エピローグ(前編)
あまりにも長くなってしまったため、前後編に分けました
3月の初め、拓郎がハーレムメンバーを送ってマンションの駐車場に帰ってきた時、そこに風と水の精霊が待っていた。
「フーコっ、トーコっ」
――たくろう
――たくろうさん
「帰ってきたんだな。あれから6年も…なぜもっとはやく…」
二柱の精霊は拓郎と同じように少し大人びた雰囲気になっていた。
フーコは中国の道士服のような白い服を着ていて、トーコは水色の和服のいでたちだった。
ただフーコは髪が美しい銀色に輝き、トーコの髪も濃い青色に輝いていた。
二人は怒ったような顔をしている。拓郎は何故二人が不機嫌なのか分からなかった。
(何故喜んでくれないのか。あっ、ひょっとして奈々美達のことを知ってるのか。まずいな)
――たくろうさん、明日、あなたの想い人達を全員お部屋に呼んでください
――たくろうは困ったことをしたね、
(フーコとトーコはやっぱり奈々美や里奈達のことを知ってるんだ。まいったな)
「いや……仕方なかったんだ。でもお前達の事を忘れたことなんて無いんだ」
――それはわかっています そういうことじゃないんです たくろうさん
――たくろう 明日 話そう
そう言うと二柱の精霊は拓郎の前から消えてしまった。
「フーコっ、トーコっ」
拓郎はフーコとトーコの様子がおかしいのには気付いたが。もっと話したかった。
今までどうしていたのか、そして奈々美や里奈達のことを話したかった。
(とりあえず二人の言うとおり明日みんなを呼ぼう。だけどまた二人は俺の前からいなくなってしまうのか)
そう思うと悲しくなった。
拓郎の部屋に集まったハーレムメンバーはいきなり拓郎が話しだしたことに戸惑っていた。
「なあ、お前達は妖精とか精霊の存在を信じるか」
「はぁ、いや…それはいないとは言えないよね。昔からの言い伝えとかあるし」
「どうだろう、まあ、否定するわけじゃないけど、ちょっとねぇ」
まあ、この反応が普通だよなと思いながら拓郎は続ける。
「だけど俺は幼い頃、その妖精に命を救われたんだ。そして17歳の時まで一緒に居た」
「ええーっ、ほんとに、まあ先生が嘘付くわけ無いと思うけど」
「本当なんだ。だけどその妖精たちは俺しか見ることは出来ないんだ。誰にも見えないんだよ」
「……」
誰も何もいえなくて黙っている。気まずい雰囲気が流れた時、拓郎の隣に二柱の精霊が姿を現した。
「「「「えっ」」」」
「なに、誰」
「「ええっ」」
奈々美達は急に現れた不思議な美女二人を見て、驚いて後ずさる。
「フーコ、トーコ」
だが拓郎が特に驚いた様子もなく、警戒もして無いのを見ると少し落着いた。
「先生っ、これは…いったいこの人たちは…幽霊」
「いきなり何も無いところから急に現れたよ」
拓郎は皆がフーコとトーコを見て驚いているのを見て驚いていた。
「みんなっ、この二人が見えるのかっ」
「そりゃ見えるよ。でも不思議な感じ、人じゃないみたいな…」
――たくろうさん このひとたちは私達が見えるのです
「……そうなのか、でもなんで」
――それはたくろうのせいだよ
「俺の所為、なんで」
――とりあえず落着いて話せるところに場所を移します、
と、トーコが言った途端、拓郎達は草原にいた。
近くに大きな湖が見える。草原の周りは森だった。
優しいかぜが吹き渡り、空を見ると太陽は見えないが曇りガラスで覆われたようにやさしい光が注いでいる。
「ええっ、ここはどこ」
「うわあ、なんで」
紀香達はびっくりして周りを見渡すが見た事もないほど綺麗な景色だ。
――ここはわたしたちの棲む世界です あなた方の世界の隣にあります
――安心して話が終わったら元の部屋に戻れるから
それを聞いて拓郎も紀香達も少し安心した。
「私達の隣にある世界って、訳わかんないけど平行世界って事かな」
――そう思ってもらって結構です いつでも帰れますから心配しないで
「みんなこれで解かったろう、この二人は精霊なんだ、風の精霊と水の精霊で名前はフーコとトーコだ。
この二人に俺は命を助けられ、そして俺の大切な幼馴染だ。ずっと一緒に生きてきたんだ」
「うん…ここまで不思議な事があったら信じるしかない。夢なんかじゃないし」
「悪魔が先生の命を助けるわけないし、うん、信じるよ」
「夢じゃないことは確かだし、フーコさんとトーコさんは人間じゃないことは解かる」
「すっごい綺麗なところだし、地球じゃないと思う。見たこと無い花がいっぱい咲いてるし」
「先生はいつもこんな綺麗なところに来てたの」
「いや、俺も初めてだ。それでトーコ、話ってなんだ。約束を破ったことは認める。だが……」
――約束はとにかく 今はあなた方に大切なお話があります
まずはたくろうさんのおはなしからしたいとおもいます
「俺の話?」
――そうです、たくろうさんも自分自身のことはわかっていないのですよ
「先生の話なら是非聞かせて」
「うんうん、聞きたい」
――たくろうさんは幼い頃 山奥の病院に入院していました。
ですが重度の呼吸器疾患とアレルギー疾患を患っていて命の灯も消えかかっていました。
「そうだったな、今でも覚えているよ」
――たくろうさんの魂は本当に美しく純粋で精霊を呼び寄せるほどの輝きを放っていました
そして高位の光の精霊がたくろうさんの魂に引き寄せられたのです
そしてたくろうさんの心の悲鳴を聞いてしまいました
『誰か助けて、苦しいよ、つらいよ』と
その光の精霊はあなたを救うことを決心し躊躇することなくたくろうさんと融合しました
そしてたくろうさんは危機を脱したのです
「えっ」
拓郎は初めて聞いた話に驚きを隠せない。
「まさか……精霊と融合」
――そうです あなたの命を救うにはそれしかなかったのです
そしてあなたの中にいる精霊は風の妖精を生み出しました
あなたはその風の妖精にフーコという名を与え眷族にしましたね
フーコはあなたの呼吸器疾患を治癒するために生み出されたのです
「そんな…いや…そうだったのか」
――そして次に水の妖精であるわたしが生み出されました
あなたの眷属となり あなたの循環器系に入り込みアレルギー疾患を治癒するために
あなたはわたしにトーコと名づけてくれました うれしかった
「そうだったな、ありがとう」
――それでわたしたちの役目は終わったのですが あなたの中の精霊は精霊力を消費し眠りについてしまいました
わたしたちは、あなたの美しい魂に魅せられ離れるのが辛くて あなたの中の精霊が寝ているのを良いことに あなたと一緒に成長していくことを望みました
たくろうさんは相手を愛しいとおもったときに強い精霊力を身体から放出するようになりました
あるいは親しい相手ならを癒したいとか慰めたいと思ったときに精霊力が放出されるのです
その精霊力はわたしたちを成長させてくれました
あなたに精通が来てからの毎日の交わりで そのあまりにも大量の精霊力をあなたに霊力として還元しお互いの力を増幅させていったのです
そしてあなたは人間の限界を超える身体能力を持つに至りました
わたしたちも妖精から高位妖精へ そして精霊にまで昇華しました
「そうだな、それは俺もわかっていた」
「先生、先生の中に精霊が宿っているの」
「うん、俺も知らなかったんだが、どうやらそうらしい」
――いえ 光の大精霊はすでにたくろうさんの魂に融合され意思も失い たくろうさんの一部になってしまいました
たくろうさんの力はそれほどまでに強くなっていたのです
たくろうさんは光の大精霊の力を全て受け継ぎ、すでに人間ではありません
「ええっ、そんな馬鹿な」
――いいえ 本当です たくろうさんはこの精霊界に棲めばいずれ肉体の呪縛から離れ光の精霊になります
たくろうさんのその輝くような美しい魂は精霊の中でも稀なほどなのです
資格はじゅうぶんにあったのです
「先生はここに住むの。そんなのいや、ねえ先生、帰ろう」
「そうだよ、先生がいなくなっちゃったら私達はどうしたらいいの」
「そうだな、俺もお前たちと別れたくない。トーコ、俺がずっと今までどおりの生活をしてたらどうなるんだ」
「うん、それに私達も、もう普通の人間じゃないんでしょう」
里奈はうすうす感付いていた。
どう考えても先生に抱かれてからの私達の能力は異常だと。
――そうですね これからそのお話をしましょう
ほかにも大切なお話がありますし
もちろん人間界にいても今までどおり暮らせますが 普通の人間と違い年齢による肉体的な変化はしません
ようするに いつまでたっても今のままです
「なんだって、じゃあ、不老なのか」
――はい そうです でも不死じゃありません 殺されたら死にます
それはここにいる皆さんも同じです
ですから せいぜい人間界にいられるのは15年くらいでしょう
それ以上になると不自然だとおもわれてしまいます
「ええっ、私も年をとらないの。ちょっと嬉しいかも」
――わたしたちはこの精霊界に戻ってからもたくろうさんを見ていました
たくろうさんは初めて受け持ったクラスにいる4人の女性の心の悲鳴を聞いてしまった
その4人の女性の心は酷く傷つき血を流していました
藤井紀香さん 篠崎ミサさん 山咲奈々美さん 相沢 純さん あなたたちです
「そうね、あの頃は毎日泣いていたし、どうしていいかわからなかった」
「あの時先生に会わなかったら、今頃はどうなっていたか。死んでいたかも」
――そしてたくろうさんもあなたたちのことを愛しく思うようになりました
あなたたちが、たくろうさんの魂に惹かれたように たくろうさんもあなたたちの美しい魂に惹かれたのです
お互いの魂が共鳴し 愛し合い そしてたくろうさんはあなた方に非常に強い精霊力を注いでしまいました
さらにたくろうさんは佐々木里奈さんに会ってしまったんです
そして当然のように愛し合うようになりました
「えっ、わたし、会ってしまったって……それはいけないことだったの」
里奈は不安そうだ。
――いいえ、そうではありません たくろうさんと里奈さんは前世では愛し合って結ばれた間柄なのです
そして二人とも輪廻の輪から外れて今の世に生まれ変わったのです
「そうか、先生が私と初めて会ったとき懐かしそうにわたしを見てたのはそういうことだったの。
ああ嬉しい、先生と私は運命で出会うべくして出会ったのね。先生、今世でも生涯を共にしましょう」
「ちょっと待ちなさいよ。私だって前世で先生と何かあったんじゃないの」
奈々美がすがるようにトーコに訴えた。
――いいえ 特に何もありませんが
「むっきー、じゃあ、里奈は先生と結ばれる運命なの」
――そうですね 里奈さんはたくろうさんと同じくらい強い輝きを持つ魂を持っています
みなさんには見えないでしょうけど里奈さんの周りには多くの精霊が集まってきています
「ええっ、じゃあ、私も精霊と融合しちゃうの。先生と同じように」
――いいえ たくろうさんの強い精霊力を1年以上身体に注がれて すでにあなた方は高位の妖精と言えるほどの存在になっています あなた方ももう人間ではないのです
精霊達もあなた方の意思を無視して融合することなど出来ません
ただあなた方の魂に惹かれて集まってきているだけです
「高位の妖精って、じゃあ、私達もここに棲めば先生と一緒に居られるの」
「あはは、コートの妖精とか言われてたけど、まさか本当に妖精になってたんだ」
――そうですね ここでたくろうさんと暮らしていけば あなた方もいずれは精霊になれます
永遠に近い長い時間生きていくこともできます
ですが たくろうさんもあなた方も世間の注目を集めすぎています
急にいなくなったら世間は大騒ぎになってしまうでしょう
それは精霊界にとっても、けっして望ましい事ではないのです
それにたくろうさんを慕う女性が多すぎます
彼女達は想いが強すぎてたくろうさんがいなくなったら心が壊れてしまいます
「それは……誰なの」
――解かっていると思いますが 中沢優奈さんや進藤結衣さんたちバスケ部の人たちです
「じゃあ、どうすればいいいの。私は先生と一緒に居たい」
――ええ こまりました
それに あなた方もこのまま たくろうさんの下に通っていると世間に関係が知られてしまいます
ですからこれからはたくろうさんの住まいに通ってはいけません
「ええーっ、そんな、じゃあ、どこで先生と会えばいいの。会えないくらいなら知られたっていいよ」
「そうだよ、もう会えないなんて…私達だって壊れちゃうよ」
「どんなことになってもいい、先生に毎日会いたい」
――こまったひとたちですね わたしたちだって 6年もたくろうさんと会えなかったのですよ
時には会いたくて気が狂いそうなくらいでした それでも我慢したんです
あなた方も我慢してください
「無理無理、ぜぇーったいに無理。会えないくらいなら死んだほうがいい」
――もし世間に知られたら、あなた方もたくろうさんも大変なことになってしまうんですよ
「それでもいい、先生と会えないなんて考えられないし、耐えられない」
――トーコ もうしょうがないよ たくろうとこの娘達に精霊石をわたそう
――はあ、しかたないですね しばらくはわたしたちが たくろうさんを独占できるとおもったのですが
「なにそれ、じゃあ、あなたたちはしばらくの間、私達を先生から遠ざけて先生を独占する気だったわけ」
――あたりまえでしょう わたし達は6年も我慢してきたんです
その権利はあるはずです
「勝手に6年間もどこかに行ったのはあなたたち精霊じゃないの。そんな権利は認めません」
――むう じゃあ あなた方はどうなんですか わたし達は見てたんですよ
あなた方がたくろうさんの寝室や浴室でしていたことを あんな変態みたいなことをばかりして
「そっちこそ覗いていたなんてサイテー、それに普通に愛し合ってただけだよ」
――いいえ 普通の恋人同士はあんなすごいことはしません
たくろうさんをむさぼるよなことばかりして 変態です 変態
「先生を求めて何が悪いのっ、先生だって喜んでくれてたわよ。だいたい……」
里奈達も精霊達も顔を真っ赤にして言い合っている。
流石に聞いていられなくなった拓郎はあわてて止める。
「まてまて、フーコ、トーコ、お前達だって人のことは言えないだろ。そんなことより精霊石ってなんだ」
――たくろうさんっ わたし達はあそこまでの行為はしてませんっ
まあ、いいです、これが精霊石です これを使えばいつでもここに来れます
不本意ですが、今ここにいる方でしたら精霊石を使って念じればここに来れるのです
「ふーん、と言うことは時間を決めればいつでも先生とここに来れるわけね」
「じゃあ、これからは人目を気にして、こそこそ先生のマンションに行かなくてもいいんだ」
「青空の下、草の上でするのも初めてだよ、まあ、開放的だけど恥ずかしいような感じ」
純や詩織は顔を赤くして照れている。
それを見てトーコが呆れた様だ。
――まったくあなた方はここであんなことをするつもりですか まわりには精霊達がいるんですよ
たくろうさん わたしたちが6年間暮らした家があそこにあります
見ると丘の上に大きな平屋の武家屋敷のような日本家屋があった。
「あっ、あれは俺の田舎の実家じゃないか。何であんなところに」
――精霊達にお願いしてたくろうの家とおなじものをつくってもらったんだよ
どうかな あたらしい家だよ 広すぎて最初は落着かなかったけど おふとんもあるし 囲炉裏もあるよ
「フーコが作ったのか、へぇ、本当に新しいけど俺んちだ」
――水まわりはわたしがやりました 快適ですよ たくろうさん いまからここに住んでください
たくろうさんが肉体の呪縛から開放されるのに10年くらいは掛かると思いますが ご飯だって精霊達に言えばすぐに用意してくれますから何も心配はありません
「ちょっと待ちなさいよ。世間が大騒ぎになったら困るんでしょ、それにバスケ部の女の子たちはどうするのよ」
――チッ そうでした
「今、チッて言ったよ」
「本当に精霊なのかしら、性欲も強そうだし。確かに綺麗な子だけど」
――なにか文句でもあるのですか だいたいあなた方はおじゃまなひとたちなんですよ
精霊石がいらないというのでしたら 無理にお渡しすることもないのですけど
拓郎は前から思っていたが、妖精や精霊達はけっこうわがままなんだと思った。
次回こそ最終話です




