第2話
拓朗は彼女が出来た事は無いし、女性と長い時間行動を共にした経験も無く若干女性に対し苦手意識を持っていたが、紀香達は七歳も歳が離れているし、なにより自分の受け持ちの生徒である。
特に気取ることもなく、普通に地で接していた。
大学時代から一人暮らしをしている拓朗は、最初は部屋に客が来るのを面倒に思っていたが、気兼ねすること無く接してくる生徒達に、拓朗も気を使う事も無くなりそれほど面倒に思わなくなった。
それどころか彼女達の挑発攻撃や刺激的な場面に遭遇するたびに、ドキドキしたり非日常的な時間(拓朗にとってだが)が新鮮で楽しいと無意識に思うようになっていった。
もし妹がいたらこんな感じなのかなあと思ったりしていたのだ。
だが、拓朗自身も気付かないうちに少しづつ四人の女子高生を女として意識させられていった。
彼女達は勉強会がない日には、奈々美の家に集まってファッション誌を持ち寄りおしゃれの研究に余念がない。全て拓朗を篭絡させたいが為にいろいろ考えているのだ。
彼女達は物心が付いた頃から今まで親に期待され勉強一筋だった。
年頃の女の子にしては、あまりおしゃれに関心が無かった。
だが、今はそうでは無い、少しでも可愛くなって拓朗の関心を買いたい。
というか拓朗の事で頭がいっぱいである。
彼女達はファッション誌だけではなく表参道や渋谷、銀座にまで足を伸ばし、女の子のファッションを見て歩いていた。そして必ず試着して納得した上で服を選んでいた。
彼女達は確実にセンスを磨いて行った。
そしてそれは下着選びでも発揮された。
「ねえ、これどうかな。ちょっと布地面積が小さいけど、そんなに下品じゃないし」
「うん、いいね、セクシーだし、私も色違いのを買おうかな」
「で、でもさ、それっていくらなんでもすごすぎるよ。恥ずかしいよぉ」
「先生に見て貰うためだけだよ。学校になんかに履いて行く訳ないでしょ」
「先生のマンションで履くだけだよね。普段は履かないって」
「でもさ、その・・間違って紐が解けちゃったら…やっぱりさ」
「いいじゃん、その時は…それなりにさ、先生だって喜んでくれるかも」
「先生がよろこぶ…そ、そうかなあ、…うん、そうかも」
「私、これ買おう」
「私も」
彼女達は自分達自身も気付かないうちに大胆になっていった。
今日も勉強会で四人はきわどい会話で拓朗を挑発していた。
「ねえ、先生、いつまで私のパンツ見てるのかな。
まあ、先生なら裸を見せあった仲だしパンツくらいなら、いくらでも見てて良いけどね。
中身だって見られてるんだし」
とまったく隠そうともせず嬉しそうに話す相沢 純、彼女は拓朗の目が自分の下半身に一分以上固定されていたので上機嫌だった。
今日の下着は先生に見てもらいたいと思っていたし、視線を感じてドキドキしていた。
「相沢っ、おまっ、人聞きの悪いこと言うな。裸を見られたと言っても、アレは事故だ。わざとじゃない」
あわてて純から視線を離し言い訳をする拓朗。
「事故でも何でも見られた事には変わりないよ。まあそれくらいで責任取れなんて言わないし。
もちろん、子供でも出来たら責任とってもらうけど、ね」
「純、見られただけで妊娠する訳ないでしょ。そんな事言ったら私なんかもう何回妊娠したか。ねー先生」
拓朗の目からは自分の下半身が見えない位置にいるため不機嫌そうな紀香が言う。
「私も先生には何度もシャワーを覗かれたし、もう先生には見られてない所なんか無いよね。
もうえっちなんだから」
と、口を尖らせながらも熱い目で拓朗を見つめるのは篠崎ミサ。
「わざと覗いてる訳じゃない。お前たちがいつもいつも脱衣所と浴室のドアを開けたままシャワーを浴びてるからだ」
「ぐ、偶然だよ。ねえ、みんな。それに先生だってあんなとこ大きくさせてたじゃない。えっち」
「私なんか裸を見られただけじゃなくてトイレのドアも開けられたよ。
あのときは恥ずかしかったぁ、先生のえっちぃ」
あはははと小悪魔的な微笑を浮かべる山咲奈々美。
「トイレに入ったら鍵を掛けろって何度も言ったろ」
えっち、えっちと言われて拓朗はいたたまれない気持ちになった。
「お、お前ら・・大体スカートが短すぎないか。座っただけで見えちゃうじゃないか」
「こんなの今は普通だよ。先生こそ見ない振りくらいはして欲しいな。
いつも股間を膨らませてガン見している先生にはデリカシーというものは無いの」
「じゃなくて、お前たちは、うちに来るときと帰るときは普通にジーパンとブラウスを着てるだろう。
なんでここにいる時は、そんなに薄着なんだ。スカートも短いし」
紀香達四人は、慎重に行動していた。
家族にそれと分からないように、それぞれ家を出るときには、今まで通りの地味な服装にしていた。
だが拓朗のマンションに来て、シャワーを浴びてから薄い布地のキャミソールやタンクトップとマイクロミニといわれるくらい短いスカートに着替える。
そして下着は上は着けないし下はかなり際どい下着に着替えるのだった。
おかげで彼女達の胸元を押し上げる膨らみの、その先端を見れば下着をつけていないのが丸分かりだ。
「先生、これは部屋着だよ。外を歩く時は日焼けしたくないからジーパンとか長袖のブラウスとかを着てるんだよ。でも家の中であんな服着てたら暑いでしょう。省エネでエアコンの設定温度を28度にしてるんだから、このくらい薄着じゃないと暑くて勉強になんないでしょうが」
それは・・事実だ。
だが拓朗は思っていた。
――― 絶対にわざと見せ付けているんだ。
みんなめちゃくちゃ短いスカートだし、少し屈んだだけで下着が・・それにだいたいなんであんな際どい下着を着けてるんだよ。
女子高生が着ける様な下着じゃないと思うんだけど。今の子はみんなそうなのかな。
それに胸だって、どうしたって目が行っちゃうだろう。
見るなって言うほうが無理だ ―――
「だがな。あまりにも無防備な感じがするんだがな。俺だって男なんだ。すこし自重してくれないか。
エアコンの温度を少し下げてもいいからさ」
拓朗は遠まわしに露出を控えろと言いたかったのだが手痛い反撃を受ける。
「エアコンはそのままで良いってば。先生がえっちだから、そんな風に思うんだよ。
私達は家にいるときはいつもこんな感じなんだよ」
「そうだよ、家ではこれが普通だよ。それより先生がそんな目で見るから困るんだよねぇ」
「ねーっ、プールのシャワー室でいっしょにシャワーを浴びた時なんか、私達の身体を見てあんなとこ大きくさせていたもん。海パンの上からでもわかっちゃったもんね」
「うんうん、そんなえっちな先生だから彼女の一人も出来ないんだよ」
やっぱり、あのときバレていたのかと思いながらも拓朗は誤魔化すように言った。
「だまれっ!そんな訳あるかぁー!」
すると四人はちょっと不安そうな顔で聞いてくる。
「えっ、・・・先生、彼女が出来た?」
拓朗はあわてて取り繕うように言った。
「そうじゃなくて・・・いや、だが、そんなことお前達には関係ないだろ」
拓朗は彼女らの言葉を完全には否定できない。
実際、彼女らの言うとおりの部分も多くあったのだ。
恋する女は短期間で大きく変わるという。
紀香達は拓朗に本気で恋をして、そして自分を磨いてきた。
以前に比べ一日に鏡を見る時間は数倍に増えた。笑顔の練習もした。
パソコンで自分の写真をもとに、ヘアスタイルを色々と変えてみて一番可愛いヘアスタイルを美容師に注文した。少しでも綺麗になった自分を拓朗に見て貰いたかった。
もちろんメイクの研究にも力が入っていた。
銀座や日本橋の百貨店の化粧品コーナーでメイクを教えて貰ったり、ファッション誌などをみながら実際にメイクをしたり、四人で相談しながら熱心に勉強し自然な感じの化粧を身に着けて行った。
お風呂では拓朗を想って丁寧に身体の手入れを行い、風呂上りには全身に化粧水も使うようになった。
寝る前には拓朗との始めての場面をシュミレーションして自分を慰めていた。
そんな4人はこの一ヶ月で見違えるように女らしくなった。
少女から女に変わる狭間にある彼女達は清楚と言う言葉の生きた見本のようだ。
しばらくぶりに会った知人から見れば別人のように綺麗になったと思われるだろう。
実際、山咲奈々美の家ではちょっとした騒ぎが起こった。
山形の大学に在学している奈々美の兄 徹が三ヶ月ぶりにお盆休みで実家に戻った時、玄関を開けたら芸能人かと思うような美少女が立っていた。徹の大学がある地方都市ではついぞ見ることが出来ないほどの清楚な美少女である。
その美少女は出かけるところだったらしくおしゃれな装いだ。
白いフリルのついた紺色のチュニックワンピースを着て腰にはカラフルな編み上げのベルトをしている。
長い黒髪のストレートヘアのサイドをゆるく三つ編みにして、ベルトとおそろいのカラフルなニット帽をかぶっている。徹は最初はこの垢抜けた都会的な美少女が奈々美だとは気付かなかった。
その美少女が鈴のなるような声で言った
「あっ、お兄ちゃん、おかえりー ……って、どうしたの」
呆然として見詰めてくる徹を見て奈々美は首をかしげる。
その姿もかわいらしい。
「えっと…… 奈々美 …なのか」
「お兄ちゃんをお兄ちゃんって呼ぶのは私くらいじゃない。
あはっ、もしかして彼女が出来てそう呼ばせてるの」
あはははと笑う奈々美、その笑顔もかわいい。
奈々美はブーツサンダルを履こうと玄関にしゃがみこんだ。
真っ白でむっちりとした太股が徹の目に入る。
それを見ている徹はドギマギしていたがなんとか言葉を紡いだ。
「そ、そんなわけ……ないだろ」
「まっ、いいか。私、これから出かけるから、明日にでも詳しい話を聞かせて」
そう言うと奈々美はブーツサンダルを履いて出かけて行った。
その後、徹が母の初美に問いただしたのは言うまでも無いが、初美は
「別に、今までと何も変わらないわよ。彼氏?無い無い。いつも友達と一緒に居るし勉強に明け暮れてるわ。
たまに気分転換に4人で出かけているみたいだけど、朝から先生のところで勉強会だし、夜は塾だし。
今日は部活でどこかの博物館に行くって言ってたわね、ちょっと遅くなるかもしれないわね。夕ご飯は要らないって言ってたし」
確かに週に奈々美は三回は拓朗のマンションで勉強会をしているし、塾にも行っている。
「友達?いつもの藤井さんと、篠崎さん、相沢さんよ」
「ああ、先生は担任の先生で對馬先生。すごく野暮ったい先生だけど理事達の間でも熱心なので有名よ」
初美は奈々美の学校の理事をしている。
「じゃあ、なんであんなに別人みたいに…その…可愛くなったっていうか」
「そんなに変わった?私は毎日見てるから…まあ、年頃だしね。あの子もおしゃれに目覚めたのかなとは思う。いつも友達とおしゃれの研究してるみたいよ」
と初美は何も警戒していないようだが、徹は奈々美のあまりの変身ぶりに何かあったんだろうと思っていた。
紀香達は拓朗がコンビニに行ったとき、拓朗の寝室の本棚に巧妙に隠してあるDVDを見つけた。
レンタルしてきたのだろうが、なんと女子高生物だった。
しかもなんとなく自分達の制服に似た感じの制服を着た女優である。
普通はそんなのを見つけたら軽蔑しそうなものだが、四人は大喜びだった。
だが拓朗が彼女らにそのDVDの存在を知られたと分かったらパニックになるし、もう勉強会はして貰えないだろう。
慎重に元にあった所にDVDを戻すと、四人はうなずき合った。
四人は拓朗が自分達を、やっと女として見てくれる様になった事に喜んでいたのだ。
そして今日、あの計画を実行しようとしていた。
「今日は終わりにしよう。送っていくぞ」
夜7時になり、拓朗が車の鍵を戸棚から出してくる。
毎回、勉強会が終わったら拓朗が4人を車に乗せ、家まで送り届けるが、その際それぞれの親にきちんと挨拶している。
だが、今日は藤井紀香が残りたいと言い出した。
「先生、ちょっと切りが悪いから、私はもう少しやりたいんだけどいいかな。
ほら私の家は直ぐそこだし」
「いや、終わりにしよう。遅くなると親御さんが心配するだろ」
「だからさ、ちょっとだけだよ。だいたい塾に行く日は帰りは10時過ぎになるんだよ。
ぜんぜん大丈夫だってば。私はここでお留守番してるから、先生はみんなを送ってきて」
「そうね。紀香の家は歩いても5分くらいだもんね」
「走れば3分以内で着くし」
「先生、大丈夫だよ。紀香は10時前に帰るのが珍しいくらいなんだし。私達もだけどさ。これから塾だし」
「先生、塾に遅れちゃうから早く送って」
他の三人も紀香を応援する。
拓朗は少し考えたが紀香の家は確かに直ぐ近くだ。
「うーん、じゃあ、みんなを送ってくるからそれまでに終わらせろよ」
「うん、いってらっしゃい。あ・な・た。本棚に隠しているつもりの物は捨てたりしないから安心してね」
「な、なにぃ、藤井ぃ、おまっ、アレを…いやアレは」
「まあまあ、先生、帰りましょう」
と、奈々美とミサが拓朗の両腕に腕を絡ませ強引に連れて行く。
車の中では拓朗は居た堪れなかった。
「先生だって男だもん。ああゆうのに興味はあってもおかしく無いよ。うん、無いほうがおかしい」
「………」
「むうう、でもさ、先生は何度も私達の身体を見てるんだし、勉強会のたびに私達のパンツのチェックもしてるのにさ、なんであんなの見たいのかな。先生には私達がいるんだし、あんなの見なくてもいいのに」
「………」
「いや、奥さんがいる人でも、キャバクラや風俗に行くじゃない。それとおんなじよ」
「………今日で勉強会は「先生っ」終わり…」
拓朗が余りのバツの悪さに聞いていられなくなり、もう勉強会は止めようと言おうとしたが途中で純に止められた。
「先生っ、それ以上言っちゃだめ。私達だって学校で先生の秘密を暴露したい訳じゃないもの」
「な、なにっ、お前ら、俺を脅迫する気か」
「ええっ…脅迫って、先生、ほんとにえっちな本とか隠してたわけ」
「ねえ、ねえ、せんせ、ほんとに」
拓朗は”本 ”と聞いて
――なんだ、カマかけられてたのか。まあ考えてみればあれほど巧妙に隠したんだ。見つかる訳無いよな。
と安心した。
甘い男である。
運転中の拓朗は奈々美達三人がニヤリとしたり顔をした事に気付かなかった。
「そんなものあるわけ無いだろ」
「じゃあ、今度調べてもいい?」
「駄目だ」
「なんでぇ、いいじゃん。やましいとこが無いならいいでしょ」
「やましい事なんて何も無いが、駄目と言ったら駄目だ」
拓朗はようやく針の筵から脱出した気持ちになった。
だが拓朗にとってとんでもない状況に陥るのはこれからだった。