貴女という……
肺や心臓が健康不健康に関わらず動く事を生きていると呼んで言いのかなど思考する価値もなくノーであるわけではある。
どこかのだれかさんのように繭にでもなってみようか。
――、さりとて、僕は未来に羽ばたく虹色の蝶などではなく。
全くだ。
――、僕という俺の本質は、どこからどこまで腐食しているのか。
全てだ。
――、俺という僕の本質は、どこからどこまでも輝いていたはず。
全くだ。いつから、どこから、何故錆びたなどと問う無かれ。答えはいつだって自分の過去にあり、問題はいつだって自分の過去にある。俺が答えだ。カンニングはいけないな。僕という俺。
――、生憎と、この事項は試験等という生易しいものじゃない。そもそも答えなどあってないもの。過去を切り捨て、現在を削り取り、未来を想像し、破綻する。そうして生きてきた。切り捨てたモノは既に灰となって消えた。従って僕という俺、俺という僕に問題も答えもない。あるものは未来というモノだけである。ほら、後ろを見るがいい。足跡など一つとして残らず、常に変化する俺/僕は他人から影響を受けているようで事実はその逆。影響を与え周囲を混乱させ破滅させていく。身に覚えが無いわけではあるまい。
その通り。俺という小石一つで繋がる人達が写る水面は揺れ、繋がりは揺れて、千切れて、消える。いるだけで周りを悪に引っ張っていく僕/俺だ。さっさと終わらせるが賢明か。
――、そんなことをしたとして、それでも俺と共に壊れた者が救われるはずが無い。
しかれど、こう生きていたとしてその罪が滅ぶわけではないことはわかっているだろう、僕。ならなおさらのこと。消えてみようか。
――、いいかげんに目を覚ませよ。この愚図が。このゴミ。この無知の救えぬ餓鬼。お前程度の人間が他人に影響を、最悪を与えたなどと本気で思っているのか。とんだお笑い種。お前がそんなくだらない事をくだらないまでに考えているから……くだらない! くだらない! くだらない! 実に! くだらない!! 死んで終わり? 本当にくだらない! そんなものは最低! 人間にはたしかにこれ以上生きていてもしょうがない時はあるかもしれない。だが! それを決めるのはお前じゃない!! 足掻いて、もがいて、身を極炎に焼かれながらも!! それでも……それでも前だけを見据えて走った人間が最後の最後、本当の最後にはじめてその傷だらけの身を横たえることができる!! それが生きていてもしょうがない時!! 生まれてきた意味を、生きてきた意味を、皆から祝福された時!! お前のその愚考はお前の保身しか考えていない!! 足掻くのは、もがくのは、炎に身を焼かれるのがどうしようもなく辛いから!! 痛いから!! 嫌だから!! 足掻け!! もがけ!! 苦しめ!! 突き刺さる悪意や身を焼く炎に!! 生きてみろ!! それが、罪を滅ぼすということ。 死んで、どうする。少なくとも、お前が切り捨てた過去ではお前を必要として救われていた筈だ。 一度だけかもしれない、私の思い過ごしかもしれない。それでも、それでも、そうだとしても……あの時あの一瞬は、綺麗な本物、美しい真実だった。
だけど……辛いんだ。君がいない。それが、ただ辛い。あの時、あの一瞬、綺麗な本当、美しい真実が、辛い。
――、背負って、走って。そのための足でしょ? その姿が、美しいから、私は君を愛した。そして、また君の前にこうして在る。
そのための片方の足が……無い。君が……無い。
――、片方の足で、走る。
転んだら立ち上がれないかもしれない。
――、這ってでも、進む。
這うための腕が、動かないときが来るかもしれない。
それが、俺/あなたの、ゴール。
ゆっくりと目を開く。
軋む体は白い機器と繋がっている。
さて……どういう経緯で俺がこうなってしまったのかは思い出せないが、ただ、どうなってこうなったのかなど関係なく俺はしばらく全力で走らねばなるまい。
その道はきっと死ぬほど苦しい。
足掻くのは、惨めで辛い。
もがくのは、惨めで辛い。
それでも、走らぬわけにはいかぬ。
それゆえ、逃げるわけにはいかぬ。
走り終えた先の景色を見るために、
抱きしめた夢にキスをするために、
走ろう。
惨めだって構わない。
辛くたって構わない。
痛くたって構わない。
あの時、あの場所の言葉を切り捨てようとも、それが真実であることに変わりはないから。
生きていこう。
貴女が、好きです。
馬鹿みたいに、叫び続けるから。
喉が枯れても、
言葉を忘れても、
貴女が、好きです。