第953話
「しかし、アンリ様と一緒に遊べる者は他にいないのか? 決まった人間としか関わらないのは外に興味を持たせるためにも好ましくないのだが……」
「……俺に聞かないでください。王城の中に入ってこられる人間を探すのはエルト王子やライオ王子の仕事でしょう」
「そうですね」
ヴィータはアンリの治療のためにももっと多くの人間とアンリを関わり合わせたいと考えているようである。
ジークは自分には何とも言えないとため息を吐き、ミレットも同感だと頷く。
「ジークの言いたい事もわかるんだけどさ。アンリと同年代の娘を持つ者も臣下にはいるんだけど、家の都合を押し付けない娘って言うのはなかなか貴重でね。アンリと懇意にする事で高い地位を得られるのではと考えるような娘や家の物だとアンリのためにはならないだろう?」
「それは確かにそうだな。カルディナ様はおっさんがどうなろうと知った事じゃないと思っているからな」
「……ジークの言いたい事もわかるけど、もう少し言葉を選んだらどうかな。それだけを考えれば、フィーナさんも適任だよね。カインがどうなろうと知らないって言うだろうし、ノエルさんはそう言う計算は最初から頭にないだろうしね」
エルトもヴィータに言われていろいろと考えているようではあるけど、あまり、条件が良い人間は無いようでため息を吐いた。
ジークはアンリの遊び相手にカルディナが選ばれたのかオズフィム家が騎士の名門と言う事よりも彼女自身で選ばれてと思ったようで苦笑いを浮かべる。
彼の言葉にライオは小さくため息を吐いた後、アンリの話し相手にするのにノエルとフィーナは最適だと言う。
「王族相手でも態度を変えるような事はしないだろうな。バカだから」
「……ジークも態度を変えるような事はしていないけど、その理屈だとジークもバカになるよ」
「フィーナと一緒にしないでくれ。俺はエルト王子とライオ王子に気を使うだけ無駄だと諦めただけだ。実際、シュミット様やリュミナ様、アンリ様には敬意を持って接している」
ジーク自身はフィーナをアンリに会わせるのは彼女のためにならないのではと考えているようでフィーナを小バカにする。
しかし、普段のジークの自分達に向ける態度はフィーナと変わらないため、エルトは大きく肩を落とすとジークは即座に一緒にされる事は不満だと主張するのだけれど、その言葉はエルトとライオを尊敬する価値はないと言っており、ミレットはかなりの暴言を吐いている従弟の姿に眉間に深いしわを寄せた。
「ジークはもう少し、私達の事を敬って欲しいね」
「うむ。ジークくんの言いたい事もわからないではないがな。ジークくん達に甘えたくなるのもわかるがもう少し、王族としての威厳も持った方が良いな。あまり、軽い感じで動いていると臣下の者からもバカにされる。脳筋王子と言う噂はワームにまで聞こえていたからな」
「……気を付けるよ」
エルトはジークの言葉に大きなため息を吐くのだけどヴィータまでもがジークの意見に賛成してしまう。
ヴィータの言葉にはエルトも思うところもあるようで力なく笑いながら頷いた。
「と言うか、セスさんだとダメなのか?」
「……申し訳ありません。セス=コーラッドさんはちょっと」
「……アンリ様から拒否が出たぞ」
ジークは少しバツが悪くなったようで自分の周りでアンリに会わせやすそうな人間を考えてセスの名前を出す。
セスの名前になぜかアンリが視線をそらしてしまい、彼女の様子にジークは驚きを隠せないようである。
「あ、あの。セスさんはいろいろと厳しいと言う事なのでお勉強とかそちらの話になりそうなんで」
「……それは確かにあるかもな」
「ジークも良く言われていますからね」
セスが真面目である事はアンリの耳にも届いているようで、せっかく、カルディナと遊べる時に勉学の事を言われたくないと気まずそうに白状する。
ジークも薬学の勉強でセスに口うるさく言われた経験もあるためか、余計な事を言ったと思ったようで視線をそらす。
ミレットは2人の様子に仕方ないと言いたいのか苦笑いを浮かべるとジークとアンリは顔を見合わせた後に気まずそうに笑う。
「確かにセスはあまり話し相手にはむかないだろうね。領地運営とか収支計算とか、税の収集に付いてとかアンリも聞きたくないだろうし」
「……はい。そう言うのはしたくないです」
「ジーク、ミレット」
ライオはもしセスがアンリの話し相手に来た時に何を話すか予想が付くようで小さくため息を吐いた。
アンリは勉強をしたくないと大きく首を横に振るとエルトは何かを思いついたのかジークとミレットを呼ぶ。
「今更だけど、カインとセスって、普段は何を話しているんだい? セスだとどうしても堅い話にしかならない気しかしないんだけど」
「……俺達に聞くなよ。2人っきりの時なんか知らない」
「私達の前ではカインが怒られているだけですからね。そして、セスさんが反撃を受けてオロオロしていると言った感じでしょうか?」
エルトはカインとセスの普段の様子が気になるようであり、一緒に暮らしているジークとミレットに話を聞く。
ジークは大きく肩を落とすとミレットは苦笑いを浮かべて普段の2人の様子を話す。
「まあ、セス=コーラッドはいじめられる事に性的興奮を得る変態だからな」
「……ヴィータ、言葉を選んでくれないかな?」
「うむ。確かにそうだ。アンリ様やカルディナ様が居るところで話す事ではなかったな」
ヴィータはあの2人はあれで良いと考えているようでセスの事は変態だと言い切ってしまう。
エルトはアンリやカルディナの教育に良くないと思っているようで大きく肩を落とすとヴィータは不適切だと謝るのだがアンリは恋愛話に興味があるのかそわそわとしている。
「あ、あの。お付き合いしている方達のお話は少し興味が……」
「アンリ様も女の子ですね。でも、そう言うのはまずは身近な方に聞いてみるのが良いのではないでしょうか?」
「い、いや、流石に妹にそういう事を話すのは違うと思うんだ」
アンリは小さな声で恋愛話を聞きたいと手を上げるとミレットはくすくすと笑った後、最初に話を始めたエルトに話を振る。
話しを振られたエルトは自分の話しを語るのには抵抗があるようで後ずさりするのだけれど、ライオがエルトの退路を塞いでしまう。