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俺は神様に嫌われた。  作者: 夕夜
1/1

神様は女の子。





「僕は神だッ!!」


『はっ?』


ヒズミは頭を抱えて、たっぷり約37秒程停止した。

小一時間前現れた、黒髪、緋色の瞳の少女はそう言った。

11歳程度にしか見えない幼い少女。


「あのね、お嬢ちゃん…」

「お嬢ちゃんではない、涼世里すずせりだ!」


フンッと鼻を鳴らして、そっぽを向く、涼世里という名の少女。

腕を組んで、仁王立ちしている姿は、非常に様になっている。


「涼世里ちゃん…?変わった名前だね」


この、涼世里という少女と出会ったのはついさっき。

それを語るには、この少年、ヒズミの・・・アホらしい失敗も、明らかにしなければならない。




『2163年7月21日、午前8時をお知らせします。』

『今年の夏は、海へ行こう!』

『この夏、新たなアトラクションがスタート』


改札を出ると、電気屋の巨大モニターから、大音量でこの時期特有のCMが流れている。

うなだれるような熱気、まとわりつく夏特有のにおいもヒズミにとってはうっとうしいことこの上ない。

足、首、額。全身から、滝のような汗が流れ出る。


「なんで夏休みに早起きして、学校に行かなきゃ行けないんだか・・・。」

「おっ!ヒズミじゃん、はよっす!」

「ヨシハル・・・。」


暑いのに元気だなぁ、ホント。

心のなかでそっと悪態をつく。

私立学園の高等部一年に在籍。


「相変わらず、ひっどい顔してんな~」


顔を覗きこむヨシハル。

目がチカチカするくらい赤い、派手な髪が揺れ動く。


「うるせぇなぁ・・・ほっとけよ」

「つか、やっぱお前も補修組だよな~。夏休みだってのにまたヒズミの顔見なきゃなんねぇのか・・・」

『俺だって、夏休みくらい、お前の顔なんか見ずに過ごしたいっつ~の・・・。』

「ヒズミはテストとか、勝負ごとにはほんっと弱いな~。で、今度の試験はどんなミスで補修に?」


ニヤニヤした・・・面白くてたまらない、といった顔をする、ヨシハル。


「数Ⅱの解答用紙で、現国の解答書いた・・・。あと同じ要領で全科目ミスった・・・。」

「ぶふぅっ・・・!!」


ヒズミの肩をばんばん叩きながら、転げまわって笑う。


「あははははっ!!」


声が響いて、横を通ったOL風の女性が驚いたように二人を見る。

無性に恥ずかしくなったヒズミは、ヨシハルの首を掴んで、引きずる。

抗議の声を上げるが、無視。


「ヒズミ、今日の補修、猪野センセイなんだってよ!」

「へ~、珍しいな。」


今だ、ヨシハルは引きずられている。


「いいよなぁ~ああいう大人の色気・・・。」


ヒズミの引きずり攻撃から逃れ、くねくねと体を動かして、空を見上げるヨシハル。

瞳は♡になっている。


「お前、年上好きだったか?」

「いや、女全般が好きなだけっ!」

「ヨシハル・・・」


大きなため息をつく。


「お、ガキども。私の噂か?」

「い、猪野センセイ・・・!」


突然現れた噂の主に、ヨシハルは、顔を赤らめる。


「・・・。」


猪野ちゃんこと、猪野優センセイは、一年の英語を教えている。

茶髪のロングヘアーに、パーマをかけた美人で、胸元のよく開いたスーツを着ている。

職員室で煙草もよく吸っていて、そんなとこが大人の色気でいいとか、ヒールを履いた脚で

踏まれたいとかなんとか・・・。

ファンクラブも最近出来たらしい・・・。


「なんで、校門の前に猪野ちゃんがいんの?」

「お、いいとこに気付いたな、ヒズミ。」

「俺も気づいてたっ!俺も俺もっ!!」


猪野ちゃんとの間に割り込むヨシハル。


「あ~わかったわかった。いいから吉川は補修に行け。だけど、ヒズミはちょっと借りるな!」

「え~~・・・」


明らかに落ち込んだヨシハル。

ヒズミは猪野ちゃんに首根っこを掴まれ、ずるずると連行される。

ヨシハルはそれを見て、羨ましそうにしている。


「い、猪野ちゃん・・・く、苦しいんだけど・・・。」

「男の子なんだから、我慢!」

「い、意味わかんないんだけどッ」

それから、職員室に着く十分間、ヒズミと猪野ちゃんの戦いは続いた・・・。




「はっ!?」

「だから、時間が違うのよ!あんたは、全教科さんっざんな結果だったでしょ、だから他の生徒とは

補修の開始時間が違うの。」

「じゃ、じゃあ・・・」

「あんたは他のやつらより早く来て、もう一回テストを受けなきゃいけなかった。

テスト全教科、サボタージュってわけ。はい、ざんね~ん」


ヒズミは驚いて声も出ない。


「俺、んなの聞いてないっすよ!!」

「男子寮にはがき送っといたわよ。」

「今日まで・・・男子寮は閉鎖してるじゃないっすか・・・。」

「あ、そ~だったそ~だった!悪いわね!」

『最悪だ・・・マジで最悪だ!』


そのとき、職員室の扉がノックされて、女子生徒が入ってくる。


「先生、少しよろしいでしょうか?」


ヒズミと女子生徒の視線が一瞬交わる。

頬をほんのりと染め、顔をそらす。


「どうかしたか?リリー」

「なっ!?」


今度は顔を真っ赤に染める。


「なんかトマトみたいだぞ?いや、赤ピーマンか?スイカとか・・・もう、赤いものが思いつかんから

やめ「わ、わたくしはリリーシャ・アルガリア!気安くリリーだなんて呼ばないでちょうだい!」

「いや、だって中等部の時からリリーって・・・。」


「聞こえませんでしたの!?あなたのような補修常習犯組、Dクラスの生徒には、気安く話しかけないで

いただきたい、と言っているのですわっ!」

「へいへい・・・悪ぅございましたね・・・。」

「大体、何ですの?その着崩した制服は!カッターシャツのボタンは、開けていいのは第一ボタンまで。

何故、第二ボタンまで開けているのですかっ!」


「じゃ、猪野ちゃん。俺帰るわ・・・。」

「ちょっと、話はまだ途中ですのよッ!」

「あ、また男子寮に案内送っとくから、今度こそサボタージュすんじゃないわよ~~。」

「別にサボったわけじゃねぇし・・・」


リリーの金切り声を無視しつつ、職員室から退散する。


「なんっか最近、よく真っ赤になって突っかかってくるんだよなぁ・・・。」


その時、ヒズミのスマフォが鳴り出す。


「やっべ・・・マナーモードにしてなかった!」


ディスプレイに出ている知らない番号を少しの間凝視する。

廊下を見渡して、誰もいないことを確認すると、通話ボタンを押す。


「もしもし・・・?」

「やっほ~~!びっくりした!?」

「猪野ちゃん・・・、何の用だよ・・・。」

「いや~、言い忘れてたんだけど、あんた今日サボタージュしたじゃん?だから数Ⅰのビリーがさ、

怒っちゃてさぁ~・・・罰掃除しろってさ!」

「はぁあああぁ!?」

「夏休み中に、旧校舎の美術室!掃除するようにってさ!」

「なんでだよっ!猪野ちゃんがミスったから俺は・・・!」

「ごめん、本当にごめん。謝るからっ・・・!!」


急に大人しくなった猪野ちゃんに、大きなため息をつく、ヒズミ。

静かに、スマフォを左手に持ち変える。


「わ~ったよ・・・やればいいんだろ・・・。」

「ヒズミ、あんた・・・!」

「ビリーなら、『旧校舎全部掃除しろっ!』て言われてもおかしくないくらいだし・・・

美術室オンリーならまだラッキーだよな!」

「最初はそう言ってたんだけどね・・・」

「あ?猪野ちゃん、今何て言った?」

「い、いやっ!なんでもないからっ!じゃ、頼んだよっ!」


切れたケータイを見つつ、ヒズミがそっと呟く。


「最後・・・なんだったんだ?」




「うっわ・・・きったねぇ・・・」

『まず、外観からして・・・最悪』


30分後、旧校舎の前に立つ。

陰鬱な雰囲気に、ヒズミは息をのむ。


「ま、まあ、とにかく入ろう・・・。」


扉に手をかけた瞬間・・・壊れた。


「やばい、やばいってこれマジで・・・!出る、この古さならマジで出る!!」



その時だった。

旧校舎の二階、一番奥、美術室の窓から光が溢れている。

真っ白な・・・光。


まるで、心が洗われるような、神々しい光。



光、光、ひかり・・・。


瞳には光以外のものが入ってこない。






「なん・・・だ・・・?」


その光に導かれるようにヒズミは、美術室へ足を急がせた。


心臓が早鐘を打つ、瞬きすら出来ないほど・・・。



足がもつれる。転がるように美術室へ雪崩れこんだ。


「女の子・・・?」


その光の中に、女の子が居た。


深い深い、闇色の髪。長い睫。優しい色合いの、着物を纏った少女。



(十一歳、ぐらいだろうか?)



幼い顔立ちに自然とそんな疑問が浮かぶ。


光が消えて、女の子が――落ちる。



「いっ・・・!!」


慌てて走り、何とかキャッチしたものの、右手首を、有名作家の絵の額にぶつけた。


痛みに顔をしかめると、腕の中の女の子を見つめる。


「ん・・・」



白い女の子の長い瞼が微かに震える。



「可愛い・・・。」



自然と口から、そんな言葉がこぼれた。


女の子は虚ろな瞳で、何度も瞬きをする。ヒズミを見つめる瞳は、緋色。



「お前が・・・ひずみ?」



「えっ・・・」


『なんで、俺の名前知って・・・?』


ゆっくりと大きな瞳が近づいて・・・ヒズミの唇と触れ合った。


「んっ・・・!?」


感じたことのない柔らかさ・・・。



自分の心臓の音が、うるさい。





ぬるりとしたものが・・・開いた唇から入ってくる。



やわらかい、感じたことのない感触に、気が遠くなる。


俺は・・・初めて会った女の子に・・・いきなりキスをされていた・・・。




「・・・っ!!」




無理やり女の子を引っぺがした。



『小学生くらいの女の子にキスされて・・・抵抗しないなんてただの変態じゃねぇかっ!!』



「何してんだっ!最近の小学生はませてるって聞いてたけど・・・

キスなんて簡単にしていいもんじゃないんだよっ!」



「小学生・・・だと!?」


闇色の髪の少女が・・・わなわなと震えだす。




「貴様・・・この僕に向かって・・・」




キッとヒズミを睨みつける。


「僕は・・・神だッ!!」



妙な出会いから一時間後、男子寮の一室にヒズミは涼世里を連れてきていた。



ヒズミが通う私立ピューリッツァー学園は海外からの留学生、

はたまた日本からの留学も多く行っている。


自由な校風であり、男子寮といっても新築ワンルームマンション的な内装であり、

勿論友人等を泊めることにもなんらお咎めはない。


無理やり、顔に笑顔を貼り付け、ヒズミは涼世里に話しかける。


「神…ねぇ…」


ヒズミは頭を抱える

涼世里と名乗った少女は言った

自分こそが神だと


「仮に、君が神だとして…俺になんの用なの?」


ヒズミの言葉に、涼世里は見下すような目で笑った。


「お前は短絡的な思考回路をしているようだ」


「僕は・・・人間の言う、神という存在。世間でこんな話をしたところで、子供の戯言だとしか認知されない。今ここでする利点は何もないな。」


今の言葉で、涼世里の話を信用しそうになった。

幼い女の子がこんな戯言だの、利点だのなんだのって話しをするだろうか。答えは否。

酷く普通の子じゃないって思わせてしまうからだ。

ヒズミは小さくため息をつく。


「涼世里、君が神様だっていう証拠はあるの?」

「僕は、お前のことを昔から知っている。」

「なっ!?」


平然と言い放った涼世里に、床にあぐらをかいていたヒズミは立ち上がった。


「ヒズミ、お前のソレを直したいとは思わないか?」


無表情で、ヒズミに向かって言った。


「直すことが…できるのか…?」

「この年齢で、ソレを抱え込んで生きているのは、さぞや苦しい思いもしたであろう…」

「…」


ヒズミは、涼世里の言葉を噛みしめるように、ひざの上に置いた、両手の拳を強く握った。


「僕ですら、お前のソレの原因は不明だ。ただ、僕への協力を約束するのであれば、

お前のソレを直せるよう心を砕こう」


床を見つめたまま、動かないヒズミに、たたみかけるように、涼世里は声をかけた。


「知っている。貴様が、神という存在を憎んでいることも・・・。」

「えっ・・・」

「僕を信じなくても構わない・・・ただ・・・その体質を・・・直させてくれ・・・。」




「でもなぁ、小学生に守ってもらうのは・・・」



「小学生ではないと言っているッ!!!」




気恥ずかしくなって誤魔化したヒズミに涼世里はキレた。


「貴様はっ・・・!!」


降り続く暴言を無視し、ヒズミは静かにため息をつくと・・・


「お?」


不思議な音が響く

ヒズミが涼世里を見ると、体を震わせ、顔を真っ赤に染め、両手で腹を押さえていた。


「あ…」


ヒズミが小さく呟くと、涼世里は耳まで赤くした。

あの不思議な音、それは涼世里の空腹を知らせるものだった。


「ちょっと待ってな!」


柔らかい漆黒の頭を軽く撫で、キッチンへと向かう。

頭を撫でられた驚きに、涼世里は目を見開いた。



20分後、目の前に広がる物体を、涼世里まじまじと見つめた。


「こ、これは…」


湯気が立ち上る黄色い物体


「オムライスだよ、ケチャップたっぷりかけといた!」


得意気にスプーンを渡す。


「食ってみろ!」


不思議そうに一度匂いをかぐと、恐る恐る一口運ぶ


「・・・!」


引きつった涼世里の顔が緩み、立て続けに一口、二口とスプーンを動かす。


「美味いか?」


ひっきりなしに手を動かしながら、頭を縦に振った。

何十分か経った後、涼世里はスプーンを置いた。


「なかなか美味だった!褒めてやろう!」


勢いよく、立ち上がってふんぞり返る。

顔中にケチャップがついて、ひどく間抜けな姿にしか見えない。


「はいはい…」

「お前は…食べなかったのか?」

「あ、ああ…俺は適当にあまりもん食うから気にすんな…」


涼世里にティッシュを渡し、食器をキッチンに運ぶ。


「え…」


少しだけ涼世里は顔を暗くした


「お前の食い物を…僕が奪ったのか…」

「気にスんな!」


ヒズミは立ち上がると、冷蔵庫を漁りはじめた。


「ほれ、まだあまりもんあるし」


得意げに持ってきたのは…


「ひじき豆…」

「と、白飯だ!」

「…。」


涼世里は正座をすると、ヒズミに向き直った。


「すまなかった…」


両手をそろえ、床に擦りつくほど、頭を下げた。


「い、いいって…!」


ヒズミは慌てて涼世里の脇の下に手を入れ、立たせた。


「買い物行くの忘れただけだって」

「しかし…ッ」

「神様(?)にほめていただけて光栄なのですよッ」


涼世里の頭をポンポンッとなでると器を片づけ始めた…



この世界には、生まれながらにして、神様に選ばれた人間か、そうじゃないかに分けられる。

神様は不公平だ。

それが16年間生きてきた、俺が出した答え。


物心ついたときには施設にいて、両親はすでにいなかった。

本当の苗字も、両親の顔さえも覚えていない。


小さいとき・・・多分四歳くらいのとき、俺の体に異変が起き始めた。

同じ施設の子供に、いじめられたとき・・・その直後にそいつが事故にあった。


交通事故。


舞い上がる砂埃、むせ返るような鉄のにおい。

真っ黒な自動車がそいつを轢き殺した。

結局、その時はドライバーのブレーキのかけ忘れで、起こった事故って片付いたらしい。

それが最初・・・。


その後、立て続けに、俺の悪口を言ったやつが通り魔に殺されたり、

仲良くなった友達が、事故にあった。

犯人はいない事故や、見つからない場合がほとんどで・・・俺は自分を化け物だって思った。

俺のなかには、よくわかんない化け物がいる。

神様ってのは・・・どうして俺を普通の人間に作らなかったんだろう



『ああそうか・・・俺は神様に、人一倍嫌われてるんだ・・・。』




「これが俺の・・・体質・・・。そうだな・・・無意識に人を殺す体質?」

「そうか・・・。」



今までの話を、瞼を閉じて聞いていた涼世里は、静かに目を開けた。


「お前の体には・・・常人とは異なる気配を感じていたが・・・。なるほど・・・。」

「気配?そんなのあるのか?」

「ああ・・・お前の気配は・・・ひどく異質なもの・・・

たまにお前の姿が見えなくなるほどに濁っている・・・まるで・・・」


ヒズミを見つめていた涼世里は・・・急にひどく顔を強張らせた。


「な、んだよ・・・」

「すまん、その・・・」


静かに立ち上がった涼世里。


「また・・・腹が減った・・・。」

「は!?」

「甘いものが食べたい!!」

「おいおい・・・ったく・・・心配して損した・・・。」


ヒズミは頭を掻き毟った。


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