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造られた妬心  作者: 機月
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002

 ヒヨリは手元で転がす湯飲みをじっと見ながら、睨む奏羽を無視して尋ねた。


「〈風穴〉はもう押さえてるのか? ああ、もういつ起動してもおかしくないのか」

「早ければ早いほど、こちらとしても助かります」


 シロエは相変らず笑顔を貼り付けていたが、いつの間にか肩や目からは力が抜けていた。


「だから! 当人を差し置いて話を進めるん、やめて?」


 顔を真っ赤にした奏羽が、ばん、と机に手を突いて身を乗り出した。

 シロエが不思議そうに動きを止めたのは一瞬だけ。ヒヨリは面倒臭いとはっきり口に出しながら、広げた契約書にざっと目を通す。


「……あれ? うち、何か変なこと言った?」

「何言ってんだ、全部おまえの為じゃないか。良いから受けとけ、全然危なくなんか無いから」

「はい、それはもちろん。今ならまだ確実です。余分な戦力を割く訳にはいきませんから」


 自信無さそうに頷き掛けた奏羽が、何でもないように続いたシロエの言葉に動きを止めた。

 腰を浮かせた奏羽を放ったまま、二人は算盤を弾いて契約書に数字と署名を書き込む。

 そのまま握手をして分かれそうな雰囲気を、奏羽が今度は机をばしばしと叩いて破壊した。


「だから! 訳も聞かずに放り出されたら、出来ることも出来ないやん?! 最初に納得出来る説明するのが、筋ってもんやないの?」


 奏羽は荒らげた息を抑えもせず、二人をにらみつける。


「親切の通じない奴だな。知らない方が幸せって、いくらでもあるだろうに…… なあ、説明任せても良いか?」


 やってられんと首を振るヒヨリに、シロエは任されましたと首を縦に振る。


「単刀直入に言いますと、限定解放された〈喜びの園〉に出向いていただき、そこで〈真夏の夜〉から〈仮面〉を譲り受けていただきます」

「……それは大規模戦闘(レイド)向けの遺跡に行って、正体もようしらん〈精霊〉を退治してこいってこと? それともまさか〈契約〉してこいとかいうてる?」

「全然違う。そんな堅苦しく考えんなって。モンスターなんていないし、単に面通しするってだけ。気が向いたらお茶でも誘えば良いってくらいに考えとけ」


 声音と調子を数段下げた奏羽は、茶化すようなヒヨリを一瞥してから、はっきりとシロエをにらむ。


「接触していただくだけで構いません。仮面は〈喜びの園〉から持ち出せませんし、受け取るのが一番自然な選択と言うだけです。クエストを受けるのも〈大地人〉の不安を解消するためだけ、別にクリアする必要もありません」


 ヒヨリが勝ち誇ったように見上げるが、奏羽は気付いた様子がない。


「……クリアせんで、ええの?」

「とにかく時期が悪いんです。だからといって放置をしては〈大地人〉に不安が残ります。〈夜の精霊の眷属〉という物騒な二つ名と、何より夜闇に派手な仮面を付けたローブが潜むとかいう言い伝えが残っていまして」

「それは……」


 言葉少なに腰を下ろした奏羽は、記憶を探るように目を眇め始めた。


「俺が思い付くのは、〈砂の魔神〉とか〈踊りの天女〉くらいだな」

「変わったところで〈白面の殺人鬼〉という解釈も出来ますね。系統的には、〈蝶の羽の妖精王〉とか〈悪戯好きの羽妖精〉って可能性が高いでしょうか」

「なあ。その〈喜びの園〉って、ヤマトのどの辺にあるん?」


 ふと顔を上げた奏羽が、何気なく尋ねた。

 シロエは小さな間を置きつつも、どこも表情を変えない。


「どこにあるか、正確な位置は特定していません。でも入り口はそんなに遠くありませんよ」


 奏羽はふーん、と気のない呟きをこぼして沈黙する。しばらくしてから突然我に返って目を瞬かせた。


「わかった。なら案内したって?」


 あっさり席を立った奏羽にシロエが続くと、ヒヨリは湯呑みを振るだけで二人を見送った。


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