第95話
「それではジーク、ノエル、アーカスさんのところまで案内をお願いします」
「……休憩時間をください」
「はい……」
ジークとノエルが解毒薬の調合を終えるとすでに馬車が用意されており、アズはアーカスの元に案内するように言う。しかし、休憩はしていても2日間の調合を終えたばかりの2人はボロボロである。
「ジークは良いとして、ノエルはきついよね」
「……俺は良いってどう言う事だ?」
フィーナはノエルの様子に苦笑いを浮かべるが、粗雑な扱いをされたジークは不機嫌そうな表情で彼女を睨みつけた。
「休むなら、馬車で休みなさい。休んでいないのはあなた達だけではありません」
「まぁ、確かにそうか」
ジークはアズの様子に彼女が空回りしているような気がしたようで、よく空回りをしているノエルとアズを交互に見て苦笑いを浮かべる。
「どうしました?」
「いや、ちょっとな」
ノエルはジークの視線に首を傾げるとジークは笑って誤魔化す。
「領主様、寝かせろとは言いませんから、宿で風呂くらいは入らせてください。後、飯と」
「えっ!? あ、あの。フィーナさん、わたし、汗臭いですか?」
「……ジーク、あんた、相変わらず、デリカシーにかけるわね」
ジークは強硬策はノエルにはきついと思ったようで、彼女に気を使わせないようにアズに提案をする。ノエルは彼の言葉に自分が汗臭いのかと心配になったのかフィーナに聞き、フィーナはジークを責める。
「……何で、こうなるんだ?」
「まぁ、仕方ないだろ。アズ様、急ぐのはわかるが、ジーク達の言い分も聞いてやってくれないか? この3人はルッケルの民でもないんだ。あくまで、手伝いをしてくれているんだからな」
ジークは責められる理由がわからないため、眉間にしわを寄せる。そんな彼の様子にリックは苦笑いを浮かべるとアズにジークとノエルに小休憩を与えて欲しいと言う。
「ですが……」
「ジーク、どうしてかな? 領主様より、リックさんの方が優位に見えるのよね」
「別に良いだろ。取りあえず、リックさんがこっちの味方って事で」
リックの言葉でジーク達が善意での手伝いをしてくれている事を思い出したようで目を伏せるアズ。フィーナは2人の姿に何か感じたようでジークの服を引っ張るが彼はアズが折れるのを待っているようである。
「ジークさん、わたし、汗臭いんですか?」
「……いや、休憩を貰えるようにするための交渉だから」
リックとアズの間に微妙な緊張感が漂っているなか、ノエルは自分の体臭が気になるようで空気を読む事なく、ジークは彼女の様子に肩を落とす。
「ほ、本当ですか? よ、良かったです」
「それに汗臭いとしたら、俺の方だろ。俺は材料集めに行ってから調合室に閉じこもってたんだから、ノエルは領主様に風呂を借りただろ」
「は、はい。そうでした」
ジークはノエルが心配するような事はないと言うと、自分の身体の臭いに顔をしかめた。
「確かに、ジーク、あんた、汗臭いわ」
「悪かったな。領主様、すいませんけど、このままで馬車に乗ると同行者に迷惑をかけるので」
フィーナは鼻を塞ぎ、ジークから離れるとジークはため息を吐き、アズに声をかける。
「わかりました。その代わり、なるべく、早くお願いします。ジークやリック先生の言う通り、アーカスさんにはジークしか会えないようですから」
「……領主様、ひょっとして、アーカスさんのところに使者を出しました?」
ジークの言葉にしぶしぶ頷くアズ。ジークはそんな彼女の言葉に何か感じたようで恐る恐る聞き返した。
「はい……」
「……ちなみに何人使者に出して、何人、撃退されました?」
「……20人です」
アズの出した使者はアーカスの家の周辺にある罠で全滅したようであり、その事実にジーク、ノエル、フィーナの3人は顔を引きつらせる。
「……ジークの言った通り、以前より、ハイレベルになっているようだな」
「俺達、人族より、遥に長い時間を生きるハーフエルフだから、かけられる時間も違いますからね。無駄なところで凝り性だからな」
「エルフの血を引くんだ。もう少し、のんびりと生きてくれれば良いんだけどな」
ジークとリックはアーカスの人間性に不安を感じているようで眉間にしわを寄せた。
「まぁ、取りあえずは風呂と飯を済ませてきます。村に帰るわけだし、宿にある荷物もついでも持って帰りますけど、良いですよね?」
「はい。かまいません。準備ができたら、ここに戻ってきてください」
「わかりました。ノエル、行くぞ」
ジークはアズと簡単に出発までの打ち合わせをするとノエルに声をかける。
「は、はい。あ、あの。フィーナさんは?」
「フィーナは俺達より、休憩を取ってたんだ。後1時間くらいは手伝っても問題ないだろ」
ノエルはジークがフィーナに声をかけない事に首を傾げる。ジークはフィーナとは別行動で手伝いをしているため、休憩の必要はないと首を横に振るとジルの店に向かって歩き出す。
「で、でも」
「良いわよ。ノエルも急いで。男の方が準備が速いしね。特にジークはせっかちだし」
フィーナはジークの言った事も理解出来るため、ノエルに気にしなくて良いと声をかける。
「わ、わかりました」
「フィーナ、リックさんや領主様に迷惑をかけるなよ。良いか、言われた事以外はするな。余計な事をすると迷惑をかける事になるからな」
ジークはノエルが自分の隣に並ぶと何かを思い出したかのように振り返り、フィーナに向かって余計な事を言う。
「ジーク!!」
「ノエル、行くぞ。時間がないからな」
「は、はい!? って、どうして、ジークさんは余計な事を言うんですか!?」
フィーナジークの言葉に額に青筋を浮かべて、彼の名前を呼ぶ。しかし、ジークは特に慌てる事なく、歩いており、彼とは対照的に関係ないはずのノエルが慌てる。
「フィーナ、遊んでいるヒマはないんだ。こっちを手伝え、ジークの調合した治療薬を他の医師の元に運べ」
「ちょ、ちょっと、リックさん、私はあのバカを懲らしめないといけないの!! 放して!!」
「良いから、働け」
フィーナはジークを追いかけようとするが、リックに首根っこを捕まれ、彼を追いかける事は出来ない。