第950話
「……面倒な事にならなければ良いけど」
「文句があるんですか?」
「そう言うわけではないけど」
アンリと約束していた日になり、フォルムに顔を出したカルディナの転移魔法でジーク、ミレット、クーは王都に移動する。
カルディナの転移魔法は王都でも何カ所かに移動できるだが、王城に1番近いのは魔術学園であった。
無事に魔術学園に到着した物の、魔術学園にはカルディナの事を狙っているヴァリウス=マグナがいる可能性が高い。
ジークは厄介事には関わり合いたくないため、他の場所から移動しようと提案したのだがヴァリウスの事を考えるとオズフィム家を訪れている可能性も高い、王都を歩いている時にも遭遇する可能性だってある。
そのため、移動距離が短い場所を選んだのだがカルディナはジークの様子に文句があるのかと彼を睨みつけるとジークはカルディナを怒らせては面倒なためか頭をかいた後、頭の上に乗っていたクーを手に取って彼女に渡す。
お気に入りの場所から、あまり好きではないカルディナに腕に移動させられた事でクーは不満げだがカルディナの顔は笑顔になり、彼女の様子にジークとミレットは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、行くか? ここに居ると面倒な事に巻き込まれそうだから」
「そうですね。カルディナ、行きましょう」
「わかりました」
魔術学園は面倒事に巻き込まれる印象しかないためか、ジークはできれば早めに移動したいようである。
特に反対する理由もない事やアンリが待っている可能性があるため、ミレットは頷くとカルディナに声をかけた。
クーを抱っこできているためかカルディナはご機嫌であり、素直に頷くと3人と1匹は王城に向かって歩き出そうとするのだが、3人の視線先にはローブを身に包んだ男性が立っているのが見える。
その男性は最も会いたくなかったヴァリウスであり、枯れを見た瞬間にジークは厄介な事になったと言いたげに眉間にしわを寄せるのだがクーに夢中なカルディナの視線に彼が映る事はなく、何事もないように彼女は彼の横をすり抜けて行く。
「……あれだな。なんか、哀れだな」
「言わないで上げた方が良いんじゃないですかね?」
「待て」
自分がカルディナの視界にも入らないと言う事実を認める事ができないのかヴァリウスの眉間には深いしわが寄る。
その様子にジークの眉間のしわは深くなるのだがカルディナを1人で歩かせるわけにはいかないため、2人はヴァリウスの横をすり抜けようとするのだが当然、ヴァリウスはそれを塞ごうと止めやすそうなミレットの前に立ちふさがった。
彼女は一瞬、驚いたような表情をするものの、彼女の足が止まる事はない。
それはヴァリウスが動いたと同時に新たな動きをしているジークを信頼しての事である。
ジークはヴァリウスの行動を見ると同時に、腰のホルダから冷気の魔導銃を引き抜き、彼の足元を狙って引鉄を引いていた。
冷気の魔導銃から放たれた青い光はヴァリウスの足を撃ち抜き、彼の足を凍てつかせて行く。
冷気の魔導銃の効果でヴァリウスの動きを止める事ができたため、ミレットは彼と接触する事無く、彼の隣をすり抜けて行き、ジークはミレットの逆側からすり抜けようとするのだがある違和感に気づく。
それはジークがいつも無駄に発動させる危機感知能力であり、彼はそれがどこから来ているか気が付いたようで舌打ちをするとヴァリウスから距離を取り、視線を彼に向ける。
ヴァリウスの身体は冷気の魔導銃に撃ち抜かれたにも関わらず、凍らせているのは足元だけである。
いつも冷気の魔導銃で撃ち抜かれているフィーナとラースとは明らかに凍り付くのが遅い。
その時、ジークの視線がヴァリウスと重なった。
彼はジークを見下しているようで鼻で笑うと両手を胸の前に移動させる。
その両手の間には小さな炎が出来上がり、ヴァリウスはジークを攻撃対象と決めたようで至近距離で炎をジークに向かい放った。
「ジーク!?」
「ちょ」
「……目障りな平民が」
その様子に気が付いたミレットは驚きの声を上げるが炎は無情にもジークを襲う。
ジークは向かってくる炎に慌てて冷気の魔導銃を放とうとするがヴァリウスはすでにジークを倒したと思ったようである。
炎の魔法を使った事もあり、彼の足を凍てつかせていた氷も解けたためかジークの方を見る事はなく、先を進むカルディナへと視線を向けた。
「……アーカスさんに感謝しないと」
「良かった」
「燃え尽きてしまえば良かったものの」
しかし、炎の魔法は先日、アーカスが改良した魔導銃の効果でジークの身体を焼き尽くす事はない。
ジークの無事を確認したミレットはほっと胸をなで下ろすが自分の炎を払われた事に気が付いたのかヴァリウスは舌打ちをする。
「いきなり、危ないだろ」
「……先に仕掛けてきたのは貴様だろう」
「いや、そうかも知れないけど、知り合いでもない人間の通路を塞ごうとしたんだ。こっちだって事故が起きないようにするだろ。だいたい、こっちはケガするような事はしてないぞ。あんたは下手したら死ぬような魔法を使ってきたわけだろ」
ジークはまた炎の魔法を放たれては面倒なため、魔導銃を構えながらヴァリウスを睨み付けるがヴァリウスは自分には非がないと言い切った。
自分が仕掛けた事には自覚があるため、ジークは反論しにくいようだがおかしな行動をとってきたのはヴァリウスのため、自分は悪くないと居直る。
「貴様のようなゴミが消えようが何も不都合はないだろう?」
「……あれだな。今、カインがどうしてああいう行動に移ったかわかった」
「そうですね。ジーク、沈めても良いですよ。問題になりそうでもエルト様とライオ様がどうにかしてくれるでしょうし」
彼の言葉を鼻で笑ったヴァリウスの姿にジークは頭に来たようで眉間にしわを寄せた。
あまりの横柄な態度にさすがのミレットも呆れているようであり、小さくため息を吐くとジークにヴァリウスへの攻撃許可を出す。
ミレットがそのような事を言った事にジークは少しだけ戸惑ったようで首筋を指でかくと魔導銃を腰のホルダに戻した。
彼自身もヴァリウスの行動は頭にきており、地面を蹴ると一気に彼との距離を縮める。
その動きに魔導士のヴァリウスは反応しきれなかったようであり、ジークの右拳はヴァリウスのみぞおちにねじ込まれ、落ちて来たあごを狙って左拳を振り下ろした。
ヴァリウスはジークの攻撃を防ぐ事などできず、膝から崩れ落ちてしまい、ジークとミレットは何事もなかったかのようにカルディナの後を追いかける。