日は考古学部の部活で今後の予定を部員達と詰めようと思って部室にいくと、考古学部の部室の前には生徒の列が出来ていた。

なにやら紀香達が部室のドアの前で女子達と揉めている。

そして拓郎が姿を見せると全員が駆け寄ってきた。


「先生っ」


「先生っ、早く部室に入って」

かなり興奮した様子の奈々美が拓朗の腕を取る。


「待ってください。對馬先生、私は考古学部に入部しますっ」


「私も入部したいと思って来たんです」


奈々美は拓朗を庇うように女生徒達の前に立ち塞がった。


「だから、入部は認めないって言ってるでしょ。帰りなさいよ」


「なんで入部出来ないのよ。部活は自由なんだしそんなのおかしいよ」


拓朗はここにいる生徒達が入部希望者と知り驚くと同時に嬉しかった。

6月にあれほど考古学部に入部してくれるよう勧誘したのに、誰一人として入部してくれなかった。

紀香達が入部してくれなかったら、考古学部は休部か廃部になっていたのだ。

だが、なんで今になってとは思う。


「まあまあ、山咲、一応入部の動機を聞いて判断しよう。なっ、俺としては部員が多い方が嬉しいし」


「先生っ、昨日あれほど言ったじゃないですか。絶対に誰も入部させないようにって」



確かに昨日、拓朗の部屋で勉強会をしたときに四人から念を押すように言われていた。


「先生、入部希望者が多く来ると思いますけど、全員が先生目当てです。それは間違いないです。

そんな不純な動機で入部させる訳には行きません。だから絶対に入部は認めません。いいですね」


紀香達は自分達の事は完全に棚に上げていた。

だが、今までの人生で女性にモテた経験など一度も無い拓朗はそんな話は信じられなかった。


「まあ、分かったけど、そんな事は無いと思うけどな。

あれほど勧誘したのに誰も入部してくれなかったんだし。今更なあ」


「先生、今は違うんです。きっと大勢来ます。間違いないです。

ですから、お願いです、私達の言うとおりにして下さい」


4人の必死な表情を見て拓朗はやれやれと思いながらも認めていた。


「わかった、わかったよ。もしそうなったらお前達の好きにすればいいさ。

まあ、そんな事は無いと思うけどな」



それを思い出した拓朗は残念に思ったが約束は約束だ。

それに紀香達は拓朗にとっても特別なのだ。

無碍には出来ない気持ちもある。


「ああ、そうだったな。じゃあ、部長の山咲の判断に任せる。俺は職員室に戻るがいいかな」


だが事はそう簡単ではなかった。

入部希望者の中に拓朗のクラスの進藤麻奈美と矢島藍がいた。

そして麻奈美と藍は拓朗に魅せられていた。

もちろん他の女生徒達も同じだった。


「待ってください、對馬先生。山咲さん達は私達の入部は絶対に認めないって言っています。

ですが校則では部活の自由は認められています。私は考古学部に入部したいのです。

どうしても駄目だと言うなら生徒会に訴えます」


入部希望者の中には紀香達を目当ての数名の男子生徒もいたのだが、女子たちの言い合いを聞いて、その剣幕のあまりの激しさに舌を巻いて離れていってしまった。


こうして生徒会の仲裁が行われる事になった。

生徒会長は男子生徒で岩清水といった。

狭い生徒会室に20人以上の女子が入ったため熱気でエアコンの温度を一気に下げる羽目になった。


入部希望者達の訴えを聞き岩清水は即座に言った。

「山咲さん、部活で入部を希望する人を拒否する事は出来ませんよ。受け入れてください」


だが、紀香達も引かない。

「絶対にお断りよ」


今までの紀香達はクラスでも地味で大人しい方だったし自己主張も少ない方だった。

だが拓朗に関しての事では、少しも妥協したくなかった。


「何故ですか、なにか理由でもあるのですか。

まあ、あっても生徒会としては受け入れるようにとしか言い様はないのですが」


「あのね。7月の初めの頃に先生が考古学部の部員を募集してたでしょ。先生は熱心に勧誘してた。

だけど、あの時ここにいる人たちは誰一人として先生の話なんか聞かなかった。私達は先生の話を聞いて入部したのよ。それで廃部の危機は免れた。そうでしょ」


拓朗は紀香達は俺の話を聞いて入部したわけじゃないよなと思ったが黙っていた。


「まあ、そうですね。あの時は3年生の部員が引退すれば部員がいなくなってしまいますから。生徒会としても予算の関係上、廃部にせざるを得なかったと思います」


「ねっ、それで今になって入部したいって言われても断るしか無いわよ。だいたい、みんな先生が目当てなんでしょうが。そんな下心満載の不純な目的で入部したいんでしょう。分かってるんだから」


岩清水はまったく拒否する理由になっていない奈々美の意見を聞いてはあぁとため息をついた。


「山咲さん、考古学部はあの時、皆さんが入部して部員が四人になりました。ですが部員がたった四人しかいない部を部として認めるか、それとも同好会に格下げするかという議論も生徒会の中ではあったんですよ。

それでも、對馬先生があまりにも熱心なのと、今後、部員を増やすように頑張るという事だったので、部として存続する事になったのです。それが理由はどうあれ入部を希望する人を拒否するって…どうなんですか」


岩清水は呆れた様子で奈々美に問いただす。


「えっ、じゃ、じゃあ同好会でも良いわよ」


困った様子で勝手に同好会でも良いという奈々美の意見を聞き、岩清水は拓朗に話題を振った。


「對馬先生はどう思いますか。同好会になったら予算は半分以下になりますけど」


拓朗はもちろんの事、部として続けたい、それに部員が増えれば嬉しいに決まっている。


「俺個人としては当然部として存続させて欲しい。だが部員の意見も尊重したいと思う。

すまないがもう少し部員の話を聞いてもらえないだろうか」


その拓朗を見て生徒会副会長の岩瀬いわせ のぞみは思っていた。


(なるほどね、入部したいって言う人の気持ちは良く分かる。對馬先生があんなに素敵な人だったなんて思わなかった。まあ、野暮ったかった時の先生も清潔感はあったし、人柄も好感が持てる人だった。それになんと言っても深みのある優しい性格だってこともみんな分かってるんだろうな。そう考えると藤井さん達の気持も分かる。先生を自分達で独占したいんだろう。だけど、あんなに素敵な先生ってめったに居ないから、もう無理よね)


「岩清水会長、このままでは平行線のままです。最終的な判断をお願いします」

と入部希望者達が言ってくる。


「對馬先生、どうしますか。生徒会としては約束通り部員を増やしていただかないと、部としての存続はお約束できないのですが」


拓朗は返事に詰まった。

だが、そこに紀香が助け舟を出した。


「もう、分かったわよ。じゃあ、入部試験を行います。本気で考古学を学ぶ気があるかどうか試して決めましょうよ。それならいいでしょ」


「うーん、まあいいでしょう。サッカー部とか吹奏楽部とか人気の部では行われている事ですし。では、早速始めましょうか」


「ちょっと待って。先生は一年生と二年生に歴史の授業をしてましたよね。明日から普通に授業が始まるから、また入部希望者が来るかも知れない。いや絶対に来ると思う。だから入部テストは一週間後にやりましょう。生徒会はそれを生徒に告知してください」


と、奈々美が言うと岩清水は考えた様子だったが、希は理解を示した。


「そうですね。会長、山咲さんの言われる事はもっともだと思います。入部希望者が来るたびにテストをやっていたのでは部活になりません。いっぺんにやってしまいましょう」


こうして考古学部の入部テストが来週の火曜日に行われる事になった。

希は紀香たちが何を考えているのか良く分かっていた。

そして釘を刺す様に言った。


「先ほど山咲さんが言ったとおり、本気で考古学を学ぶ気があるかどうか試すテストです。

誰も正解が出来ないような難問とか、答えにいくらでも難癖つけられるような問題は生徒会が認めません。

いいですね。出来れば對馬先生が問題を考えてください」


紀香達はあからさまにがっかりし舌打ちをしていたが、希は拓朗が作った問題ならどこからも苦情は出ないだろうという判断だった。



入部希望者たちが生徒会室を出て、拓朗達も部室に向かっていた。


「ね、ねえ、先生、問題はさ、メソポタミア文明から出そうよ。古代メソポタミア文明っていえば誰だって聞いたことがあるはずだし。なにしろ人類最古の文明なんだしさ」


「まあ、そうだな、中学の歴史で習っているはずだし、シュメール人についての謎は考古学者共通の課題でもあるからな」


「ね、シュメール人って、宇宙人じゃないかって説もあるくらいだし」


「ねえ、すごいよね。シュメール人が人類を遺伝子操作で猿人から創生したって説もあるし」


「いきなり文明の大ブレークが起こるというのは考えづらいし、やっぱりさ、シュメール人って宇宙人なんじゃない」


「ねー、ロマンチックな話だよね」


考古学部の部活で、新入部員の四人に対して拓朗は最初にこの古代メソポタミア文明について講義を行なっていた。

シュメール人の謎については、紀香達も知的好奇心を刺激され、また拓朗もそのようにうまく説明していたからすぐにのめり込んで行った。

どうやら少しは考古学の面白さを分かってきたようだ。


拓朗は紀香達とこうして考古学の話が出来る事が嬉しかった。

しかも彼女達は今では拓朗にとって大事な恋人ともいえる女の子だ。


「だがな、今回はあまり専門的な問題は出せないと思うんだ。生徒会で問題を精査するって話しだし」


「でも先生、昨日も言いましたけど新しく部員は入れたくありません。嫌なんです」


「何でだ…もうお前たちは俺にとって特別な…その…大事な女の子なんだ。

他に何人部員がいたってそれは変わらないぞ」


「先生…」


四人は顔を赤くして嬉しそうに拓朗を見詰める。


「まあ、とりあえずお昼ごはんでも食べに行こうよ。先生のおごりで」


「そうそう、先生は私たちとの約束を忘れて眼鏡を掛けて来なかったんだから」


「牛丼屋は嫌。女子高生の行くとこじゃないもん」


「この間、先生につれて行かれたときは恥ずかしかったよ、まったくもう」


「分かった、分かったけど、他にどこに行くんだ。俺の財布に優しいところがいいんだが、立ち食いそば屋とか」


「立ち食いそば屋ぁ~?…先生っ!もっと気を使ってください。そうね、じゃあ、ロイホは」


「ええっ、あそこはちょっとな、予算を考えるときついかな」


「じゃあ、お弁当を買って貰って先生のお部屋で食べよう」


「うんうん、実力テストも終わったんだし、今日くらいはゆっくりしようよ。ねえ、先生、ねっ」


何かを期待したような目で見る純、だが拓朗は残念そうに言った。


「お前たちはそれでいいけどな、俺はそういう訳にも行かないんだよ。教員は5時まで学校に残るんだ」


「ええっ、そうなの。ちぇっ、夜までおあずけか」


何がおあずけなのか分からないが、5人でワイワイ話しながら部室の前に来ると4人の女子が拓朗を待っていた。

拓朗はすぐに女子バスケット部の生徒だと分かった。

彼女らは白いTシャツの上に白字で松涛学園と入った紺色のタンクトップを着て、同じ色の短パンを履いている。

すぐにバスケットのゲームウェアと分かるし、手首にはやはり紺色のリストバンドをしている。

靴は普通の運動靴だが体育館でバスケットシューズに履き替えるのだろう。


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