理想死の準備への道のり 消失ショート 5
姉に「何書いても、お前は何も変わらねえな」と罵られたので私は変えたつもりです。あと、この話は喫煙が人体に与える影響について多分に多聞に書いたつもりです。
自分が若い頃よく人を驚かせて楽しんでいたので、もう大抵のことでは驚いたりしないだろうと思っていた。おまけに自身今となって、自分のことを儂などど偉そうに言う年齢である。世間でいえばジジイと罵られる年齢である。何を言っても老婆心などと解釈される年齢である。役立たずとして老人ホームに押し込まれるような年齢である。死んだも同然の年齢である。
もう、どんなことがあっても驚くことも無い。そして驚きのない人生ほど辛いものは無い。と考えていた。だから今度のことは結果的に自分にとってはいいことだったのだと、今はそう思っている。
生前[まだそうだが]儂の楽しみといえば、失踪することであった。ボケてもいないのに突然家から居なくなるのだ。当然家人はとても心配する。心臓が潰れたような顔をする。儂はそれが楽しくてよく失踪していた。でも大抵は二三日したら家に帰る。その間はネットカフェとかに宿泊する。そこで、ガラスの仮面とかからくりサーカスとか沈黙の戦艦とかを読んだりする。それはそれはとても有意義な時間だった。
しかしそんなことが祟ったのか、ついにある時に気がつくと儂は見知らぬ山の小屋の中にいた。この状況の確認のためタバコを一本吸って考えたところ、どうやらこれは流行りの姥捨てのようだと儂はそうおぼろげに理解した。夏じゃなきゃポックリ逝っていたかもしれない。真っ暗な夜の山中であった。
殺すこともできないのに半端なことをするものだ。人の良さそうな顔をした息子夫婦のことを考えながら、タバコの二本目に火を付けた。
しかし、タバコによってクリアになっていく頭で考えるとそうそう悲観的な状況でもなさそうだと思った。何より自然に触れるのは儂自身久しぶりのことであるのだし、ここは一つ深呼吸でもして今後のことを考えてみようとまで考えたのだから。
深呼吸とタバコを交互に繰り返してみると、タバコの旨さが際立ってくる。
次に自分がどういった行動をとるのがいいのか?それは結構な難問である。
しかし、まずはここがどこなのかを確認するのがいいことのようにに思えた。どこにいても何県で何市で何山なのかくらいは把握しておきたいと思うのは、人の心として当然だろう。
そして次に飲み水のことも考えた。人の良さそうな顔をした息子夫婦は握り飯や、ペットボトルのお茶一本すらも用意してくれてはいなかった。これは遺憾なことであると思う。普通はそれくらいあるだろうと思うからだ。
そんなことを考えつつタバコの残りを気にしつつ、三本目のタバコに火をつけるときに目の前に細い山道がある事に気がついた。儂も少なからず動揺していたのだろう。気づくのに随分と時間がかかったものである。
人の良さそうな顔をした息子夫婦にとって儂は既にボケていたのだろう。じゃなければ、こんな適当な場所に捨てていくとは思えなかったし、普段失踪するのがよっぽど迷惑だったのだろう。でもそんなことを考えているうちに、なんだかだんだん楽しくなってきた。
そしてひとまず山を降りて、コンビニを探そうと儂は冷静に思った。そうすれば、ここがどこだかもわかるし、ペットボトルのお茶も買える。まさに一石二鳥である。
儂はその時には既に家に帰ることを考えていた。
恨みをぶつける為では無い。もちろん感謝を告げるためでもない。老人の生命力を誇示するためでもない。自身を誇示するためでもない。
なんのことはない。ただ、びっくりするだろうな。そう思うからである。それはもうびっくりするだろう。人の良さそうな顔をした息子夫婦は見た瞬間ショックで死んでしまうかもしれない。それが楽しみであるからである。
戦争時代の体験を思い出しながら、儂はひとまず暗い山道を下ることにした。
「消失」で検索するとハルヒが沢山出てきて困った。