第948話
「……納得いかないわね」
「別に良いだろ」
「まったくです。だいたい、無理やり、私達を巻き込んだあなたに言われると頭にきますわ」
ジーク達はアーカスとフィリムの手伝いを何とか終わらせた。
その頃には日が暮れており、アーカスとフィリムが魔導機器に光を灯すと魔導機器や薄暗かった道を明るく照らし、その様子を見たフォルムの民達は驚きの声を上げて魔導機器を覗き込んでいる。
フィーナは手伝いもしなかったくせに完成した魔導機器を見て、声を上げている領民達に納得がいかないような表情をしているがジークとシーマは彼女の言葉に呆れたように肩を落とす。
「何でよ?」
「……当たり前だろ。だいたい、フィーナ、お前がいつもやっているような事だろ」
「そ、そんな事、ないですよ。ほら、フィーナさんもいろいろ手伝ってくれているじゃないですか」
2人の反応にフィーナはジークを睨み付ける。
彼女の反応の意味がわからないとジークは呆れたように言い、フィーナの視線はさらに鋭くするとケンカが始まっては困ると思ったノエルは2人の間に割って入った。
「ずいぶんと盛況だね」
「……」
「シーマさん、それだとフィーナと変わりませんよ」
その時、屋敷に戻る途中なのかカインとセスがジーク達を見つけて声をかける。
彼の登場にシーマが顔をしかめるとジークはノエルにいさめられているフィーナを指差す。
シーマはジークの指を追って、フィーナを見た後、眉間に深いしわを寄せてから、無理やり笑顔を作り上げた。
しかし、その笑顔は誰の目から見ても引きつっており、ジークとセスは眉間にしわを寄せ、カインとフォトンは苦笑いを浮かべる。
「それより、ジーク、これはどういう事ですか? このような魔導機器をそろえるだけのお金はありませんよ」
「それなら、大丈夫じゃないかな? これは廃棄になった初期型を修理しているみたいだし」
「わかるのか?」
緩い空気になりそうだったのだが、セスは魔導機器の数から出費が気になったようでジークに詳しい話を聞こうとする。
ジークは困ったように笑った後、費用はさほど掛からないと言おうとするがカインは魔導機器が古い物だと知っていたようで魔導機器を覗き込みながら言う。
彼の言葉にジークは驚きの声を上げるとセスはカインが気づいた事を自分がわからなかったのが悔しいのか真剣な表情をして魔導機器を覗き込む。
「……未だに敵対心を出す時はあるんだな」
「みたいだね。だけど……」
「カイン様、何かあるんですか?」
カインとセスが付き合い始めてからはジークの目には2人は順調に見えていたためか、セスがライバル意識を未だに持っている事に苦笑いを浮かべた。
カインは苦笑いを浮かべた後、まだ、何かあるのか再び、魔導機器を覗き込む。
その様子にセスはカインが何を気にしているかを見つけ出そうと必死になり始めるが、魔導機器の知識が浅い、フォトンはすぐにカインに聞いてしまう。
セスは答えを自力で見つけたいようで余計な事を言うなとフォトンへと鋭い視線を向け、カインは彼女の姿に苦笑いを浮かべる。
「いや、単純にどうやって魔力を供給しているのかと思って、王都はこれを置くために結構、大規模で魔力供給のために必要な魔法陣を敷いているはずだけど」
「そうなのか?」
「うん。フォルムだとそこまでの魔力は必要ないにしてもこの数を起動させるのは難しいと思うよ。でも、アーカスさんと師匠だからね。何か考えがあって準備していると思うけど」
それでもセスを待っている時間はないのかカインは1つ咳をつくと魔導機器を起動させるための魔力供給減が理解できないと言う。
カインの言葉でセスは気が付いたようだが、発言権はないせいか口をつぐんでいる。
魔力供給ができないと聞き、ジークは首を傾げるとカインはアーカスとフィリムが何を考えているかわからないためか、口を出せないとため息を吐いた。
「そう言われると急に不安になりますね」
「……せっかく、取り付けたのに無駄だったとかイヤよ」
「無駄になるかはわからないけど、とりあえず、夜に明るいと良いよね。歩きやすいし」
カインの言葉にシーマはため息を吐き、フィーナはせっかく設置した魔導機器が動かなくなると思ったようで眉間に深いしわを寄せる。
2人の心配にカインは気にする必要はないと笑うと楽観的に聞こえたようで2人は呆れ顔をするがカインが気にする事はない。
「それは確かにそうですね……ただ、あれは困りますね」
「……宴会好きだな。また、怒られるんじゃないか」
「良い機会だ。小僧、研究室に入り浸っている者達を連れて来い」
セスはふくれっ面のまま、頷くが彼女の視界には何かが入ったようで眉間に深いしわを寄せた。
彼女の視線につられてジークが視線を移すと領民達は家から魔導機器の下にお酒を運んできて飲み会を始め出してしまう。
その様子にジークは眉間に深いしわを寄せるがアーカスはその様子を見て、ジークに研究室に入り浸っている魔術学園の研究者達を連れてくるように命令する。
「……どうしてだ?」
「研究室に入り浸っていても何も思いつかない時もある。たまには外に出る事も大切だ」
「そう言うものなのか? 確かにアーカスさんとフィリム先生は好き勝手やっているからな。とりあえず、行ってくるか?」
命令の意味がわからないジークは首を捻った。
アーカスは研究者として、研究員が行き詰っているのではと感じているようである。
ジークは研究者と言う割には外に出て好き勝手にやっている2人の顔を見て、なんとなく意味がわかったようで頷くが何かあるのか歩き出そうとしない。
「……早く行け」
「俺が言って聞くのか? あの人達と会話が成り立つ気がしないんだけど、俺より、アーカスさんやフィリム先生がいけば良いんじゃないか?」
「ほら、行くよ」
その様子にアーカスは冷たく言うが、ジークは研究者達が自分の話しを聞くとは思えないようである。
あまり時間をかけて飲み会に巻き込まれるのを危惧したのかカインはジークの肩を叩き、ジークはため息を吐いた後、2人で歩き出す。




