第99話
「フィーナ、領主様を後ろに下げろ。ノエルは動くな!!」
ノエルの魔法に同調した光は大きくなり、ジークは直ぐに指示を出す。
「わ、わかったわ。領主様、こっち」
「で、ですが」
フィーナはアズに何かあっては困るため、彼女の腕を引っ張って行く。
「ジ、ジークさん、すいません」
「謝るのは後、俺の背中に隠れてろ。そんなヒマはないんだ」
ノエルはジークに頭を下げるが、ジークは真剣な表情をすると、腰に付けてあるホルダーから魔導銃を抜き、照準を合わせる。
「な、何が起きるんですか?」
「良いから、後ろに下がっててください。守りきれなくなりますから」
アズは大きくなる光りにどんな対応をして良いのかわからないようで彼女の顔には不安の色が現れる。フィーナはアズの前に立ち、剣を構えた。
「フィーナ、撃ち漏れた物は任せるぞ」
「わかってるわよ」
ジークとフィーナはこの後に起きる事に身に覚えがあるようであり、慌てないようにするためか、お互いの行動を確認すると大きく息を吸う。
その瞬間、光の1つが弾け飛び、光の矢が4人に向かって放たれた。ジークはその時を待っていたかのように魔導銃の引鉄を引き、銃口から放たれた光は光の矢を相殺し、激しく光をあげた。
それを皮切りに浮かびあがっていた光は次々に弾け飛び、数十本の光の矢が4人に向かって放たれる。
「ジ、ジークさん!? いくらなんでも、これは防ぎきれませんよ」
「良いから、黙っててくれ。片方しかないから、エネルギーを考えて討たないといけないんだから、後はこうやって」
「は、弾けるんですか?」
「まぁ、でも、間違ってもノエルは杖で弾こうとするなよ。確実に喰らうから」
魔導銃は連射は難しいようであり、ジークは自分とノエルに向かってきた光の矢を魔導銃の銃身で弾き飛ばして行く。ノエルは彼の行動を見て、自分にもできると思ったようで前に出ようとするが、ジークは彼女の行動を止める。
「で、でも」
「でもじゃなくてな。それに的が増えると守るのが大変なんだよ」
「そう言う事」
ジークは自分とノエルに向けられる光の矢は魔導銃の銃身で弾き返すだけではなく、魔導銃にエネルギーが溜まると器用に後方に抜けて行きそうな光の矢を狙い撃つ。それでもいくつかフィーナとアズに向かうものもあるが、フィーナは粗雑な彼女の性格にはそぐわないほどのコンパクトな動きで光の矢を弾く。
「普段もこれくらい動けば良いんだよな」
「ジーク、それってどう言う事?」
「いや、普通はこんな直線的なものより、相手がいる場合こそ、冷静に動かないといけないんだけどな」
ノエルとアズが思っている以上にジークとフィーナは余裕があるようで言い合いを始め出す。
「よ、余裕そうですね」
「いや、そう言うわけでもないんだけどな。まぁ、この罠はなれてるからな」
「なれてるって言っても、ジークさんもフィーナさんも魔法を使えませんよね」
ノエルは相変わらずの2人の様子に顔を引きつらせる。ジークはそんな彼女の言葉に振り返る事なく返事をした。だが、その言葉にノエルは1つの疑問を持つ。
「まぁ、その事はそのうちな。機会があれば話をする……あまり、話したくもない人間ですでに挫折したくなっているけどな」
「そうね」
ノエルの疑問にジークとフィーナには何かあるのか、2人のテンションは1段階引き下げられた。
「わ、わたし、何かおかしな事を言いましたか?」
「……まぁ、色々と思いだしたくもない過去ってものがあるんだ」
ジークは最後の光の矢を撃ち抜くと魔導銃を腰のホルダーに戻し、大きく肩を落とす。
「終わったんですか?」
「そうみたいですね」
アズは光の矢が撃ち止めになった事を確認するかのようにフィーナの背中から顔を覗かせる。フィーナは前方に視線を移し、光がない事を確認すると剣を鞘に戻す。
「とりあえずは、単純に魔法発動系の罠は潰れたって事で良いか?」
「でしょうね。だけど、元々、私達だと引っかかる必要のなかった罠なのよね」
「す、すいませんでした。わたし、知らなくて」
ノエルは自分のうかつな行動で罠を発動させてしまった事を謝るが、2人はあまり気にした様子もない。
「ジーク、フィーナ、あれが私の出した使者を全滅に追い込んだ罠ですか? あの程度の罠で全滅なんて」
「いや、あれは地味にきついんですよ。直接的なダメージはあまりないんですけど、毒やら、混乱やら麻痺とか性格の悪い仕掛けが施されてます。むしろ、20人もいたからたどり着けない所ってのもありますからね」
アズは自分の私兵団の不甲斐無さに眉間にしわを寄せる。ジークは光の矢の仕掛けの性質の悪さに眉間にしわを寄せた。
「ジーク、ほら、休んでいるヒマはないわよ。さっさと、罠の解除に動きなさいよ」
「あぁ。わかってるよ。ノエルも後ろに下がっててくれ。何が起きるかわからないからさ」
「は、はい」
ジークはノエルに下がるように言うと、再び、罠解除に取りかかって行く。
「……ジークは嫌がるかも知れませんが、それだけではないと思います。私兵団へのスカウトをしたい気もしますね。きっと、嫌がるでしょうけど」
アズの評価ではジークはかなりのもののようで、彼を自分の手ゴマにしたいと思ったようだが、彼の出す答えは決まっている事は誰の目から見ても明らかである。アズはそんな彼に好感を持っているようで残念そうな表情で笑った。
「領主様、どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません。あの、今更ですが、その領主様と言うのは止めていただけますか?」
「それって不味くないんですか?」
「気にしないでください。それにあまり、この状況で特別扱いは居心地が良くありませんし、それにルックルでも多くの方に名前で呼んでいただいてますから」
アズは3人に領主と呼ばれる事はあまり慣れていないようであり、名前で呼ぶようにと笑い、罠を解除しているジークを抜かしたノエルとフィーナは戸惑いながらも頷く。